EYは、最新のM&Aに関する調査レポート「2022年度CEO Outlook Survey」を発表したことをお知らせします。新型コロナウイルス感染症の世界的流行が新たな段階を迎える中、大多数のCEOは成長のための投資とM&A(合併・買収)に向けた計画をいつでも加速できる準備を整えていることが本調査の結果から明らかになりました。今回が初めてとなる本調査は、世界の2,000人以上のCEOを対象に、今後の見通し、課題および機会に関する見解を集計したものです。
今回の調査では、日本企業のCEOの回答者の96%がコロナ禍において今回引き起こされたような混乱を見据えて、コストを削減し、リスクを最小化するためにサプライチェーンの見直しを実施した、あるいは実施する予定であるとしています。これはグローバル全体の結果79%を大きく上回っています。
また、M&Aの取引総額が5兆米ドルと過去最高を記録した昨年に引き続き、2022年もM&AはCEOにとって他の領域への投資を補完する極めて重要なツールとなるとみられます。日本企業の回答者の55%、グローバル全体においてはほぼ3分の2(59%)が今後12カ月以内に買収を実行する見込みであると答え、2021年初頭の57%とほぼ変わらない高い数字になっています。
しかし、CEOが考える投資計画は、外部リスクにより予定通りに実行できなくなる可能性もあります。自社の今後の成長を脅かす最も重大なリスクとして、調査に参加した日本企業のCEOの大多数(92%)は原料価格の上昇に懸念を示しています。その他の要因として、他社との競争の激化(19%)、気候変動の影響(14%)、競合他社の技術とデータ使用の加速(12%)が挙げられています。
EYのストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 代表取締役 梅村秀和(うめむら ひでかず)は、次のように述べています。
「中国や米国に大きく依存していた日本企業のサプライチェーンの見直しは以前から進んでいましたが、このコロナ禍において一段と加速しました。多くのCEOはいつでも投資を実行に移す準備ができています。その一方で、地球環境の変動の影響、インフレの進行やエネルギーコストの急騰をはじめとする事業コスト全般の上昇に常に頭を悩ませています。
欧米諸国に比べてコロナ対策が遅れがちな日本では、海外投資が鈍化した時期もありましたが、主にアジア諸国に対し投資意欲が高まりつつあります。CEOにとってM&Aは引き続き投資活動における重要なオプションとなるでしょう。昨年空前の活況を呈したM&A市場ですが、今後CEOの多くは過去12カ月に買収したアセットの統合に注力することになりますが、依然として買収に意欲的な姿勢を示していることから、2022年もM&Aは高い水準で推移するものと見込まれます」
2022年のM&Aの見通し:
今回の調査の中で日本企業のCEOは今後12カ月間で実施するM&Aについて、テクノロジー、人材、新たな製造ラインやスタートアップ企業の買収(37%)、ならびに事業推進力の向上(18%)につながる案件を優先すると答えています。
2022年に買収を行う意向を示している日本企業のCEOが最優先の投資先として挙げた国は、中国、インド、米国、シンガポール、日本となっています。また、買収を行う可能性が高いセクターの上位3分野は、自動車関連・交通、テクノロジー、先進製造業でした。
2022年のM&A市場の最大のトレンドについては、クロスボーダーM&Aの増加(72%)、セクターを越えた買収の増加(70%)、アクティビストのさらなる介入(64%)、ならびにプライベートエクイティ(PE)による買収の増加(61%)が上位の回答となっています。
今回の調査では、M&Aを実施する上でESGやサステナビリティに関連する課題が一段と重要視されていることが明らかになりました。回答した日本企業のCEOのうち、55%が長期的価値の創出や投資家を魅了するための要素としてESGスコアが重要と回答しています。一方で、ESG要素が戦略的決定を下すうえで極めて重要もしくは重要と答えた日本のCEOは67%で、グローバル全体の82%を大きく下回りました。
梅村は次のように述べています。
「CEOはM&Aを長期的な成長戦略に必要不可欠な触媒と位置づけています。ESGおよびサステナビリティがますます重要な課題となるなか、日本企業はESGが意思決定における重要な要素であるという認識が欧米諸国に比べてまだ低いようです。今後、CEOがサステナビリティ戦略で掲げた目標の早期実現に向けて数多くのM&Aを実行するためにも、ESGに対する理解は日本企業にとっても重要な戦略決定の判断材料と捉えることが必要になるでしょう」
サステナビリティの実現に向けた取り組みによって発生するコストが原因となり、CEOと一部の投資家の間に緊張が生じている:
ポストCOP26の世界では、CEOの間で進む持続可能な変革への方向転換が不可逆的な変化となることが明らかになりつつあります。戦略的な意思決定において収益の成長は依然として重要なドライバーではありますが、日本企業の回答者の21%がサステナビリティの分野でリーダーとなることは明らかに競争優位性につながる、またコストの削減にもつながる(22%)と考えています。
その一方で回答した93%(グローバル全体の回答65%)もの日本企業のCEOが、自身のサステナビリティ移行戦略について投資家や株主からの抵抗を受けていると答えています。また、43%(同21%)の投資家は長期的な投資計画に対して支持を表明していない、あるいは四半期業績に固執していると述べています。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション部門のマーケッツリーダー、坂田好正(さかた よしまさ)は次のように述べています。
「CEOは株主や社会全体に持続的なメリットをもたらす方向へと組織を変革させる覚悟ができています。一方でコストの上昇や長期的なリターンへの懐疑心を理由に、欧米諸国に比べ日本企業は投資家や株主から強い抵抗を受けています。特に製造業などとは異なり、ESGやサステナビリティの結果が見えにくい業種においては、CEOの計画が頓挫し、会社が歴史の流れに取り残されることにもなりかねません。サステナビリティを優先させるためには、CEOと投資家間において考え方の方向性を合わせることが今後重要となるでしょう」