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有事における初動対応の注意点

2019年2月28日 PDF
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情報センサー2019年3月号 Topics

Forensics事業部 公認会計士 田谷 直樹

EYの不正調査、不正対策、コンプライアンスの専門部門であるForensic & Integrity Servicesのパートナー。製造業・不動産・金融業等の会計監査業務、化学メーカー、建設会社の株式公開支援業務、ロイヤルティ監査、内部監査・内部統制構築支援、不正調査、不正・不祥事対策(発見・予防)等各種アドバイザリーサービス業務に25年以上に渡り従事。数多くの企業の不正防止プログラムの開発や企業の不祥事リスクの棚卸、評価および改善業務を多数サポートしている。

Ⅰ 不正の実態解明の成否を左右する初動対応の重要性

平時の段階から不正調査へと進んでいくきっかけはいろいろあります。内部監査などのモニタリングでの違和感に対応した結果(本誌 2019年2月号「平時における「違和感」への対応」参照)、不正の疑いが増して不正調査へ進むこともあれば、従業員や取引先からの通報もしくは税務調査により不正の情報がもたらされ、不正調査が開始されることもあります。
いずれにせよ、不正調査をどのようにスタートさせるかといういわゆる「初動対応」は、不正の実態解明の成否に関わる極めて重要で慎重に行わなければならない段階です。
会社は発覚した不正もしくはもたらされた情報を適切に集約、選別し、分かり得る事実を整理し、不正行為の関与者、手口、影響額などを暫定的に推定するとともに、この推定を踏まえ、調査体制を構築します。これら一連の不正調査の初動対応において注意しなければならない点を以下に挙げてみましょう。

Ⅱ 不正調査の初動対応における注意点

1. 迅速な対応と情報の一元管理

不正調査の方針決定は速やかに行う必要があります。特に社内外の通報により不正が発覚し、公表しなければならない状況であるにもかかわらず時間がかかってしまった場合には、会社ぐるみの隠ぺい体質を疑われるなどレピュテーションが毀損(きそん)する事態につながりかねません。
また集約・選別された情報が社内に散在するため意思決定者が全てを把握できない場合、不完全な情報に基づく場当たり的な判断にならざるを得ません。同時に、これらが拡散してしまうと、調査対象者に調査の情報が伝わり、証拠を隠滅されてしまう可能性があります。そのため、これらの情報は社内の特定部署において一元的に管理するべきです。

2. 調査体制の決定

調査体制の構築については、不正行為の関与者の職位や金額的・社会的な影響度などに応じて、①社内のメンバーによる調査委員会を設置して調査を行う場合②社外の専門家・有識者による第三者調査委員会を設置して調査を行う場合などがあります。弁護士や公認会計士などの有資格者は、法律や会計の知識は持っていますが、仮に不正調査の経験が不足していれば適切な調査が行われない可能性があります。そのため、調査の実施に必要な知見や技術、経験を有しているのか、十分に評価することが重要です。
また、調査の客観性を確保するためには、各調査委員が調査対象者・部署との間に利害関係を有していないことを、事前に慎重に検討することが必要です。経営者不正の場合には、調査対象者からの独立性が特に問われます。

3. 証拠の保全

調査としては、一般的に下記のような手続が実施されます(手続についての詳細は本稿では割愛します)。

【調査手続】

  • 電子メールやファイルなどに対するデジタル・フォレンジック
  • 関係者へのヒアリング
  • 関連する取引に係る証憑(しょうひょう)突合やデータ分析
  • 従業員や取引先に対するアンケート など

ここで大事なのは、不正行為への関与者の関与が決定的でない限り、調査手続で対象となる証拠の保全については、調査対象者に知られることなく、水面下で慎重に行うことです。
また、調査過程で利用した証拠は調査後の刑事・民事訴訟などでも用いられる可能性があるため、証拠価値が毀損することのないように注意する必要があります。
具体的には下記のような証拠保全の対象に優先順位付けを行い、迅速かつ秘密裏に保全をします。

【証拠保全対象】

  • 契約書
  • 帳票類
  • 会計データ
  • 調査対象者のPCやスマートフォンなどの情報機器および共有サーバー内の電子メールやファイル など

特にPCやスマートフォンなどの電子的な証拠は、機器を起動するだけでデバイス内の情報が書き換えられてしまうため、証拠価値が毀損する恐れがあります。従って、後に司法の場で証拠利用の可能性がある場合には、デジタル・フォレンジックの専門家によりPCなどのデータを保全した上で、保全したデータに対して調査手続を実施することが求められます。
さらに、不正への関与者を確保しておくことも調査の円滑な実施の観点から重要です。不正への関与を本人が認めた場合に即解雇してしまう事例もありますが、その場合は本人による調査への協力が一切得られなくなってしまいます。実務では、調査が終了するまでの間は自宅待機にするなどして、いつでも調査への協力が得られるようにしておく対応が考えられます。

4. 会計監査人との事実の共有

会計監査人は通常、調査委員会が実施した調査結果を利用して監査意見を表明するため、調査委員会が実施した調査結果を利用できるかどうかを評価することになります。仮に調査委員会が実施した調査手続が不十分であると会計監査人が判断した場合は、追加手続の実施を調査委員会に求める、もしくは会計監査人が監査手続として追加で手続を実施することになります。
調査委員会側からするとあらためて調査手続を実施させられる、もしくは会社の担当者としては会計監査人が実施する手続への対応を求められるため、二度手間になり、最悪の場合、決算発表が延期に至るケースもあります。従って、限られた決算スケジュールの中で調査委員会の調査をいつまでに終わらせ、会計監査人の監査をいつ実施するのかを決定するために、会社が実施する調査の初動の段階から会計監査人と連携することが極めて重要です。
また第三者調査委員会で調査が行われた場合に一切会計監査人と情報共有されないまま、会社が調査報告書を受領することがあります。しかし前述の通り会社のスムーズな決算発表のためには、第三者調査委員会と会計監査人との情報共有について調査開始前に合意することが望まれます。

(注) 本記事は、Business LawyersのWebサイト(実務Q&A)に「不正・不祥事リスク対応の強化における重要なポイントとは(3)―有事における初動対応の注意点 」(business.bengo4.com/practices/958)というテーマで掲載されたものです。

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