自動車産業 第4回:ディーラーの事業・会計処理の特徴

EY新日本有限責任監査法人 自動車セクター
公認会計士 魚橋直子/金子侑樹/河原寛弥/児島惇彦

1. はじめに

第4回は、自動車産業のうちディーラー(販売会社)における事業および会計処理等の特徴について解説します。

なお、意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。また、本文中では、「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」について、「収益認識基準」として、「収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号)」について、「収益認識適用指針」として、記載しています。
 

2. ディーラーにおける事業の特徴

ディーラーは、自動車を完成車メーカーから仕入れ、最終顧客であるユーザーに販売する事業体で、日本全国において約1,500社(系列販売店協会を含む、一般社団法人日本自動車販売協会連合会2020年パンフレットより)が事業活動を行っています。わが国においては、特定の完成車メーカーの自動車を取り扱うケースが一般的で、国内完成車メーカーの系列ディーラーのほか、輸入車を取り扱うディーラーが存在します。ディーラーの事業の主な特徴として、以下の点を挙げることができます。

(1) 収益構造

ディーラーにおける主な会計処理の特徴として、次の点を挙げることができます。

  • 車両(新車・中古車)の販売

  • 用品の販売および用品の取付サービスの提供

  • その他の手数料収入(登録代行手数料やクレジット手数料、保険代理手数料等)

  • サービス業務(点検整備・修理等)の提供

自動車は、製品の性質上、公道において不特定多数のユーザーに利用され、走行中に事故や公害を引き起こす可能性を内在しています。また、自動車は、走行距離や時間の経過とともに劣化・摩耗する部品等が多く使用されています。そのため、ユーザーは適切な保守管理を行い、自動車を常に良好な状態で使用することが求められます。ディーラーの主な収益の源泉は自動車の販売ですが、同時にユーザーによる保守管理をサポートするサービス業務も重要な収益の源泉となっています。

なお、管理上は、新車販売、中古車販売、サービス業務に区分して管理されるケースが一般的です。

(2) 新車売上

ディーラーは、完成車メーカー(または輸入業者)から車両を仕入れ、また、用品メーカーから用品を仕入れ、ユーザーに販売します。この時、ディーラーは、車両の車検登録の代行、クレジット(自動車ローン等)の斡旋、自動車保険の代理仲介を行う場合があります。

また、ディーラーは、完成車メーカー(または輸入業者)から一定の条件のもとさまざまな名目の販売奨励金(インセンティブ)を受けとることがあります。特に、自動車業界においては、新車登録台数を主要な業績指標として重視する業界慣行があり、完成車メーカーは、登録台数を基礎としてディーラーへの販売奨励金(インセンティブ)を算定することで、ディーラーに登録台数の増加を促す実務がみられます。

なお、ディーラー自身が所有者となって車両の登録を行い使用することがあります。このようにしてディーラー自身が登録した車両は、主に、デモカー(展示用・試乗用車両)として販売活動の中で使用される場合や、修理時の代車として利用される場合があります。

(3) 中古車売上

ディーラーは、中古車を、新車販売時の下取り、オークションでの仕入、自社使用車両(デモカー等)の転用などにより取得します。このとき、ディーラーが中古車事業を営んでいる場合、取得した中古車をユーザーや他の中古車業者に販売します。また、中古車オークションに出品し、売却する場合もあります。

(4) サービス売上

サービス売上には、車両の点検整備(消耗品の交換を含む)のほか、車両に不具合が生じた場合の修理等による売上が含まれます。具体的には、自動車検査(車検)、法定点検や一定のサイクルで実施する自主点検、完成車メーカーによるリコールに対応するための整備、事故等の修理対応などが含まれ、案件によって取引の規模や内容はさまざまです。

なお、事故等で破損した車両の修理対応時は保険の適用を受ける場合がありますが、事前確認が十分でないうちに修理を実施した場合や保険協議が不調となった場合など、修理代の回収遅延や回収不能となるケースもみられます。
 

3. ディーラーにおける会計処理等の特徴

ディーラーにおける主な会計処理の特徴として、次の点を挙げることができます。

(1) 新車売上

車両(新車)の販売

従来、ディーラーが新車販売に係る売上を計上する場合、国内では、陸運局における車検登録時に売上を計上する登録基準を採用しているケースと、ユーザーに対して車両を納車したときに売上を計上する納車基準を採用しているケースなどがみられました。

