会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準 第4回:過去の誤謬の訂正とその他の論点

公認会計士 江村 羊奈子
公認会計士 井澤 依子

7.過去の誤謬の訂正


(1)会計上の取扱い

これまで、過去の財務諸表における誤謬が発見された場合には、過去の誤謬は前期損益修正項目として当期の損益で修正する方法が示されており、修正再表示する方法は定められていませんでしたが、過年度遡及会計基準においては次の方法により「修正再表示」を行うこととし、遡及処理することとされています(過年度遡及会計基準21)。

なお、過去の誤謬については、修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いは、過年度遡及会計基準上は明示されていません。ただし、まれに実務において誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じる可能性を否定するものではないとされています(過年度遡及会計基準67)。

また、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正する従来の取扱いは、比較情報として表示される過去の財務諸表を修正再表示する方法に変更されることになりましたが、重要性の判断に基づいて、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識するものと考えられます(過年度遡及会計基準65)。
 

(2)過去の誤謬に関する注記

過去の誤謬の修正再表示を行った場合には、次の事項を注記します(過年度遡及会計基準22)。

過去の誤謬に関する注記

過去の誤謬の内容

表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額

表示されている最も古い期間の期首純資産に反映された修正再表示の累積的影響額

(3)過去の誤謬と訂正報告書との関係

過去の誤謬を修正再表示する場合は、その項目が重要であると判断した場合と考えられます(過年度遡及会計基準35)。一方、重要な事項の変更その他公益又は投資家保護のため訂正の必要があると認めた場合には、訂正報告書を提出しなければならないとされています(金融商品取引法24条の2、7条参照)。一般的には過去の誤謬を比較情報として示される前期数値を修正再表示することにより解消することはできないと考えられることから(新起草方針に基づく改正版「監査基準委員会報告書第63号『過年度の比較情報―対応数値と比較財務諸表』」の公表について 前書文)、金融商品取引法に基づく開示において、修正再表示に係る規定は通常は適用されない、すなわち修正再表示に先立ち、訂正報告書が提出されることになると考えられます。

金商法の場合
(有価証券報告書)

会社法の場合
(計算書類)

訂正報告書が提出されることとなり、修正再表示に係る規定は適用されない。

修正再表示に係る規定が適用される。
※確定済みの過年度の計算書類について自動的に修正されるわけではない


(4)過去の誤謬と会社法決算との関係

会計基準上の過去の誤謬による修正再表示を行ったからといって、確定済みの過年度の計算書類について自動的に修正されるわけではありません。

過去の誤謬に重要性があり、会社法の過年度の計算書類も修正を行う必要があれば、会社法の過年度の計算書類を確定する必要がありますが、その場合には、監査及び株主総会等の承認等の確定手続を全て行う必要があります。当期の計算書類は、修正後の過年度の計算書類及び会計帳簿を基礎として、それらとの連続性を保った上で作成されることとなります。従って、この場合には過年度の分配可能額にも影響が生じることになります。

一方、過去の誤謬が会社法上重要ではない場合には、確定済みの過年度の計算書類の修正は行わず、当期の計算書類は、当期の期首残高として、前期末の期末残高に誤謬の修正の累積的影響額を加えたものを用いて作成されることになります。従って、過年度の分配可能額の計算には影響は及ばないこととなります。
 

8.その他の個別論点


(1)個別財務諸表上の取扱い

過年度遡及会計基準では、個別財務諸表上の適用に関する特段の取扱いは設けず、連結財務諸表と同様の取扱いを行うものとされています(過年度遡及会計基準33、34参照)。 なお、会計方針の変更に関する注記及び表示方法の変更に関する注記については、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同一であるときには、個別財務諸表においてはその旨の記載をもって代えることができることとされ、一部簡略化した取扱いとされています(過年度遡及会計基準10~12、16)。
 

(2)重要性

過年度遡及会計基準の全ての項目について、財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮され、金額的重要性と質的重要性の両面を考慮して判断することとされています。

金額的重要性の具体的な判断基準は、企業の個々の状況によって異なり得ると考えられますが、①損益への影響額又は累積的影響額が重要であるかどうかにより判断する考え方、②損益の趨勢(すうせい)に重要な影響を与えているかどうかにより判断する考え方、③財務諸表項目への影響が重要であるかどうかにより判断する考え方などが挙げられています。

また、質的重要性は、企業の経営環境、財務諸表項目の性質、又は誤謬が生じた原因などにより判断することが考えられます(過年度遡及会計基準35参照)。
 

(3)原価計算における簡便的な方法

会計方針の変更が製造原価等に影響を与える場合には、原則的には棚卸資産及び売上原価等の金額の計算において新たな会計方針により算定する必要がありますが、簡便的に、製造原価における影響額を算出した上で、棚卸資産及び売上原価等に合理的な方法で配賦する方法も考えられるとされています。また、差額に重要性が乏しいと考えられる場合には、全額売上原価に含めて処理する方法も容認されています(過年度遡及会計基準46)。


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