情報センサー2023年8月・9月合併号

関連当事者との非通例取引

2023年7月31日 PDF
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EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 武澤 玲子

監査業務に従事しつつ、品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『こんなときどうする?減損会計の実務詳解Q&A』『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(最新版)』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ はじめに

本稿では、通常の取引過程から外れた関連当事者との取引とはどのような性質、特色、性格であり、取引及び開示にあたってどのような点に留意する必要があるのかを解説します。

なお、文中意見に係る部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 関連当事者との取引の開示

関連当事者とは、ある当事者が他の当事者を支配しているか、又は、他の当事者の財務上及び業務上の意思決定に対して重要な影響力を有している場合の当事者をいいます(企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」(以下、関連当事者会計基準)5項(3))。会社と関連当事者との取引は、対等な立場で行われているとは限らず、会社の財政状態や経営成績に影響を及ぼすことがあります。このため、会計基準上、会社と関連当事者との取引や関連当事者の存在が財務諸表に与えている影響を財務諸表利用者が把握できるように、一定の開示が求められています。


1. 関連当事者の範囲

関連当事者会計基準における関連当事者を4つのグループに区分し、要約すると<図1>のとおりです。

図1 関連当事者の範囲

役員・主要株主の近親者、その近親者を含めて議決権の過半数を所有する会社などについては、社内の情報だけでは把握することができないため、網羅的に把握できているか注意が必要です。


2. 関連当事者との取引の範囲

(1) 有価証券報告書における開示範囲

連結財務諸表においては、連結会社と関連当事者との取引を開示対象とすることとされ、連結子会社と関連当事者との取引も開示対象となっています(関連当事者会計基準第6項)。なお、連結財務諸表の作成で相殺消去した取引は、開示対象外です(関連当事者会計基準第6項)。また、連結会社が直接かかわらない関連当事者同士の取引については、正確かつ網羅的な情報の入手が困難であることや、影響が軽微な場合が多いと考えられることから開示対象外です(関連当事者会計基準第34項)。

開示対象となる関連当事者との取引は<図2>のとおりです。

図2 金商法上の開示すべき取引の範囲

連結財務諸表作成会社の場合、連結会社の枠の中の取引(①、②、③)は連結財務諸表上相殺消去される取引であるため、開示対象とはなりません。連結会社の枠の外同士の取引(⑧、⑪、⑫)は関連当事者同士の取引であるため開示対象とはなりません。開示対象となるのは、連結会社の枠の中と外の取引(④、⑤、⑥、⑦、⑨、⑩)です。

(2) 計算書類における開示範囲

会社法上は連結計算書類を作成している会社でも、個別注記表で関連当事者との取引の注記を行います。このため、有価証券報告書とは異なり、計算書類作成会社と連結子会社との取引も開示対象となります(<図3>参照)。

図3 会社法上の開示すべき取引の範囲

<図3>において、会社法上で開示対象となるのは①、②、④、⑤、⑥の取引です。

Ⅲ 通常の取引過程から外れた重要な取引とは

関連当事者との取引のうち、特に関連当事者との通常の取引過程から外れた重要な取引については、監査上も慎重な検討が求められています。このため、関連当事者との通常の取引過程から外れた重要な取引にあたっては、監査人に十分に説明できるよう、取引の目的や取引条件を整理する必要があります。

企業の通常の取引過程から外れた関連当事者との取引としては、以下のような取引が例示されています(監査基準報告書550「関連当事者」(以下、監基報550)A24項)。

  • 複雑な株式や持分の取引(リストラクチャリング、買収など)
  • 無償又は低廉でのリース取引や経営指導等
  • 通例でない多額の値引や返品を伴う販売
  • 循環的な取引(買戻し義務を伴う販売など)
  • 取引条件が期限前に変更された契約に基づく取引

関連当事者との取引が第三者との取引と同じ条件での販売のように通常の取引過程において行われる場合、財務諸表における虚偽表示リスクは関連当事者以外の第三者との取引と同様と考えられます。一方、通常の取引過程から外れた重要な取引は、取引が複雑であったり、正常な市場の取引条件で行われなかったりすることで、虚偽表示リスクが高くなります(監基報550第2項)。また、関連当事者を通じると不正を実行しやすいケースも考えられます。このため、監査上、関連当事者との通常の取引過程から外れた重要な取引については、特に慎重な検討が求められています。


1. 関連当事者への通常の取引過程から外れた重要な取引における検討事項

監査上、通常の取引過程から外れた重要な取引については、取引の基礎となる契約又は合意の検討、取引に関する権限の付与を検討することが求められています(監基報550第22項)。

(1) 取引の基礎となる契約又は合意の検討

取引の基礎となる契約又は合意の検討にあたっては、次の事項について評価することとされています(監基報550第22項)。

① 当該取引の事業上の合理性(又はその欠如)が、不正な財務報告を行うため又は資産の流用を隠蔽するために行われた可能性を示唆するものかどうか

取引の事業上の合理性を検討するにあたってのチェックポイントは<表1>に記載のとおりです(監基報550 A37項)。取引が何のために行われているのか、通常の取引条件と異なる条件となっていないかといった観点で取引をよく整理しておく必要があります。また、監査人は、関連当事者との視点から見た当該取引の事業上の合理性を理解しようとすることもあります(監基報550 A38項)。通常、取引は双方の当事者にとって経済的合理性があるはずなので、どちらかにとって合理性がない取引は、不正リスク要因を示すことがあるからです。このため、自社だけでなく、関連当事者にとっても、取引の事業上の合理性が説明できるか、という観点で取引を整理しておくことが必要です。

