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小売業におけるポイント制度等の会計処理

2020年8月3日 PDF
カテゴリー 業種別シリーズ

情報センサー2020年8月・9月合併号 業種別シリーズ

小売セクター 公認会計士 吉田一則

小売セクターナレッジ職員リーダー。主に国内事業会社の監査業務に従事。主な著書(共著)に、『小売業のための基礎からわかるIFRSのポイント』(清文社)がある。当法人 シニアマネージャー。

Ⅰ  はじめに

2018年3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識会計基準)、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)が公表され、その後20年3月31日に主に表示及び注記事項の定めを公表する趣旨の改正が行われました。この収益認識会計基準及び適用指針は、21年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用されます。
ここでは、ポイント制度の取扱いについて収益認識会計基準に照らして整理するとともに、小売業における代表的なポイント制度を取り上げ、会計処理の考え方について解説します。
なお、本稿における文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 収益認識会計基準におけるポイント制度の取扱い

収益認識会計基準では、顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合に、当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときには、当該オプションから履行義務が生じているとされています(適用指針48項)。ここで、重要な権利を顧客に提供する場合とは、例えば、追加の財又はサービスを取得するオプションにより、顧客が属する地域や市場における通常の値引きの範囲を超える値引きを顧客に提供する場合とされています(適用指針48項後段)。このような場合には、顧客は実質的に将来の財又はサービスに対して企業に前払いを行っているため、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識するとされています。この追加の財又はサービスを取得するオプションには、販売インセンティブ、顧客特典クレジット、ポイント等が含まれます(適用指針139項、140項)。
既存の契約として商品を顧客に販売すると同時に将来の購入に充当できるポイントを顧客に付与した場合、当該ポイントが顧客に重要な権利を付与するものである場合には、商品又はサービスの提供とは別個の履行義務としてポイント付与時の収益を繰り延べ、契約負債を計上する必要があります。

Ⅲ 小売業のさまざまなポイント制度

小売業ではさまざまなポイント制度が存在しますが、全てのケースで収益の繰り延べが必要になるわけではないことに注意が必要です。後述1. 2.では、収益の繰り延べの要否の考え方を解説します。
また、その他の論点としてポイントが交換された場合や他社ポイントを付与した場合の事例について3. 4. 5.で解説します。

1. 商品販売時に付与するポイント、月間の購入金額に応じて付与するボーナスポイント

顧客に対する商品の販売の一環として付与するものであり、当該オプションが顧客に重要な権利を提供すると考えられる場合は、追加の財又はサービスを取得するオプションの付与に該当するため、収益を繰り延べる必要があると考えられます(適用指針48項)。

2. 来店時に付与するポイント

顧客が商品を購入しなくても来店しただけでポイントを付与する場合があります。
このようなポイントは、将来利用して商品等を無償又は割引価格で購入することができるポイントではありますが、商品の販売の一環として付与されるものではないのであれば、顧客との契約において既存の契約に加えて付与されるものとはいえません。そのため、追加の財又はサービスを取得するオプションの付与には該当せず、収益を繰り延べる会計処理は行いません。商品の販売の一環として付与されるものではないポイントは、収益認識会計基準を適用するのではなく、企業会計原則注解(注18)の引当金の対象になると考えられます。
なお、来店時に付与されるポイントであっても、商品の購入が付与の条件となっているなどさまざまなケースがあるため、ポイント制度の内容を十分に理解することが必要です。

3. 自社で利用できる商品券に交換する場合

貯まったポイントを付与した企業でのみ利用できる商品券と交換できる場合があります。
ポイントを付与した企業でのみ使用できる商品券は、顧客に対して将来の財又はサービスを移転する義務を負うものです。従って、企業にとってはポイント付与時から継続して履行義務を負っていることに変わりはありませんので、引き続き契約負債を計上することになると考えられます。

4. 他社のポイントに交換する場合

複数あるポイントの利用方法の一つとして、自社のポイントを他社のポイントに交換できる場合があります。
顧客からの申請によって自社ポイントを他社のポイントと交換した場合、顧客に対して将来の財又はサービスを提供するという自社の履行義務は他の企業に移転することになります。
このような場合には、他社のポイントプログラムへポイント交換対価を支払うため、現金の支払い義務を負うことから、債務を認識することになります。

設例1  他社ポイントとの交換

5. 他社ポイントの付与

小売業においては、顧客の利便性向上や顧客層拡大等の観点から、自社ポイントを運営するだけではなく、他社が運営するポイントプログラムに参加する場合があります。
ポイントプログラムの運営の責任や、顧客に対して将来のポイント利用時に値引きを受ける重要な権利の提供を行う義務を他社のみが有している場合、ポイントプログラムに参加する企業としてはポイント運営会社に対してポイントに相当する代金を他社の代理人として顧客から回収し、その代金を他社に支払う義務のみを有しているケースも多いと考えられます。
このようなケースにおいては、企業が商品を販売して受領した対価から他社ポイントに相当する金額を除外して収益を認識するとともに、他社への支払債務として未払金を計上することになります(収益認識会計基準47項)。

設例2  他社ポイントの付与

Ⅳ おわりに

本稿では、小売業における代表的なポイント制度を取り上げ、収益認識会計基準の適用を考察しました。
収益認識会計基準の適用に当たっては、失効率を踏まえたポイントに配分される独立販売価格の算定や、複数の異なるポイントをどのように管理していくかなど、実務対応も含めた検討論点があります。
収益認識会計基準の適用を見据えて、自社が採用しているポイント制度の内容をあらためて把握することが重要です。

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