IFRS適用会社向け2019年3月期決算の留意事項
情報センサー2019年3月号 IFRS実務講座
IFRSデスク 公認会計士 倉橋 義典
当法人入所後、主に自動車メーカーの会計監査及び内部統制監査に従事。2016年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務などに従事している。主な著書(共著)に『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)がある。
Ⅰ はじめに
IFRSに準拠して財務諸表を作成している企業は、新たに公表される基準書や解釈指針書について、継続的かつ適時に対応していくことが求められます。
本稿では、2019年3月期から強制適用となる基準の改訂について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
Ⅱ 2019年3月期から強制適用となる基準の改訂
19年3月期から強制適用となる基準の改訂内容の要約は<表1>の通りです。
このうち、特に広範な影響が想定されるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」及びIFRS第9号「金融商品」について以下で説明します。
1. IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」
IFRS第15号は、顧客との契約から生じる全ての収益に適用されます。その基本原則は、顧客への財又はサービスの移転と交換に権利を得ると見込む対価を収益として認識するというものであり、具体的には<表2>の通り五つのステップに基づき適用されます。また、IFRS第15号には、返品権付き販売、製品保証、本人か代理人か、追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション、ライセンス供与、買戻し契約など、特定の取引において同基準の規定をどのように適用するかのガイダンスも定められています。
IFRS第15号は、従前の基準からの考え方を大きく変更するものではありませんが、支配の移転により収益を認識することが明確化され、より多くの規定や適用ガイダンスが設けられているため、業界にかかわらず、大半の企業に何らかの影響を及ぼすことが想定されます。また、開示規定が拡充されており、期末の開示要求は期中と比較して幅広いため、期末においては特に留意が必要です。開示に関する詳細は、本誌18年7月号(Vol.134)にて取り上げています。
2. IFRS第9号「金融商品」
IFRS第9号は、IAS第39号「金融商品:分類及び測定」を置き換えるものであり、主な変更点は下記の三つです。
(1) 分類及び測定
金融商品に関する会計基準の抜本的な改訂が行われた背景には、IAS第39号は複雑すぎてその適用が困難であると批判されていた点があり、とりわけ、さまざまな測定区分ごとに異なる測定規定が設けられていることが複雑性の主な要因として挙げられていました。そこで、金融資産を、①金融資産の契約上のキャッシュ・フローの特性と②金融資産の管理に関する企業のビジネスモデルに基づき分類する、新たなアプローチが開発されました。IFRS第9号に基づく金融資産の分類及び測定の概要は、<図1>の通りです。なお、金融負債に関しては、大部分がIAS第39号から引き継がれているため、本稿では説明を割愛します。
(2) 減損
減損の規定は、IAS第39号の発生損失モデルから、より将来予測的な情報を考慮した予想信用損失(以下、ECL:Expected Credit Loss)モデルに変更されており、これはリーマンショックに端を発した金融危機の際に生じた懸念、すなわち信用損失の認識が遅すぎるという懸念に対応するものです。ECLは、信用リスクの変動に応じて、12カ月ECL又は全期間(予想残存期間)ECLとして測定され、それぞれの期間にわたって生じると予想されるデフォルト事象から生じる損失額として計算されます。また、金融商品のクラス別の減損金額の調整表など、信用リスクに関して定量的、定性的に詳細な開示が求められており、期末において特に留意が必要です。
(3) ヘッジ会計
IAS第39号に基づくヘッジ会計は、複雑で規則主義であり、企業のリスク管理活動が反映されていないとしばしば批判の対象とされていました。そこで、IFRS第9号では、企業のリスク管理活動の効果を財務諸表に反映させることを目的として、より原則主義的な規定に置き換わり、より多くのヘッジ手段及びヘッジ対象がヘッジ会計の要件を満たすことになりました。ヘッジ会計に対する柔軟性を企業に認めたことにより、ヘッジに関するリスク管理目的及びリスク管理戦略の文書化がより重要となり、それらに関して詳細な定性的開示が求められています。