Japan tax alert 2020年4月1日号
新型コロナウイルスの感染拡大抑止策として施行されている他人と一定の距離を保つ「Social Distancing」や自宅待機命令「Shelter-in-Place」の拡大に伴い急激に冷え込む米国景気刺激策の一環として、「Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act(CARES Act)」が2020年3月27日米国連邦議会で可決され、同日トランプ大統領の署名により成立しました。
CARES Actは3月6日に可決された医薬研究・開発、公共衛生機関支援等を目的とした補正予算、3月18日に可決された「ファミリー・ファースト新型コロナウイルス対策法(The Families First Coronavirus Response Act)」に続く対策法の第3弾となります。また、3月13日には、トランプ大統領が「国家非常事態」宣言を行い、従業員負担の特定支出を雇用者が非課税で補填することが認められ、新型コロナウイルス関係の支出への適用が可能となっています。CARES Actは2兆ドルに上る米国史上最大規模の景気刺激策ですが、早々に第4弾の導入が必要となる可能性が指摘されています。
CARES Actには、税制関連の規定の他に、雇用継続援助、失業保険拡充、事業主に対する貸付を通じた資金流動性の確保、深刻な打撃を被っている産業に対する公的支援、医学・ワクチン・医療機器分野に対する集中投資等の多岐に亘る救済策が含まれています。
CARES Actに規定される主な税制関連規定は次の通りです。
個人所得税
「2020 Recovery Rebate」
- 2020年の個人所得税確定申告時に「適格個人」1人当り1,200米ドル、「適格子女」1人当り500米ドルの還付可能税額控除を与える。ただし、後述の前払還付を受け取る者は、前払還付の額をもって税額控除を減額。ただし、減額後の税額控除はゼロを下限とするため、結果として前払還付または税額控除のいずれかを通じて恩典を享受することができる。
- 調整後総所得(AGI)が75,000米ドル(単身)、112,500米ドル(世帯主)、150,000米ドル(夫婦合算)を超える場合、支給額は超過額の5%をもって減額。結果としてAGIが99,000米ドル(単身)、174,000米ドル(夫婦合算)以上の場合には、2020 Recovery Rebateの恩典はない。
- 「適格個人」は他の納税者により扶養家族として取り扱われていない米国市民および米国居住者(グリーンカード所有者、税務上の物理的テスト充足者)。
- 「適格子女」は、納税者と年の半分超同居し、生活費の半分超を子女本人が自己負担していない16歳以下の米国市民または米国居住者(グリーンカード所有者、税務上の物理的テスト充足者)。
- 2019年の個人所得税確定申告書に基づき、仮に2019年に2020 Recovery Rebate規定が適用されれば受領可能な税額控除額を財務省が速やかに無金利で還付(前払還付)する(未払税金がある場合には相殺)。
- 前払還付は、2018年または2019年の申告書に納税者が振込用の銀行口座情報を記載していた場合には、財務省が自動的に銀行振り込みにより実施。
- 2019年に申告書を提出していない納税者に関しては、代わりに2018年の所得税確定申告に基づき同様の処理を行う。
- 2018年も申告書を提出していない納税者に関しては、社会保障ベネフィット支払額報告書(様式SSA-1099)または鉄道従業員退職年金ベネフィット支払額報告書(様式RRB-1099)に基づき同様の処理を行う。
適格退職プランからの引き出し
- 新型コロナウイルス関連の早期引出は年間100,000米ドルを上限に10%ペナルティ対象から除外。適格早期引出はプランの適格性に影響を与えない。
- 早期引出後、3年以内にプランに再拠出する場合、適格プラン間の適格ロールオーバー資金移管として取り扱う。またロールオーバーしない場合には、課税所得を3年間に分けて等額認識することが認められる。
- 次のいずれかに該当する者については、2020年中の引き出しは新型コロナウイルス関連と認められる。
- SARS-CoV-2またはCOVID-19感染と診断された者。
- 配偶者または扶養家族がSARS-CoV-2またはCOVID-19感染と診断された者。
- 新型コロナウイルス蔓延に伴う検疫、人員削減、勤務時間短縮、営業停止、営業時間短縮、または財務省が今後定めるファクターにより、経済状況が悪化している者。