表1 取引の事業上の合理性のチェックポイント
② 取引条件が経営者の説明と整合しているか

経営者の説明が取引条件と著しく矛盾する場合、関連当事者との取引以外の重要な事項についての説明の信頼性も改めて検討することが求められています(監基報550 A37項)。

③ 適用される財務報告の枠組みに準拠して適切に処理され、開示されているか

関連当事者会計基準及び有価証券報告書では連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、連結財務諸表規則)又は財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則、計算書類では会社計算規則に従った開示を行う必要があります。

(2) 取引に関する権限の付与の検討

取引に関する権限の付与が適切に行われており、かつ取引が適切に承認されていることについて監査証拠を入手することも求められています。取締役会等、適切な階層で十分に検討され、承認されている必要があります(監基報550 A39項)。

Ⅳ 子会社の役員等との通常の取引過程から外れた重要な取引に関する検討事項

会計基準上、関連当事者の範囲には重要な子会社の役員が含まれます(関連当事者会計基準第5項(3)⑨)。そして、監査上は、関連当事者とは、日本基準が適用される場合は関連当事者会計基準で定義される関連当事者であるとされています(監基報550第9項(1))。このため、重要な子会社の役員等との通常の取引過程から外れた重要な取引も、関連当事者との取引としての慎重な検討が必要です。

なお、「重要な子会社の役員」の「重要な」は「子会社」ではなく「役員」に掛かっています。このため、関連当事者の開示の趣旨を踏まえると、会社グループの事業運営に強い影響力を持つ役員が関連当事者に該当することになります。例えば、会社グループの中核となる事業活動を子会社に委ねている場合にあっては、当該子会社の役員のうち当該業務を指示し、統制する役員は、会社グループの事業運営に強い影響力を持つものと考えられるとされています(関連当事者会計基準第21項)。

Ⅴ 形式的・名目的に第三者を経由した取引

1. 検討事項

関連当事者と第三者が取引してから短期間で会社と第三者の取引が行われていたり、第三者が取引するための資金を関連当事者が貸していたりするなど、形式的・名目的に第三者を経由した取引で、実質上の相手先が関連当事者であることが明確な場合、関連当事者との取引として開示対象に含めることとされています(関連当事者会計基準第8項)。

例えば、会社が第三者からある会社を買収したものの、会社が第三者と取引をする直前に、第三者が会社の役員からその会社を取得していたケースを検討します。この場合、当該取引は関連当事者として財務諸表に開示する必要があると考えられます。

また、名目的に第三者を経由して会社を買収するという、通常の取引過程とは外れた関連当事者との取引に該当するため、そのような取引が行われた背景や合理性を確認しておく必要があります。今回のケースは名目的に第三者との取引となっているため、利益相反取引としての取締役会の承認(会社法365条第1項)及び事後報告(会社法365条第2項)が漏れてしまう可能性があります。取締役会で適切に検討され、承認されているかという点を確認する必要があります。なお、今回のケースは関連当事者との直接取引ですが、会社と関連当事者の利益が相反する取引は、関連当事者との間接取引についても関連当事者取引に該当することとされている点にもご留意ください(関連当事者会計基準第5項(1))。


2. 開示内容

関連当事者との取引については、以下の項目を開示することとされています(関連当事者会計基準第10項)。

  • 関連当事者の概要
  • 会社と関連当事者との関係
  • 取引の内容
  • 取引の種類ごとの取引金額
  • 取引条件および取引条件の決定方針

名目的に第三者を経由して、役員から会社を買収した場合、<図4>のような開示をすることが考えられます。

図4 開示例

Ⅵ 役員等の氏名の開示と個人情報

関連当事者の概要として、関連当事者が個人の場合には、以下の事項の記載が求められています(連結財務諸表規則第15条の4の2第1項第2号、関連当事者適用指針第7項(2))。

  • 氏名
  • 職業
  • 財務諸表作成会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合

このうち、氏名の開示については、企業会計基準委員会により公表されている「企業会計基準公開草案第14号「関連当事者の開示に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第16号「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針(案)」に寄せられたコメント」において、個人名の開示は個人情報保護法に規定される個人情報にあたるのではというコメントに対し、「証券取引法の下での開示規定によって個人名等が開示される限り、個人情報保護法に抵触しないことを確認しており、特段の修正は行わないこととする。」とされています。関連当事者が個人である場合の氏名は、証券取引法改正後の金融商品取引法の下での開示を規定する連結財務諸表規則第15条の4の2第1項第2号において、関連当事者が個人である場合の氏名を開示することが求められているため、関連当事者との取引に関する注記において氏名を記載しないことは認められません。

(注)この記事は「週刊 経営財務」(税務研究会)2023年4月17日号に掲載された「経理実務最前線! Q&A 監査の現場から」を一部編集し、掲載しております。

※ 企業会計基準委員会では、会計基準等の作成、改正にあたり、公開草案を公表し、内容に対するコメントを募集する。寄せられたコメントに対する回答を公開草案の最終化にあたり公表する。コメント及び回答は企業会計基準委員会のウェブサイトで会員以外も常時閲覧できる。

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