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固定資産の減損会計の実務ポイント解説シリーズ 第5回 関連する会計基準との関係

2017年5月31日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2017年6月号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 鈴木真策

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、国内事業会社の監査業務に従事。主な著書(共著)に『会社法決算書の読み方・作り方(第11版)』(中央経済社)がある。

Ⅰ  はじめに

固定資産の減損会計は固定資産に関連する他の会計基準との関連から実務で迷いやすい論点があります。第5回の本稿では、固定資産の減損に係る会計基準と関連する他の会計基準との関係を取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします。

Ⅱ  関連する会計基準との関係

1. 資産除去債務に関する会計基準との関係

有形固定資産に加算された資産除去債務に対応する除去費用部分や資産除去債務の計上に代え、資産計上されている敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積って、そのうち当期の負担に属する金額を費用計上する方法(以下、敷金控除方式)を採用している場合の敷金は、減損処理の対象となるかが論点となります。

(1) 資産除去債務に対応する除去費用部分も減損処理の対象となるか否か

固定資産の減損に係る会計基準(以下、減損基準)は、固定資産(有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産)を対象として適用します。他の基準に減損処理に関する定めがある資産、例えば、「金融商品に関する会計基準」における金融資産や「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産については、対象資産から除くこととされています(減損基準一、固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下、減損指針)6項)。
一方、資産除去債務に対応する除去費用(有形固定資産)については資産除去債務に関する会計基準に「減損会計の対象から除外する」等の定めがないことから、減損基準の適用範囲に含まれ、減損処理の対象となります。

(2) 一般的な敷金の減損基準における取扱い

(1)で記載のとおり、金融商品に関する会計基準における金融資産については、減損基準の対象から除くこととされています。そのため、通常の敷金に関しては、取得原価で貸借対照表に計上することとされ、賃貸人の支払能力から回収不能と見込まれる金額がある場合には貸倒引当金を設定することになります(金融商品会計に関する実務指針(以下、金融商品指針)133項)。

(3) 敷金控除方式を採用している場合の敷金の減損基準における取扱い

敷金控除方式を採用している場合の費用計上の対象とされている敷金(資産除去債務に関する会計基準の適用指針9項)についても、外形的に「敷金」とされています。しかし、この場合の敷金は「他の企業から現金若しくはその他の金融資産を受け取る契約上の権利」(金融商品指針4項)とされている金融資産の定義に該当せず、金融商品指針133項に定められる「将来返還されない差入預託保証金」「長期前払家賃として計上される差入預託保証金支払額と当初時価との差額」「返還されない敷金」などと同様に、その性質は金融資産ではなく、費用性資産に該当すると考えられます。このため、当該費用性資産は減損基準の適用対象になるものと考えられます。

2. リース取引に関する会計基準との関係

借手側が所有権移転外ファイナンス・リース取引について通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている場合において、リース資産減損勘定を用いて減損損失を計上したが、リース物件の所有者が当該物件を第三者に売却する場合、リース資産減損勘定は取り崩す必要があるかどうかが論点となります。

(1) リース取引により使用している資産の減損基準における取扱い

① ファイナンス・リース取引により使用している資産の取扱い

ファイナンス・リース取引に係る借手側の会計処理方法としては、通常の売買取引に係る方法に準ずる会計処理(売買処理)を行います。なお、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる一定の場合や、リース取引開始日が平成20年4月1日以後開始する事業年度から適用されているリース会計基準適用初年度開始前の所有権移転外ファイナンス・リース取引については、引き続き通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理(賃貸借処理)が認められています。売買処理を採用している場合には、リース資産が資産計上され、当該リース資産は減損基準の対象となります。賃貸借処理を採用している場合であっても、売買処理を採用した場合との均衡上、減損会計と同様の効果を持つ会計処理を行う必要があります。
このため、賃貸借処理を採用している場合のファイナンス・リース取引に係るリース資産または当該リース資産を含む資産グループの減損処理を検討するに当たっては、当該リース資産の未経過リース料の現在価値を当該リース資産の帳簿価額とみなして減損基準を適用することとなります(減損基準注解(注12)、減損指針60項)。

② オペレーティング・リース取引により使用している資産の取扱い

オペレーティング・リース取引については、現行基準上、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うものとされており、減損すべき資産の帳簿価額という概念がないことから、減損基準の対象外となります。
これらリース取引により使用している資産と減損基準の適用との関係をまとめたものが<表1>です。

表1 リース取引(借手側)により使用している資産と減額基準の運用との関係

(2) 賃貸借処理を採用している資産に配分された減損損失の会計処理

賃貸借処理を採用している場合のファイナンス・リース取引において、リース資産に配分された減損損失は負債(リース資産減損勘定)として計上され、リース契約の残存期間にわたり定額法によって取り崩されます。当該取崩額は、特別利益に計上されるのではなく、各事業年度の支払リース料と相殺することとされています(減損指針143項)。

(3) リース物件の所有者がリース資産減損勘定を用いて減損損失を計上した資産を第三者に譲渡する場合の会計処理

賃貸人がリース物件を譲渡した時点で、一定の解約金を支払うことでリース契約は合意解除されます。企業のリース料の支払義務が消滅することを前提とすると、減損処理の対象となる契約が解除されているため、負債計上したリース資産減損勘定は、リース物件の譲渡時点で取り崩し、解約金と相殺後の残額を損益として計上することになると考えられます。

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