- 雇用者が提供する適格退職金プランからの新型コロナウイルス関連の借入可能枠を50,000米ドルから100,000米ドルに拡大し、返済期限を延長。
- 適格確定拠出型プランまたはIRAについては、2020年の最低引出義務の適用を停止。
公認慈善団体への寄付金控除
- 2020年に標準控除を選択する個人が特定の公認慈善団体に対して行う現金による寄付については、300米ドルを上限に「Above-the-Line」控除(個別控除を選択しないでも課税所得を減額できる)を認める。
- 2020年に行われる公認慈善団体に対する現金による寄付については、控除制限枠の適用を停止。ただし、AGIから他の寄付金控除を差し引いた金額を上限とする。
学費ローンの雇用者による代理弁済
- 2020年に雇用者が従業員に代わって行う学費ローンの返済や利払いを従業員側の課税所得から除外。ただし、雇用者が負担する支払利息に関して、従業員が個別控除を受けることは認められない。
事業者関連
雇用継続税額控除
- 「適格雇用者」が各四半期に負担する「適格賃金」の50%相当を当該四半期の雇用者負担分の社会保障税から税額控除として減額。
- 税額控除はFamilies First Coronavirus Response Act等で規定される他の控除を差し引いた雇用者負担分の社会保障税額が上限となるが、超過額は雇用者の他の税債務と相殺後、還付対象となる。
- 「適格雇用者」とは、該当四半期内に新型コロナウイルス関連の活動規制命令に伴い事業活動の縮小を余儀なくされた者(「事業活動制限基準」)、または2020年1月以降、前年同四半期比売上が50%未満となる者(「売上減基準」)。なお、後者に関しては、その後前年同四半期比売上が80%超に回復した四半期をもって適用終了。
- 「適格賃金」とは、2019年の平均フルタイム当量(常勤換算)従業員数100人超の雇用者については事業活動制限基準または売上減基準を満たす期間に役務提供を停止している従業員に対する賃金、同従業員数100人以下の雇用者については事業活動制限基準を満たす期間に生じる賃金全額または売上減基準を満たす四半期に生じる賃金全額。なお、いずれの場合も、「適格賃金」は四半期毎に各従業員10,000米ドルを上限とする。
雇用者負担分の社会保障税の支払繰延
- 2020年3月27日以降、同12月31日以前に生じる雇用者負担分の社会保障税の納付期限を50%は2021年12月31日、残り50%は2022年12月31日に延期。
- 個人事業主が負担する自営業税の半額(みなし雇用者負担額相当)についても同様に納付期限を延期。
- 小規模事業主救済策の一環として債務免除を受けた事業主には不適用。
繰越欠損金(NOL)の繰り戻し容認と使用制限緩和
- 2018年1月1日以降、2020年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOLに関して5年間の繰り戻しを認める。
- REITが認識するNOLは繰り戻し対象とならず、またREIT以外の事業主体が認識するNOLをREIT年度に繰り戻しすることは認められない。
- 海外留保所得一括課税(「Transition Tax」)を認識している課税年度には繰り戻しをしない選択が認められる。
- 2018年1月1日以降、2020年12月31日以前に開始する課税年度にNOLが繰り越される、または繰り戻される場合、繰越・繰戻欠損金控除の上限を繰越・繰戻対象年度の課税所得の80%とする「80%当期課税所得制限」を不適用。
- 同様に2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLが2017年12月31日以前に開始する課税年度に繰り戻される場合、「80%当期課税所得制限」を不適用。
- 2021年1月1日以降に開始する課税年度における使用可能NOLは、2017年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOL全額(「旧法NOL」)プラス2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLのうちNOL使用年度の課税所得(199A条および250条を適用せずに計算)が旧法NOLを超過する額の80%を超えない金額であることを明確化。
2017年税制改正NOL規定法文の修正
- 「80%当期課税所得制限」は、「2018年1月1日以降に開始する課税年度に適用」とだけ規定されていた従来の法文に加え、「2018年1月1日以降の課税年度に発生するNOLが2017年12月31日以前の課税年度に繰り戻される際にも適用」と追記。ただし当該法文修正は上述の、CARES Actによる80%当期課税所得制限の適用停止によりオーバーライドされるため、あくまでも2017年12月22日可決時点の法文修正という意味しか持たない。
