収益認識の開示 第5回:収益認識に関する注記 -当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報②

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 加藤 大輔

1. はじめに


改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」という)においては、収益認識に関する注記として、「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」を注記することを求めています(収益認識会計基準80-5項)。当該注記においては、次の項目を記載することとなります。


③ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

  • 契約資産及び契約負債の残高等(収益認識会計基準80-20項)
  • 残存履行義務に配分した取引価格(収益認識基準80-21項~24項)

今回は、2つ目の「残存履行義務に配分した取引価格」(以下、「残存履行義務の注記」という)について解説します。
 

2. 残存履行義務の注記


残存履行義務の注記においては、既存の契約から翌期以降に認識することが見込まれる収益の金額及び時期について理解できるように、次の事項を注記する必要があります(収益認識会計基準80-21項)。


① 当期末時点で未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額

② ①に従って注記した金額を、企業がいつ収益として認識すると見込んでいるのか、 次のいずれかの方法により注記する。

i. 残存履行義務の残存期間に最も適した期間による定量的情報を使用した方法

ii. 定性的情報を使用した方法


(1) 残存履行義務に配分した取引価格の総額の注記

残存履行義務の注記においては、当期末時点で未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格がある場合、その総額を注記する必要があります(収益認識会計基準80-21項(1))。当該注記は、投資家向けの情報(IR)や有価証券報告書における「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」等を通じて記載される受注実績等の情報と類似していますが、当該情報に含まれる契約の範囲や金額の算定方法は必ずしも明確ではないため、他の企業との比較可能性等の観点から、注記が求められることとなりました(収益認識会計基準194項)。

なお、企業が複数の事業を営んでおり、その一部の事業において、日常的に長期の契約を締結しているような場合においては、特定の分解区分又は特定のセグメントに関する残存履行義務についてのみ当該注記に含め、当該注記に含めた分解区分等を注記することが考えられます(収益認識会計基準205項)。

(2) 残存履行義務に配分した取引価格の収益を見込む時期の注記

当期末時点で未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格がある場合、その総額の注記に加えて、その金額を企業がいつ収益として認識すると見込んでいるのかを定量的又は定性的に注記(図表1参照)することが求められています(収益認識会計基準80-21項(2))。

図表1 残存履行義務に配分した取引価格の収益を見込む時期の記載方法

図表1 残存履行義務に配分した取引価格の収益を見込む時期の記載方法

(3) 残存履行義務の注記に係る実務上の便法と当該便法を適用した場合の注記

残存履行義務の注記においては、当該注記の作成コストに対する負担を軽減する等の観点から、次の①~③のいずれかの条件に該当する場合には、当該注記に含めないことができるとする実務上の便法が設けられています(収益認識会計基準80-22項)。

① 当初に予想される契約が1年以内の契約であるケース

履行義務が、当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である場合には、残存履行義務の注記から除外することが認められています(収益認識会計基準80-22項(1))。特に短期の受注に応じて商品又は製品を販売するような企業にとっては、実務負担の大幅な軽減になると考えられます(収益認識会計基準197項)。

当該条件に該当し、残存履行義務の注記に含めていないものがある場合には、当該条件に該当している旨とその履行義務の内容を注記する必要があります(収益認識会計基準80-24項前段)。

② 収益認識適用指針19項の実務上の便法を採用しているケース

現在までに企業の履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受け取る権利を有している場合(たとえば、提供したサービスの時間に基づき固定額を請求する契約等)に、請求する権利を有している金額で収益を認識している場合(すなわち、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識適用指針」という)第19項の実務上の便法を適用している場合)には、当該取引について残存履行義務の注記から除外することが認められています(収益認識会計基準80-22項(2))。これは、収益認識適用指針第19項の実務上の便法を適用している(すなわち、取引価格の総額を算定する必要がない)契約について、注記のみのために取引価格の総額を算定することの便益は限定的であると考えられたため、設けられた規定です(収益認識会計基準200項)。

当該条件に該当し、残存履行義務の注記に含めていないものがある場合には、当該条件に該当している旨とその履行義務の内容を注記する必要があります(収益認識会計基準80-24項前段)。

③ 所定の条件を満たす変動対価であるケース

次のいずれかの条件を満たす変動対価である場合には、残存履行義務の注記から除外することが認められています(収益認識会計基準80-22項(3))。


i. 売上高又は使用量に基づくロイヤルティ

ii. 収益認識会計基準72項の要件に従って、完全に未充足の履行義務(あるいは収益認識会計基準32項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つの別個の財又はサービスのうち、完全に未充足の財又はサービス)に配分される変動対価


これは、収益の認識時点で変動対価の見積りが要求されていないものにつき、注記のみのために見積りが要求されることになることを回避するため、設けられた規定です(収益認識会計基準202項)。ただし、残存履行義務の注記からの除外が認められているのは、変動部分のみであり、契約に固定部分がある場合に、当該固定部分は注記する必要があります(収益認識会計基準201項なお書き)。

上記①や②と同様に、当該条件に該当し、残存履行義務の注記に含めていないものがある場合には、当該条件に該当している旨とその履行義務の内容を注記する必要があります(収益認識会計基準80-24項前段)。また、当該条件に該当する場合には、加えて、残存する契約期間及び残存履行義務の注記に含めていない変動対価の概要(たとえば、変動対価の内容及びその変動性がどのように解消されるのか)を注記することが求められているため、留意する必要があります(収益認識会計基準80-24項後段)。

(4) 残存履行義務の注記に含めていない対価の額がある場合の注記

企業間の比較可能性を担保する等の観点から、取引価格に含まれない変動対価の額等、残存履行義務の注記に含めていない対価の額がある場合には、その旨を注記する必要があります(収益認識会計基準80-23項、203項)。当該注記は、あくまで残存履行義務の注記対象となった契約において、変動対価の見積りの制限を受ける場合などで対価の額の一部が取引価格に含まれず、結果として、残存履行義務に含まれないものがある場合にその旨の注記を求めるものです。このため、収益認識会計基準80-22項の実務上の便法(上記(3)の①~③)を適用することで残存履行義務の注記に含めていないものがある場合にその旨の注記を求めるものとは異なる点につき、留意する必要があります(収益認識会計基準203項)。

図表2 残存履行義務の注記の全体のイメージ


図表2 残存履行義務の注記の全体のイメージ



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