収益認識基準においては、収益(売上)は、財またはサービスに係る支配が顧客に移転した時に認識することとされており、車両に対する支配の移転がどの時点なのかについて、判断する必要があります。この点については、収益認識基準に関する公開草案が公表された時に、一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)が、わが国における会計基準の設定主体である企業会計基準委員会に対して、ユーザーが支配を獲得する時点は車両登録時であることを明確化するようにコメントを提出しました。このコメントに対して、企業会計基準委員会は、収益認識基準の公表に当たり、ディーラーがユーザーに車両を販売する契約に関してどの時点で収益を認識するかは、収益認識基準の一般規定にしたがって、ユーザーとの契約内容等に基づく判断により決定されるものとして、追加的なガイダンスの記載を行わないと回答しています。

実務において、ディーラーごとに納車までオペレーションが異なる状況もみられており、各社のオペレーションを前提として、どの時点で車両に対する支配がユーザーに移転するかについて、資産に対する支配の移転に関する五つの指標(収益認識基準40項)等に照らして、慎重に判断する必要があります。

※資産に対する支配を顧客に移転した時点を決定する際に検討する五つの指標(収益認識基準40項)

(1) 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること
(2) 顧客が資産に対する法的所有権を有していること
(3) 企業が資産の物理的占有を移転したこと
(4) 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること
(5) 顧客が資産を検収したこと

なお、納車時よりも前の時点で売上を計上する場合など、売上処理とモノの動きが一致せず、決算期末において、売上済未引渡しの車両が存在する場合、収益認識基準において請求済未出荷契約に該当する場合が考えられます。請求済未出荷契約とは、「企業が商品または製品について顧客に対価を請求したが、将来において顧客に移転するまで企業が当該商品または製品の物理的占有を保持する契約」とされており(収益認識適用指針77項)、請求済未出荷契約に該当すると判断した場合は、請求済未出荷契約に関する追加的な検討を行い、売上の計上が適切かどうか、決算日ごとに検証する必要があります。

このとき、請求済未出荷契約に関して収益を認識するために検討すべき、四つの要件は、以下のとおりです(収益認識適用指針79項)。

(1) 請求済未出荷契約を締結した合理的な理由があること
(2) 車両が、ユーザーに属するものとして区分して識別されていること
(3) 車両について、ユーザーに対して物理的に移転する準備が整っていること
(4) 車両を使用する能力あるいは他のユーザーに振り向ける能力を企業が有していないこと

車両の販売に付随する取引

新車販売に関連して、ディーラーは、クレジット(自動車ローン等)の斡旋、自動車保険の代理仲介を行う場合があります。これらの取引について、ディーラーが本人(契約の主たる当事者)として取引を実施する場合を除き、手数料収入部分のみを売上として認識する必要があります。また、例えば、車両の登録を代行する場合でユーザーから登録費用を受領する場合など、顧客から第三者のために回収する金額がある場合、それらの金額は車両の売上高に含めることができない点に留意が必要です。

販売奨励金(インセンティブ)

従来、完成車メーカー(または輸入業者)から受け取る販売奨励金(インセンティブ)については、売上として計上される場合や仕入価格の控除とされる場合など、さまざまな会計実務がみられました。

収益認識基準においては、販売奨励金(インセンティブ)の性質に基づき、会計処理を検討する必要があります。例えば、車両の販売台数と連動して決定される販売奨励金(インセンティブ)など、実質的な仕入価格の値引きと考えられる部分は仕入価格の控除とする場合が考えられます。また、ディーラーの特定の販売活動のサポートを受けた場合で、費用との対応関係が明確な場合は販売費用の控除とする場合なども考えられます。なお、販売奨励金(インセンティブ)は、ユーザー(顧客)から収受する代金ではなく、仕入先(完成車メーカー等)から収受する金額であることから、顧客からの契約に基づく収益(売上)の定義をみたさないことが考えられます。販売奨励金(インセンティブ)の性質によっては、顧客からの契約に基づく収益以外の収益として取り扱われることも考えられますが、この場合は、損益計算書において、顧客からの契約から生じる収益と区分して表示、または、注記する必要があります(収益認識基準78-2項)。

自家登録車両

ディーラー自身が所有者となって車両の登録を行い使用する場合、棚卸資産(新車)勘定から固定資産勘定等、実態に応じた勘定科目に振替えるとともに、固定資産勘定であれば、合理的な耐用年数の見積りに応じて減価償却を行うことになります。