- NOL繰戻撤廃、NOL繰越期限撤廃、農業および保険業にかかわるNOL特別規定は、「2018年1月1日以降に『終了』する課税年度より適用」と規定されていたが、「2018年1月1日以降に『開始』する課税年度より適用」と修正。この変更により影響を受けるNOL(すなわち、2017年12月31日以前に開始し、2018年1月1日以降に終了する課税年度に生じるNOL)については、2020年3月27日から120日以内に繰り戻しまたは繰り戻し放棄の選択をすれば、申告期限内に当該処理を実行したものと認められる。
- NOL繰戻規定が農業および保険業に係わるNOLにも適用されることを明確化。
- NOL繰越規定に2017年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOLには20年の繰越期限があることを追記し明確化。
- これらの法文修正は、2017年12月22日に成立したTCJAに当初から規定されていたのと同様の効果を持つ。
個人事業者およびパートナーの損失使用制限
- 個人事業者およびパートナーの農業以外の事業から生じる損失の使用制限の適用開始時期を「2018年1月1日以降に開始する課税年度」から「2021年1月1日以降に開始する課税年度」に変更。
過年度の法人代替ミニマム税(AMT)税額控除による還付の加速
- 従来、法人が過年度に支払ったAMTについては、2018年から2021年の4年にわたり税額控除による還付が認められていたが、還付期間を暦年2018年および2019年中に開始する課税年度2年に短縮。原則として、通常のAMTクレジット計算後に残るAMT残高の50%を暦年2018年中に開始する課税年度、残高全額を暦年2019年中に開始する課税年度に還付。
- 納税者の選択により、AMT残高の全額を暦年2018年中に開始する課税年度に還付申請することもできる。
163条(j)の支払利息損金算入制限緩和
- 暦年2019年中または暦年2020年中に開始する課税年度のネット支払利息は、「修正後課税所得(ATI)の50%」および「Floor Plan Financing支払利息」の範囲内で損金算入が認められる。「ATIの30%」という通常の制限規定を2年間緩和。
- 163条(j)の支払利息損金算入制限はパートナーシップレベルでも適用されるが、暦年2019年中に開始するパートナーシップ課税年度には50%の制限緩和規定は適用されず、引き続き30%の制限規定が適用される。暦年2019年中に開始するパートナーシップの課税年度にパートナーシップレベルで163条(j)に基づく損金算入制限が生じる場合、各パートナーに配賦される損金不算入支払利息の50%は、パートナーの暦年2020年中に開始する課税年度の支払利息として取り扱い、163条(j)の制限の対象外とする。残りの50%は通常の規定通り、パートナーシップから配賦される超過課税所得(Excess Taxable Income)に基づく163条(j)の制限適用対象となる。パートナーはこの「50%・50%規定」の不適用を選択することができ、その場合は、パートナーシップから配賦される損金不算入支払利息全額について通常の超過課税所得に基づく制限規定が適用される。
- 暦年2020年中に開始する課税年度に163条(j)を適用する際、当該年度のATIの代わりに暦年2019年中に開始する課税年度のATIを使用する選択が認められる。パートナーシップも当該選択の適用が可能だが、その場合の選択はパートナーシップレベルで行う。暦年2020年中に開始する課税年度が12カ月未満の短期課税年度となる場合、2019年のATIも同期間に対応するよう期間按分し使用する。
適格内装費の法定償却期間に係わる法文修正
- 商業用建物が初めて事業用途に供された後に発生する適格内装設備改装費に係わる法定耐用年数を15年(クラスライフは20年)と修正。この修正により、適格内装設備改装費は即時償却の対象となる。この修正は、2017年12月22日に成立したTCJAの当初の立法意図に沿って法文上の記載エラーを修正するもの。
アルコール物品税(Excise Tax)の免除
- 2020年1月1日以降同12月31日以前に蒸留され、連邦食品医薬品局(FDA)の基準に基づきSARS-CoV2およびCOVID-19対策の一環としてハンドサニタイザーの製造に使用されるアルコールは物品税の対象から除外。
You are visiting EY jp (ja)
jp
ja