改正実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」のポイント

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 平川浩光

ASBJから2022年3月17日に公表

2022年3月17日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より、改正実務対応報告第40号の「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下「2022年実務対応報告」という。)が公表されています。

ASBJからは、2020年9月29日に、実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下「2020年実務対応報告」という。)が公表されていました。2020年実務対応報告は、2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革(以下「金利指標改革」という。)が進められている中で、ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate。以下「LIBOR」という。)の公表が2021年12月末をもって恒久的に停止され、LIBORを参照している契約においては参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっていることに対応し、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明らかにすることを目的としていたものです。

2020年実務対応報告では、2020年実務対応報告の公表時には金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定であるとしていました。

2021年3月、英国金融行為規制機構(英国FCA)は、LIBORの公表停止時期を確定するアナウンスメントを正式に行いましたが、その中で、米ドル建LIBORの一部のターム物について、2021年12月末ではなく、2023年6月末をもって公表停止されることとされました。また、2021年9月に、英国FCAは、代替金利指標への移行が真に困難な既存契約(タフレガシー)へのセーフティーネットとして、従来の日本円建LIBOR及び英国ポンド建LIBORの一部のターム物について、市場データを用いて算出する疑似的なLIBOR(シンセティックLIBOR)を構築するための権限を行使することを公表しています。

これらの状況及び2020年実務対応報告の公表以後に寄せられた意見を受けて、金利指標置換後の取扱いの再確認についてASBJにおいて審議を行い、今般、2022年実務対応報告が公表されたものになります。



Ⅰ. 2022年実務対応報告の概要

1. 2020年実務対応報告の概要

(1) 範囲(2020年実務対応報告第3項)

2020年実務対応報告は、LIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品を適用範囲としています。

また、こうした契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替に関する金融商品も適用範囲とし、2020年実務対応報告公表日後に新たにLIBORを参照する契約を締結する場合も適用範囲に含まれています。

(2) 会計処理

金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業からみると不可避的に生じる事象であり、ヘッジ会計を定める企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)等の開発時には想定していなかったと考えられ、このような事態を想定して開発されていない金融商品会計基準等に基づいてヘッジ会計を終了又は中止した場合、取引の実態を適切に表さず、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられるため、ヘッジ会計の適用を継続することができる特例的な取扱いが定められています。

この2020年実務対応報告の具体的な内容は、こちらをご参照ください。

2. 2022年実務対応報告における改正点

(1) 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間の延長(2022年実務対応報告第14項から第19項)

2020年実務対応報告において、例えば、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)について、金利指標置換前(※1)において2020年実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、事後テストに関する本実務対応報告の特例的な取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時(※1)以後、当該取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続することができるとされていました(2020年実務対応報告第14項)。

しかし、米ドル建 LIBOR の一部のターム物について、公表停止時期が 2023 年 6月末に延期され、これにより、2020 年実務対応報告における金利指標置換後(※1)の会計処理に関する取扱いの適用期間が米ドル建 LIBOR の公表停止時期より先に終了することとなりました。 また、米ドル以外の通貨建ての LIBOR に関する不確実性が完全になくなったということでもないと考えられることから、金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を米ドル建 LIBOR とそれ以外の通貨建ての LIBOR を分けることなく、一律に 2024 年 3 月 31 日以前に終了する事業年度まで延長されています(2022年実務対応報告第14項、第15項)。

これは、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)の場合のほか、包括ヘッジや金利スワップの特例処理の取扱いにおいても同様となります(2022年実務対応報告第18項、第19項)。

※1 「金利指標置換時」等の定義(2022年実務対応報告第4項)

「金利指標置換時」とは、金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORに関して、ヘッジ対象の金融商品及びヘッジ手段の金融商品の双方の契約において後継の金利指標を基礎として計算が開始される時点をいいます。 また、「金利指標置換前」とは、上記の金利指標置換時よりも前の期間をいい、「金利指標置換後」とは、上記の金利指標置換時よりも後の期間をいいます。

(2) 金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理の取扱い

① 金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理の趣旨の明確化(2022年実務対応報告第19項なお書き、第19-3項)

金利指標置換後に金利スワップの特例処理に係る日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。)第 178 項の⑤(※2)以外の要件が満たされている場合には、2024 年 3 月 31 日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も金利スワップの特例処理の適用を継続することができることが明確化されています。

なお、この取扱いは外貨建取引等会計処理基準における為替予約等の振当処理にも同様に適用することができます。

※2 金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であること(同一の固定金利及び変動金利のインデックスがスワップ期間を通して使用されていること)。

② 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を1年延長した場合の取扱い(2022年実務対応報告第19-2項、第19-3項)

金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が 2024 年 3 月 31 日以前に終了する事業年度まで延長されても、米ドル建 LIBOR の一部のターム物の公表停止時期が 2023年 6 月末とされたことに伴い、金利指標置換前において金利スワップの特例処理の要件を満たしていた取引に関して、金利指標改革に起因した金利指標の置換がなされ、かつ、金利指標置換以後の期間において金融商品実務指針第 178 項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしている場合であっても、金利指標置換時が2022年実務対応報告第 19 項の適用期間より後であるという理由で金利スワップの特例処理が適用できなくなる場合が想定されます。

このため、金利指標置換時が 2024 年 3 月 31 日以前に終了する事業年度までに到来していない場合であっても、2024 年 3 月 31 日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更又は契約の切替が金融商品実務指針第 178 項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしているときには、2024 年 3 月 31 日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理を継続することができるとされています。 また、適用にあたって一定の歯止めを設ける観点から、契約条件の変更又は契約の切替が2022年実務対応報告第 19 項の適用期間内に行われることを求めることとされています。

なお、この取扱いは外貨建取引等会計処理基準における為替予約等の振当処理にも同様に適用することができるとされています。
 

3. 適用時期等(2022年実務対応報告第22-2項)

公表日以後適用することができるとされています。
 

4. 公開草案からの主な修正点

公開草案からの主な修正点はありません。


なお、本稿は本公開草案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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  • 改正実務対応報告第40号
    「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」の公表


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