(2) 中古車売上

車両(中古車)の販売

中古車売上の認識時点について、ユーザー向けの中古車の販売に関しては、新車販売と同様の取扱いとなると考えられます。

中古車業者向けの販売については、一般的な卸売事業と同様、従来は出荷基準や引渡基準で売上を計上するケースがみられました。収益認識基準においては、中古車に対する支配が移転する時に収益(売上)を認識することになりますが、国内販売を前提とすると、中古車業者に引渡した時に支配が移転する場合であっても、代替的な取扱いを適用することにより、出荷基準による収益(売上)の計上が引き続き可能となる場合も考えられます。

中古車オークションでの売却について、従来は、成約時や引渡時において収益(売上)を計上するケースがみられていました。実務上は、成約時や引渡時を確認するための帳票としてオークションの主催者が発行した精算書を使用し、売上を計上するケースが多いようです。一方、収益認識基準においては、他の中古車の商流と同様、オークションに出品された中古車に対する支配が落札者に移転した時点で収益(売上)を認識することになります。引き続き、成約時や引渡時に収益(売上)を認識するためには、オークション会場における取引規定や支配の移転に関する個別の落札者との合意の有無等を考慮して、成約時や引渡時で支配が移転しているかについて確認する必要があります。

中古車在庫の評価

中古車の場合、実務においては、ユーザーからの下取りとして中古車を引き取った場合など、新車の値引き名目額を抑える代わりに新車販売の値引き分を含めて下取りをするケースが考えられます。下取り価格に新車に対する実質的な値引き相当額が含まれている場合は、下取り価格に含まれる値引き相当額を中古車の評価額から減額し、新車の売上高から控除する必要があります(収益認識基準適用指針30項)。

また、中古車については、新車と比較して、マーケットの影響を相対的に受けやすい性質があるため、下取り(または取得)後、期末日までに当該車両の市場価格が下落した場合など、期末の中古車在庫の帳簿価額がと期末時点の市場価格に乖離が生じる可能性があります。したがって、期末時に在庫となっている中古車については、収益性の低下を評価に反映させる必要があるかどうか、追加的な検討を行い、必要な会計処理を検討する必要があります。

なお、新車と異なり中古車の時価は、年式や型式、使用頻度や保全状況が車両によって異なるため、画一的な評価基準を設けることが難しいとされます。評価額の見積りにおいては、個別の車両ごとに現車の査定を行う方法のほか、過去の売買事例やオークション相場を参照する方法や過去の実績等に基づき一定の仮定に基づき算定する方法が用いられています。

(3) サービス売上

サービスの提供

サービス売上は、従来、代金を得るために必要な作業等が完了した時点で売上を計上する方法(作業等完了基準)やユーザーが検収した時点で売上を計上する方法(検収基準)などがみられていました。収益認識基準においては、サービスの提供に応じて収益(売上)を認識することが考えられますが、点検整備などの取引を中心に同日日内で作業が完了し、また、その場でユーザーの検収を受けられるケースも多いことから、重要性の観点から、実務上は、従来の取扱いが認められることも考えられます。

一方、大幅な修理や改造などのケースで、サービスの提供期間が期末日をまたぐ取引については、期末日までに既に作業が完了している部分について収益(売上)を認識すべきかどうか、慎重に判断を行う必要があります。

なお、サービスに関する契約の中には、単一の契約に複数の履行義務(ディーラーとユーザーの約束)が含まれている場合があります。例えば、法定点検と事故対応修理を同時に合意し、一つの契約書(発注書)でユーザーと合意した場合などです。このような場合、契約の単位に関わらず、取引の実態に応じて、複数の履行義務を一体として会計処理するのか、別個の履行義務としてそれぞれ会計処理を行うのか、判断する必要があります。上記の例示の場合、法定点検と事故対応修理には相互の関連性が乏しく、それぞれ別個の取引と考えられるため、区分して会計処理することが適切と考えられます。

メンテナンスパッケージ

ディーラーは、新車販売時などに、一定期間または一定項目の点検整備等を組み合わせたメンテナンスパッケージをユーザーに販売し、その代金を前受けすることがあります。前受けした代金を前受金として計上し、その後の期間において、約束した点検整備等を実施するに応じて収益(売上)を計上することになります。この時、前受けした代金について、ディーラーに返金の義務がない場合で、ユーザーが車両を持ち込まない等により前受金に対するユーザーの権利の失効が合理的に見込まれる場合は、失効による前受金の取崩しの影響を、サービスを提供する期間にわたり、合理的に配分して、収益(売上)の金額に反映することになります。


参考資料


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