OECD、租税条約とCOVID-19の影響に関する最新ガイダンスを発表

Japan tax alert 2021年2月12日号

エグゼクティブサマリー

2021年1月21日、経済協力開発機構(OECD)は、「租税条約とCOVID-19感染拡大の影響に関する最新ガイダンス」(最新版のガイダンス)をウェブサイトにおいて公表しました。このガイダンスは、OECD事務局によって2020年4月3日に公表されたガイダンス1(2020年4月版ガイダンス)を再検討した内容となっています。

最新版のガイダンスでは、COVID-19感染拡大により発生し得る租税条約に関連する問題を分析し、納税者の税の確実性を高めることを目的としています。このガイダンスは、OECD事務局による租税条約の規定の解釈への見解を表すものであり、納税者に税の確実性を向上させるために、各国は独自のガイダンスを採用することができます。ただし、各国における一般的なアプローチをガイダンスへ反映することとしています。また、個人と企業におけるCOVID-19の税務上の影響について、複数の国の対処方法を例示しています。 

本ガイダンスでは、次の問題を取り上げています。

  1. 恒久的施設
  2. (実質的な管理支配地に基づく)企業および個人の居住性判定
  3. 給与所得の取扱い

最新版のガイダンスでは、2020年4月版ガイダンスでは詳述されなかった追加の事実パターンがいくつか示されています。また、現在の状況が相当期間続く場合に、引き続き2020年版の分析と結論が適用されるのかを検討するとともに、COVID-19の感染が拡大する中での各国の実務慣行とガイダンスが参照されています

恒久的施設と企業の居住性判定に関する詳細解説

背景

OECDは、COVID-19危機に対応する政策の重要分野について様々な資料をウェブサイトに公開しています。
2020年4月3日、OECD事務局はそのウェブサイトで「COVID-19の租税条約と課税に与える影響に関する分析」(2020年4月版ガイダンス)を公表しました。2020年4月版ガイダンスでは関連のある税条約の規定を検討し、COVID-19感染拡大により、労働者の間で国境を越えて生じた混乱が税務に与えた影響についてガイダンスが示されました。
2020年12月18日、OECDは、COVID-19感染拡大が移転価格へ与えた影響に関するガイダンスを公表しました。この最新版のガイダンスでは、COVID-19感染拡大を背景として生じ得る問題に、独立企業原則とOECD移転価格ガイドラインをどのように適用するかに焦点を当てています。

OECD事務局による「COVID-19の租税条約と課税に与える影響に関する分析」最新版

2021年1月21日、OECDは、最新のガイダンスにおいて2020年4月版ガイダンスでは詳細が記載されなかった追加の事実パターンを発表しました。本ガイダンスでは、OECDモデル租税条約(以下、「モデル条約」)に基づいて分析が行われていますが、国連モデル条約も1か所参照されています。同ガイダンスは、COVID-19感染拡大という例外的な状況下においても、納税者へより高い税の確実性の提供を目的としていますが、OECD加盟国の公式見解を表すものではありません。つまり、納税者に税の確実性を提供するために、各国が独自のガイダンスを採用する場合があることを示唆しています。しかし、ガイダンスでは自国における一般的なアプローチを反映することを前提とし、COVID-19が税務に与える一定の影響に対して、各国がどのように対処しているのかを示しています。さらに、2020年4月版ガイダンスとは対照的に、最新のガイダンスでは、包摂的枠組みにおけるOECD作業部会で協議が行われ1、その支持を受けた上で公表されています。
さらに、本ガイダンスは、COVID-19感染拡大による公衆衛生対策が実施されているという特異な状況においてのみ関連するものであると明記しています。これは、二重課税の回避を目的としており、双方が非課税となることを担保するものではないと示しています。

恒久的施設認定に関するリスク

最新のガイダンスは、2020年4月版ガイダンスと同じタイプの恒久的施設(PE)の問題を取り上げています。全体的な結論は変わりませんが、2020年4月版ガイダンスと比較するといくつか違いがあります。

