2022年5月31日
グローバル税務の創造的破壊 後編 税情報の開示

グローバル税務の創造的破壊 後編 税情報の開示

執筆者 EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

2022年5月31日
関連トピック 税務

ESG/サステナビリティ及びグローバルミニマム税の観点からの企業の税情報の開示に関するグローバルな動向について解説します。

本稿の執筆者

EY税理士法人 International Tax and Transaction Services 大堀秀樹

EY税理士法人にて、日本企業のグローバル税務ポジションに関する分析を提供し、サステナビリティの観点からの税情報の開示についてもアドバイスを実施している。

要点
  • 企業は持続的な成長戦略の策定や地球社会のSDGs(持続可能な開発目標)への貢献が求められる中、従来の企業におけるグローバルな税の取組みを根本的に改める税情報の開示に関する要求が高まっています。
  • 日本企業においてもBEPS2.0のグローバルミニマム課税に対応するのみならず、ESG・サステナビリティの観点から税情報開示に関して説明責任及び透明性が求められるようになってきています。

Ⅰ はじめに

新型コロナウイルス感染症の継続、カーボンニュートラル、ならびにデジタルな技術革新による社会の大変革の中で、企業は持続的な成長戦略の策定及び地球社会のSDGs※1への貢献が求められています。企業の税務についても、ガバナンス及び持続的な成長戦略の一環としてESG/サステナビリティの観点から税に関する取組みに関する要求が高まっています。一方、前編でも述べた経済協力開発機構(OECD)は、経済のデジタル化に伴う課税上の課題(以下、BEPS2.0)に対処するため、グローバルミニマム課税を導入する第2の柱のGlobal Anti-Base Erosion(以下、GloBE)ルールを公表しています。

本稿では、従来の企業におけるグローバルな税の取組みを根本的に改める税情報の開示要請と日本企業への影響について解説します。

Ⅱ 企業の税情報の開示に関する背景

従来、企業の税務は主に2つの指標で評価されていました。

第一は、税務申告を適正に行い税務調査に応じる税務コンプライアンスの遵(じゅん)守であり、追徴による税務リスクを防止することが挙げられます。従来の日本企業では税務コンプライアンスと税務リスクの軽減が最優先として位置付けられ、税務当局の求めに応じて適切な情報提供がなされていました。

第二は、税務プランニングによる実効税率の削減です。企業にとって税金は最大の費用であることから、その削減を図ることは、純資産とキャッシュ・フローの最大化を通じて企業価値の向上と株主へのリターンにつながります。企業は、財務情報としての税額や実効税率を開示しています。

一方、グローバルな経済のデジタル化に伴い、グローバル企業の過度な税務プランニングが顕著となり、一般社会からの批判が高まりました。このような税源浸食及び利益移転(BEPS)に対抗するため、OECDは、2015年10月に15のBEPS行動を発表し、各国は自国の税制を改正すると共に、BEPS防止措置実施条約を締結しました。さらに、企業が自らを律する税務ガバナンスと税情報の透明性に関するステークホルダーや一般社会からの要請が高まりました。これには税法や財務開示とは異なり義務は伴いませんが、欧州のグローバル企業の中には、税務に関する基本ポリシーやガバナンス体制を積極的に開示し、税に関して取り組んでいるとして評価を高めている企業もあります。

Ⅲ ESG/サステナビリティの観点からの税情報の開示に係る要求の高まり

企業を取り巻くステークホルダーとの関係は、特にESG/サステナビリティの観点から近年大変革を遂げています。

企業の環境Environment、社会Social、ガバナンスGovernance(以下、ESG)について格付(以下、ESG格付)を取得し、一定のESG格付を得た企業を投資適格とする社会的責任投資(SRI)の運用スタイルが定着しています。近年、ESG格付において、税務ガバナンス及び税情報の開示に関する項目がガバナンスの評価に加わりました。日本企業においても、IRやサステナビリティ部門からの要請により、税務ガバナンス及び税情報の開示に取り組む企業が増加しています。

企業は、サステナビリティの観点からどのような税に関する開示を期待されているのでしょうか。企業の財務情報の開示とは異なり、サステナビリティなど非財務情報に関する開示範囲の定めはありません。各国の法規制を超えて企業自らが自主的な開示に取り組む、まさにガバナンスが求められています。

