機械設備等の動産評価の概要
情報センサー2017年6月号 Trend watcher
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) 後藤靖裕
リース会社、コンサルティング会社などを経て、2011年にEYに参画。貸付債権、リース債権および証券化商品などの金融商品ならびに機械設備などの動産の価値算定業務に従事。日本証券アナリスト協会 検定会員、American Society of Appraisers(米国鑑定士協会)認定会員(機械・設備)。EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) アシスタント・ディレクター。
Ⅰ はじめに
これまでわが国において、企業が保有する生産設備や研究装置といった動産の時価算定はあまり行われておらず、減価償却後簿価を時価相当額と見なすという取扱いが一般的でした。近年、本邦企業が関与するM&A案件が急増し、企業結合会計に従って取得原価配分(PPA)やのれんの算定を行う中で、動産の時価算定の必要性が高まっています。
Ⅱ 動産の評価手法
不動産と同様、動産の評価手法にも①コストアプローチ②マーケットアプローチおよび③インカムアプローチの3手法があり、資産の特性や状態を検討した上で最も適した手法が適用されています。また、複数の手法を併用し、比較検討の上、最終的な評価額を決定する場合もあります。
【コストアプローチ】
費用性に着目した評価手法であり、実務上、最も一般的に使用されている(評価プロセスは後述)。
【マーケットアプローチ】
市場性に着目した評価手法であり、対象資産と類似する資産の中古市場における取引価格と、対象資産の経過年数や状態を比較検証することによって、評価額を算定する。
【インカムアプローチ】
対象資産の収益性に着目した評価手法であり、対象資産が生み出す経済的便益の現在価値を算定する。
Ⅲ 動産評価の実務
動産評価の特徴の一つに、評価対象アイテム数が非常に多いことが挙げられます。PPAを目的とした動産評価では、企業が保有する多種多様な数万点の機械装置を一度に評価することも珍しくありません。アイテムごとに市場価格や経済的便益を把握することは実務上困難な場合が多いため、取得価格や取得日といった固定資産台帳上の情報を利用してコストアプローチにて評価することが一般的です。マーケットアプローチおよびインカムアプローチは、必要に応じて、重要性の高い資産などに補足的に適用するといった方法が多く用いられます。
Ⅳ コストアプローチの評価プロセス
コストアプローチでは、評価時点における対象資産または対象資産と同等の資産を新規に取得する場合に要する費用(以下、再調達コスト)を算定し、これに各種減価修正を加えることにより対象資産の時価を算定します(<図1>参照)。
1. 再調達コスト
再調達コストの算定方法には、直接法および間接法の2種類があります。直接法は、製造メーカーの見積りなどを参考に、評価時点において対象資産と同等の性能を有する資産の再調達コストを算定する方法で、直接法により算定された再調達コストを「再取得価格」といいます。間接法とは、対象資産の取得価格に対し、取得時点から評価時点までの物価変動率を乗じることにより再調達コストを算定する方法で、間接法で算定される再調達コストを「再制作コスト」といいます。物価変動率算定に用いる物価指数には、日本銀行公表の「企業物価指数」や国土交通省公表の「建設工事費デフレーター」が主に使用されています。
2. 減価修正
(1) 物理的劣化
物理的劣化とは、経年によって生じる減耗、破損その他物理的な要因による価値の減少であり、減価額は経過年数と耐用年数により算定されます。耐用年数には、会計・税務で用いられている年数ではなく、実際に生産活動などの事業活動に供される期間(以下、経済的耐用年数)が使用されます。また、経済的耐用年数満了後も生産活動などに使用され、経済的価値を生んでいる資産に対しては残存価値率を設定します。
(2) 機能的劣化
新技術開発や高性能機器の出現などにより、既往資産に相対的な非効率性や効用の欠如が認められる場合があります。機能的劣化とはこれらに起因する価値の減少であり、生産能力やオペレーションコストなどに関する最新モデルとの差異を検討して算定されます。
(3) 経済的劣化
経済的劣化とは、対象資産あるいは対象資産から生み出される製品への需要減退や価格下落に起因して発生する対象資産の価値の減少であり、機能的劣化が機能や性能といった対象資産の内的要因から発生することに対し、経済的劣化は経済環境や業界動向といった外的要因から生じます。経済的劣化は、対象資産の稼働率や対象資産により生産されている製品の需要動向などから算定されます。
Ⅴ おわりに
わが国において製造設備などの動産が企業のバランスシート上相応の割合を占めることは珍しくなく、M&Aが企業の成長戦略として定着してくる中、PPAやのれん価値算定手続きにおける動産の価値把握の重要性はますます高まってきています。償却後簿価に頼らず、外部環境や生産性に着目した実態上の経済的価値やその評価手法を理解することは、事業計画や企業戦略を立案、検証する上でも欠かせない要素になってくることでしょう。