  • ホームオフィスPE:2020年4月版ガイダンスから引き続き最新版のガイダンスでも、公衆衛生対策として少なくとも1つの関係国政府から要求もしくは推奨されたことにより、個人が自宅(ホームオフィス)で在宅勤務をする場合には、企業や雇用者の事業を行う一定の場所としてのPEを創出しないことが明確化されています。しかし、今回のガイダンスでは、個人がホームオフィスで在宅勤務を行うのが、COVID-19感染拡大に対する公衆衛生対策のためであるという点に着目し詳しく述べています。公衆衛生対策のための在宅勤務は特別な事象であり、雇用者による要請ではありません。したがって、COVID-19感染拡大の特殊性を考慮すると、この在宅勤務は十分な永続性や継続性を欠いた活動であり、またホームオフィスは企業の自由裁量で使用できるものではないため、企業や雇用者のPEとはなりません。最新版のガイダンスは、この点に関して、公衆衛生対策を実施する必要がない場合には、企業は通常通り従業員が利用するオフィスを提供しているであろうことを指摘しています。これは、一時的な勤務地が個人の自宅であるか、主たる居住地ではない他の国の一時的な住居であるかに関係なく適用されます。
    また、最新版のガイダンスでは、公衆衛生対策が必要なくなった後に、個人が在宅勤務を続ける場合には、ホームオフィスはある程度の永続性を持っていると見なされる可能性があると述べています。ただし、この点だけでは、必ずしもホームオフィスが事業を行う一定の場所としてのPEに認定されるとは限りません。ホームオフィスが企業の自由裁量で使用できると見なされるかどうかを判断するために、事実と状況をさらに調査する必要があります。
  • 代理人PE:2020年4月版ガイダンスと同じく、最新版ガイダンスは、COVID-19危機下で在宅勤務をする従業員または代理人が、企業に代わって契約の締結を反復して行わない場合には、代理人PEを構成する可能性は低いと結論付けています。従業員または代理人の活動は、公衆衛生対策として政府から要求または推奨されたために、その者が自宅で例外的に働き始め、公衆衛生対策が不要となった後にそれらの活動を継続しない場合、「反復的」と見なされるものではありません。ただし、従業員がCOVID-19感染拡大の以前から自国で企業に代わって反復的に契約を締結していた場合は、上記とは異なるアプローチが適切な場合があると述べています。
    2020年4月版ガイダンスとは対照的に、今回のガイダンスでは、公衆衛生対策が不要となった後も従業員が在宅勤務を続け、企業に代わって反復的に契約を締結する場合は代理人PEとなる可能性が高くなるとされています。この点の分析においてOECDモデル条約第5条に関するコメンタリーのパラグラフ28から30で検討されている要素が重要であるとしています。これらのパラグラフでは、6か月未満であれば、特定の国の特定の場所で持続的に事業が行われていても、経験則上、通常はPEが存在するとはみなされないとしています。さらに、永続性および全ての活動がその国で実施されているかどうかの評価に際して、事業活動の再発性が重要であるとされています。 
  • 建設PE:最新のガイダンスは、2020年版に沿って建設現場の作業が一時的に中断された場合でも、建設PEが存在しなくなったとはみなされないと結論付けています。ただし、COVID-19感染拡大の異常事態や現状に基づいて、建設現場の所在国の政府によってCOVID-19ウイルスの蔓延を軽減するために要求または推奨された公衆衛生対策を実施したために、操業が妨げられた期間については、建設PEを認定する期間の閾値計算から除外すべきかどうかを各国が検討することができます。したがって、ある国では、COVID-19によって操業が中断された期間が建設PEの期間閾値の計算に含まれ、他の国では除外される場合があります。これによって租税条約の当事者間でポジションが異なってくる可能性があります。この点に関して最新のガイダンスは、同ガイダンスが双方非課税の事例を担保するものではないと繰り返し述べています。
  • 各国によるガイダンス:今回のガイダンスには、オーストラリア2、オーストリア3、カナダ4、ドイツ5、ギリシャ6、アイルランド7、ニュージーランド8、英国9および米国10が発表したPE認定に関するガイダンスが例示されています。
    2020年4月版および最新版いずれのガイダンスも、サービスPEの問題を個別に取り上げていない点には留意が必要です。

企業(実質的な管理地に基づく)の居住性判定変更のリスク

最新版のガイダンスは、COVID-19危機が条約上の企業の居住性判定に影響を与える可能性は低いとしており、これは2020年4月版のガイダンスとほぼ一致しています。さらに、2020年4月版ガイダンスと同様に双方居住者の問題を取り上げています。最新版のガイダンスには、オーストラリア、カナダ、ギリシャ、アイルランド、ニュージーランド、英国および米国が発表した企業の居住地変更に関するガイダンスを例示する新しいセクションも含まれています。

今後の影響

最新のガイダンスでは、COVID-19感染拡大の長期化によって発生した条約に関連する問題の解決に役立つような分析を示し、納税者に対して税の確実性を高めることを目的としています。このガイダンスは情報提供のみを目的としており、OECD加盟国の公式見解を表すものではないことに留意する必要があります。また、最新版のガイダンスにおける分析はOECDモデル条約と特定のPEシナリオのみを対象としていることにも留意が必要です(サービスPEの問題などは特に取り上げられていません)。二国間の租税条約の規定はOECDモデル条約とは異なる可能性があり、特定の状況で結果を分析する際にはそういった違いを考慮する必要があります。
注目すべきは、最新版のガイダンスにおける表現が2020年4月版のガイダンスよりも明確であることです。たとえば、最新版のガイダンスでは、COVID-19感染拡大によって、例外的かつ一時的に従業員の勤務地が変更された場合には、雇用者の新しいPEは「創出されるべきではない」としていますが、2020年4月版ガイダンスでは、PEの創出は「あり得ないであろう」とされていました。このように、最新版のガイダンスでは、より明確かつ確実に記載されています。

OECDの最新版ガイダンスと各国のガイダンスに不一致がある場合には、同じ状況であっても異なる課税ポジションとなり得ます。納税者は関連する国々のガイダンスを注意深くモニターし、ビジネスへの潜在的な影響について評価することが必要です。
EYでは、約140か国におけるCOVID-19感染拡大に対応した税務政策の変更情報をトラッカーとして適時提供しています。

※本アラートの詳細は、下記PDFからご覧ください。


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