その一方で、企業側からは、サステナビリティの観点からの税情報の開示についての規範が待望されていました。日本企業を含む多くのグローバル企業は、Global Sustainability Standard Board(GSSB)が作成したGRIサステナビリティ・レポーティング・スタンダード※2(以下、GRIスタンダード)を参照して、サステナビリティ報告書においてGRIスタンダードとの対照表を示すのが一般的となっています。GRIスタンダードの経済に関する項目別スタンダードとして、GRI207:税金※3は21年1月1日から発効しており、税に関する取組み、税務ガバナンスやリスク管理、税務当局との関係などに加えて、国別報告(以下、CbCR)の開示も要求されています。日本企業でもGRI207との参照関係が対照表に示され、実際にCbCRの開示について検討する企業は着実に増えています。

Ⅳ グローバルミニマム課税の導入による税情報開示に関する要求の高まり

GloBEルールによるグローバルミニマム課税は税務当局に対する情報申告のみを求めていますが、企業が国別に所得と税額を計算し、国別の実効税率を把握していることはGloBEルールを通じて明らかであることから、ステークホルダーからは、国別の実効税率の開示を求める声は高まることが予想されます。

国別の実効税率を開示するに際しては、グローバルミニマム税率の15%が、過度な租税回避を行っていないかを測る尺度となり得ると考えられます。国別の実効税率が15%を下回る場合、実体性を伴わない過度な所得移転をしていないか、企業は説明を求められることになるでしょう。逆に税金コストの削減による財務体質の改善を求める従来型の投資家からは、15%をターゲットとした実効税率の管理を求められることになると考えられます。

日本企業においても、税務コンプライアンスのみを重視する発想を改め、企業経営、投資家そしてステークホルダーのあらゆる目線から、国別の実効税率の管理が求められ、説明責任と透明性を持って開示する時代が到来したことを認識すべきです。

Ⅴ 税情報開示の義務化

21年12月21日にCbCRの開示に関するEU指令が正式に発効されました。日本企業についてもEUに一定規模の拠点を有する場合、24年6月22日以降に開始する事業年度について、全EU加盟国、EUの指定するブラックリスト及びグレーリストの国に関して、CbCRを開示する義務を負うことになります。

ESG/サステナビリティの観点からの税情報の開示は自主的な開示の域でしたが、EU指令により、日本企業においても国地域を特定した形式ではありますが、開示の義務を負うことになります。また、EU企業はEU指令を契機にCbCRの開示を進めると考えられることから、日本企業についてもESG格付における相対的な評価の観点からもよりいっそうの開示を求められると想定されます。

22年3月24日、IFRS財団とGRIはステークホルダー向けのレポーティングスタンダードの検討に関する提携を発表※4しました。今後、IFRS財団のInternational Sustainability Standards Board(以下、ISSB)におけるサステナビリティ開示基準とGRIスタンダードが整合していくことが想定されます。税開示は現時点のISSBにおける検討項目には含まれてはいませんが、税情報開示の観点からも、ISSBのサステナビリティ開示基準の進展に着目すべきです。

Ⅵ おわりに

企業を取り巻くニューノーマルな環境下においては、サステナビリティ及びグローバル課税の観点から税情報開示について説明責任が求められるようになってきています。欧州を中心としたグローバル企業は、グローバルな税務環境の変化を捉え、税情報開示を企業の価値向上及び持続的成長に結び付けて、自律的な対応を図っています。

BEPS2.0は100年に一度のグローバル税制改革といわれますが、日本企業においても、グローバルミニマム課税に対応するのみならず、いかにグローバルの税務ポジションを管理し、そして開示し、説明責任と透明性が問われる時代が到来しました。

関連資料を表示

  • 「情報センサー2022年6月号 Tax update」をダウンロード

サマリー

ESG/サステナビリティ及びグローバルミニマム税の観点からの企業の税情報の開示に関するグローバルな動向について解説します。

情報センサー2022年6月号

情報センサー
2022年6月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

詳細ページへ

関連コンテンツのご紹介

税務サービス

日本国内外の企業・個人に対して、税務アドバイザリーおよび税務コンプライアンスにおいて、EYの豊富な実績とテクノロジーを最大限に活用し、クライアントの期待に応えるサービス提供を心掛けています。

詳細ページへ

この記事について

執筆者 EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

関連トピック 税務
  • Facebook
  • LinkedIn
  • X (formerly Twitter)