公開草案「特約条項付の非流動負債(IAS第1号の修正案)」の最新動向
情報センサー2022年10月号 IFRS実務講座
EY新日本有限責任監査法人 IFRSデスク 公認会計士 岩﨑 尚徳
当法人入所後、主として化学品等の製造業、プラントエンジニアリング業、小売業、商社などの会計監査および内部統制監査に携わる。2020年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。
Ⅰ はじめに
国際会計基準審議会(以下、IASB)は2021年11月、公開草案「特約条項付の非流動負債(IAS第1号の修正案)」(以下、本公開草案)を公表しました。本公開草案は、特約条項付の長期債務に関して企業が提供する情報を改善するためのIAS第1号の狭い範囲の修正です。
本稿では、本公開草案の内容、現時点の最新情報等について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
Ⅱ 本公開草案に至るまでの時系列
<図1>を参照してください。
Ⅲ 本公開草案
本公開草案においてIASBは、報告期間後12カ月以内でのコベナンツ条項の遵守が条件になる負債は、コベナンツ条項の遵守が報告期間の末時点で満たされていない場合には、流動に分類することを企業に求める2020年修正を実質的に撤回し、IAS第1号に対する狭い範囲での修正を提案しています。その代わり本提案では、企業は報告期間終了後12カ月以内にコベナンツ条項の遵守を条件とするすべての非流動負債を、区分して表示しなければならなくなります。さらに、企業が報告期間末時点でそうした将来のコベナンツ条項を遵守していない場合、追加の開示が求められることになるため、本公開草案によれば、企業は分類又は表示に関する2020年修正の目的とは異なる趣旨から、報告期間末時点で将来のコベナンツ条項が遵守されているかどうかについても検討が必要となります。
1. 区分表示
IASBの提案では、企業は、決済を延期することのできる権利が報告期間後12カ月以内にコベナンツ条項を遵守することを条件とする非流動負債を区分して表示しなければなりません。
本公開草案は、報告期間末時点で遵守していないものだけでなく、12カ月以内のコベナンツ条項の遵守が条件となる非流動負債の表示に影響を与える可能性があります。前者は、従前の2020年修正であれば、流動負債に分類変更されたであろう負債を指します。
2. コベナンツ条項に関する開示
本公開草案は、企業は、少なくとも12カ月間、負債の決済を延期することのできる権利を有するために企業が遵守しなければならないコベナンツ条項に関し、目的適合性がある情報を開示しなければならないと定めています。この開示は、負債の決済を延期することのできる権利を有するのに、企業が充足しなければならない具体的なコベナンツ条項の詳細を提供するために要求されています。IASBは、利用者はこの情報でコベナンツ条項の性質を理解し、非流動として分類された負債が12カ月以内に返済すべきものとなる可能性を評価できるようになると考えています。この開示には、企業が、報告日時点でコベナンツ条項を遵守しているかどうか、及びコベナンツ条項遵守のテスト時点でのコベナンツ条項の遵守を見込んでいるかどうか、またどのように遵守すると見込んでいるかが含まれています。
Ⅳ 最新情報(2022年6月及び7月時点)
2022年6月、IASBは、本公開草案に対するフィードバック(コメント期限:2022年3月21日)について議論をし、主として次のことを暫定的に決定しました。
1. 流動又は非流動への分類
IASBは、企業が報告日以前に遵守しなければならない特約条項のみが負債の流動又は非流動への分類に影響を与える旨を確認することを暫定的に決定しました。
2. 区分表示及び開示
a. 特約条項付の非流動負債を区分して表示することを企業に要求するという提案を最終確定せず、その代わりに、そうした負債の帳簿価額を注記で開示するよう企業に要求する。
b. 特約条項付の非流動負債に関する情報を開示することを企業に要求するという提案を、若干の修正を加えた上で最終確定する。具体的には、IASBは、企業が融資の取決めから生じた負債を非流動に分類し、当該負債が特約条項の対象となっている場合には、企業は当該負債が12カ月以内に返済すべきものとなる可能性があるというリスクを投資者が評価できるようにする情報を開示することを要求される。これには次のことが含まれる。
ⅰ. 企業が遵守することを要求されている特約条項に関する情報(特約条項の内容及び企業がそれを遵守しなければならない日付)
ⅱ. 企業が特約条項を遵守することを要求される場合に遵守が困難となる可能性があることを示唆する事実及び状況(例えば、企業が報告期間中又は報告期間後に違反の可能性を回避するか又は軽減させるために行動したこと)。そのような事実及び状況には、報告日現在の状況に基づいて企業が特約条項を遵守していないという事実も含まれる可能性がある。
また、2022年7月、IASBはIAS第1号の修正を2024年1月1日以後開始する事業年度に適用するよう企業に要求することを暫定的に決定しました。
Ⅴ おわりに
IASBは、IAS第1号の修正を2022年第4四半期(2022年10月~12月)に公表する予定です。表示・開示の実務に影響が出る企業も想定されますので、今後の動向を注視し慎重に検討する必要があると考えられます。