賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の概要 第1回:賃貸等不動産の定義と範囲

公認会計士 中村崇

1.はじめに

「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(以下、会計基準)およびその適用指針(以下、適用指針)(企業会計基準委員会(以下、ASBJ)平成20年11月28日公表、会計基準は平成23年3月25日最終改正)の適用に当たっての実務上のポイントを解説します。なお、文中意見にかかわる部分は私見であることをあらかじめお断りしておきます。

 

2.定義・範囲

(1) 賃貸等不動産の定義

注記の対象となる「賃貸等不動産」とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益またはキャピタルゲインの獲得を目的として保有されている不動産をいいます。

従って、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に自ら使用している場合は賃貸等不動産には含まれません(会計基準第4項(2))。

(2) 賃貸等不動産の範囲

賃貸等不動産には、以下の不動産が含まれます(会計基準第5項、第6項)。

① 貸借対照表において投資不動産として区分されている不動産
② 将来の使用が見込まれていない遊休不動産
③ ①、②以外で賃貸されている不動産
④ 将来において賃貸等不動産として使用される予定で開発中の不動産や継続して賃貸等不動産として使用される予定で再開発中の不動産
⑤ 賃貸目的で保有されているにもかかわらず、一時的に借手が存在していない不動産

ここでポイントとなるのは、賃貸等不動産の範囲を定めるに当たっては、使用目的による区分ではなく、賃貸されているという形式的な区分を重視するため、賃貸されている不動産は賃貸等不動産に該当するという点です(ASBJの公開草案に対するコメントへの対応6、8)。

従って物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理目的で保有されている不動産であっても、第三者に賃貸した場合には賃貸等不動産に該当することになります。

例えば、自社製品を生産する工場は、物品の製造を目的として保有する不動産であるため通常は賃貸等不動産には該当しませんが、当該不動産を生産や出荷等の業務を委託する相手先に賃貸しているケースでは、賃貸等不動産に該当するものと考えられます。

なお、工場内の機械を含めて賃貸するケースもあると考えられますが、賃貸等不動産の範囲としては、有形固定資産のうち不動産である土地、建物、構築物および無形固定資産のうち借地権などが含まれ、機械等の動産は含まれないことに留意が必要です。

上記より、賃貸等不動産の範囲を貸借対照表の勘定科目との関係で整理すると、以下のとおりとなります。

【貸借対照表の勘定科目と賃貸等不動産】

貸借対照表の勘定科目と賃貸等不動産

(3) 経営管理等にも使用される賃貸等不動産の取り扱い

物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に自ら使用している不動産は賃貸等不動産には含まれませんが、当該部分と賃貸等不動産として使用される部分との両方で構成される不動産の、賃貸等不動産として使用される部分については原則として賃貸等不動産に含めることになります。

従って、例えば本社ビルの一部を賃貸しているような場合には、本社として使用している部分は賃貸等不動産には含まれませんが、賃貸部分は賃貸等不動産に含まれます(会計基準第7項)。

ただし、その割合が低いと考えられる場合は賃貸等不動産に含めないことができるなど、下記のような例外的な取り扱いも認められていますが、具体的な数値基準等が定められていないため、企業実態等を踏まえ、適切に判断する必要があります。

【経営管理等にも使用される賃貸等不動産の開示方法】

原則

例外

  • 賃貸等不動産として使用される部分は、賃貸等不動産に含める。
  • 当該部分を区分するに当たっては、管理会計上の区分方法その他の合理的な方法を用いる(適用指針第7項)。
  • 賃貸等不動産として使用される部分の割合が低いと考えられる場合は、賃貸等不動産に含めないことができる。
  • 賃貸等不動産部分の時価または損益を、実務上把握することが困難である場合には、不動産全体を注記の対象とすることができ、この場合には、一定の注記を他の賃貸等不動産とは別に記載する(適用指針第17項)。
  • 経営管理等に利用される部分の重要性が乏しい場合には、一般的な重要性の判断から全体を賃貸等不動産として取り扱うことは可能と考えられます(ASBJの公開草案に対するコメントへの対応10)。

網掛け部分が賃貸等不動産の注記対象となります。

(a)賃貸等不動産部分、(b)賃貸等不動産以外の部分

(a)賃貸等不動産部分、(b)賃貸等不動産以外の部分

(注) 図表におけるa、bの割合は重要性を表したものではありません。


(4) 遊休不動産の取り扱い

将来の使用が見込まれる遊休不動産は、その使用見込みに沿って、賃貸等不動産の定義に照らし賃貸等不動産に該当するかどうかを判断します。遊休状態となってから間もない場合で、将来の使用見込みを定めるために必要と考えられる期間にあるときには、これまでの使用状況等に照らして判断することとなります(会計基準第23項)。

(5) リース取引に該当する不動産の取り扱い

ファイナンス・リース取引に該当する不動産については、売買処理として処理され、貸手においては不動産ではなく金銭債権等として計上されるため、賃貸等不動産には該当しません。借手においては固定資産として取り扱われるため、当該不動産が賃貸等不動産の定義に該当する場合には、賃貸等不動産となります。

ここで、リース会計基準の適用初年度開始前のリース取引で、賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を引き続き適用している場合には、借手においては不動産として取り扱われないこととなり、貸手においては賃貸等不動産に該当することとなります(適用指針第21項)。

リース取引の取り扱いを整理すると下記のとおりとなります。

【リース資産の取り扱い】

リース資産の取り扱い

※ リース取引開始日が改正されたリース会計基準の適用初年度開始前の所有権移転外ファイナンス・リース取引で、引き続き賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用している場合


リース取引の対象となっている賃貸等不動産については、リース会計基準に従った注記も併せて行うことに留意する必要があります。

(6) 連結子会社へ賃貸している賃貸等不動産の取り扱い

賃貸等不動産に該当するか否かの判断は連結の観点から行うため、連結会社間で賃貸されている不動産は賃貸等不動産には該当しないことになります(適用指針第3項)。

従って、親会社が連結子会社に不動産を賃貸し、連結子会社が製造活動等に使用しているのであれば、連結の観点からは、連結子会社が当該不動産を物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用していると考えられることから賃貸等不動産には該当しません。一方、相手先が非連結子会社や持分法適用関連会社等の場合には、賃貸等不動産に該当します。ただし、親会社から賃借した不動産を、連結子会社が外部に賃貸している場合には、連結の観点からも賃貸等不動産に該当するため、注記対象となります。

なお、連結財務諸表において賃貸等不動産の時価等の開示を行っている場合には、個別財務諸表での開示は不要とされています(会計基準第3項)。



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