事業計画策定におけるポイント・留意点
情報センサー2019年3月号 Trend watcher
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) 上田 高也
国内コンサルティングファームにて事業再生業務、債権評価業務などに従事した後、2012年に当社入社。現在、事業計画策定支援業務、事業調査業務などの事業再生・再構築サービスを提供している。流通・小売、製造業(食品、自動車部品、製紙など)、出版・印刷など幅広い業界に関する実績を有する。
Ⅰ はじめに
近年、規模や上場・非上場を問わず、多くの企業で事業計画が策定されています。一方で、事業計画は策定したものの社内の理解醸成が不十分等の理由で、計画自体が形骸化してしまうケースも見受けられます。本稿では、計画の形骸化リスクを抑えるために、事業計画策定時に押さえておくべきポイントについて解説します。
Ⅱ 計画策定の意義
事業計画を策定する背景は企業によって異なりますが、なぜ事業計画を策定するか、策定することによってどういったメリットがあるかなどが理解されないまま、対外的な説明のためだけに漫然と作成されているケースが見受けられます。事業計画は、対外的な説明資料としての位置付けに加えて、下記のようなメリットがあると考えらます。これらの点を意識して計画を策定するだけでも、計画の有用性は高まると考えられます。
- 関係者の合意形成
経営目標やビジョンを可視化した事業計画を社内外の関係者に提示し、当該計画に対して会社がコミットメントすることで、関係者の合意形成が促進され、必要な支援(例えば資金調達など)を獲得しやすくなります。 - 必要アクションの明確化
経営目標が示されることで、計画達成に向けた施策が具体化されるため、いつ、誰が、何をすべきか、社内での必要なアクションも具体的に定めることが可能となります。 - 経営管理の強化
参照するべき目標が存在することで、実績が計画と乖離(かいり)した場合の要因分析が可能となり、次に打つべき施策・アクションの検討が容易となります。
Ⅲ 計画策定のプロセスと留意点
計画策定の一般的な流れは<図1>に示す通りですが、以下では、各プロセスにおける主な作業内容と実務的に留意が必要なポイントについて説明します。
1. 目的の明確化
金融機関からの資金調達目的などあらかじめ事業計画策定の目的は定まっていることが多いと想定されますが、策定目的により、計画書内で特に注力、強調するべき点は異なってくるため、計画策定を始める前段階で事業計画の策定目的を明確化しておくことが望ましいと考えられます。
2. プロジェクトチームの組成
計画策定の目的を明確化した後は、計画策定を推進するメンバーを選定します。トップダウンによる計画策定が効果的なケースもありますが、多くの場合、目標がお仕着せとなり、現場の主体性が欠如してしまう傾向にあります。そのため、ある程度現場に近い人材(現場の実情を理解し、現場と意思疎通できる人材)や次期経営幹部候補など、計画実行を見据えた人選を行うことが効果的です。
3. 現状分析
現状分析が不十分なまま計画策定を行った場合、地に足の着かない目標設定がされ、結果的に計画の形骸化に陥りやすくなります。計画策定を本格化する前に社内外の状況を客観的に分析し、市場や競合の動向、社内の強み、課題などを改めて整理しておくことで、現実感のある目標設定が可能になります。
4. 目標の設定
現状分析を踏まえ、事業計画において達成を目指す定性面・定量面の目標を設定します。現実感のある目標設定が望ましいですが、現状や現場の声だけにとらわれてしまうと、過度に保守的な目標設定がされるケースがあるため、チャレンジングな目標との間でバランス感覚を持って検討することも必要と考えられます。
5. 施策の検討
前項で設定した目標達成に向けて、各種施策を具体化すると共に、各施策を幾つかのアクションに分解し、誰が、いつまでに、何を実施するかをまとめたアクションプランをセットで検討します。アクションプランを作成することで、事業計画実施段階で、各施策が責任者不在のまま放置されるリスクが軽減化されると共に、作成の過程を通じて、各責任者の事業計画に対する主体性を高める効果が期待されます。
6. 計画の取りまとめ
これまで検討してきた各施策・アクションプラン、計画数値等を取りまとめ、事業計画書を作成していきます。その際、各施策実施に伴う期待効果と計画数値の整合性が取れているか、最終的に実現可能な計画になっているか等を中心に確認作業を行います。
7. モニタリング
計画が形骸化している多くのケースでは、策定後のモニタリングが不十分または未実施となっています。計画策定後も、事業計画の進捗(しんちょく)状況に関する定期的な報告体制を整備し、計画と実績の間で乖離が生じた場合は早期の原因分析、対応策の検討を行うことで、事業計画の着実な実行が担保されやすくなります。
Ⅳ おわりに
多くの場合、事業計画は対外的な公約となる資料であるため、本稿で触れたポイントなどを踏まえて、計画作りの段階から、計画の実現に向けた意識醸成を図っていくことが望ましいと考えられます。
一方で、計画策定時点から企業を取り巻く環境は刻々と変化していきます。当初の事業計画に固執するあまり、変化の波に取り残されると本末転倒であるため、状況に応じて事業計画を見直していく柔軟性も必要と言えるでしょう。