2024年2月21日
ルーマニアへの投資状況とインセンティブ
情報センサー2024年2月 JBS

ルーマニアへの投資状況とインセンティブ

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2024年2月21日

EUの中でも近年成長が著しいルーマニア。なぜこの国はこれだけの成長を続けているのでしょうか。まだ、日本ではあまりよく知られていないルーマニアへの投資を行う際に参考となる情報を紹介します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 トルコ イスタンブール駐在員 公認会計士 杉下 照真

2007年に入社後、国内や欧米に上場している多国籍企業の会計監査に従事。22年9月よりEYトルコ イスタンブール事務所に現地日系企業担当として駐在し、トルコとルーマニアを担当。会計、税務および法務に関するコンプライアンス支援・新規投資サポートや事業コンサルティングなど、幅広いサービスで日系企業の事業展開を支援している。

要点
  • EU加盟後、西欧を中心とした海外直接投資により、近年急速な経済成長を達成している。
  • 日本は重要なパートナーであり、今後インフラ投資などで関係を強化することが期待されている。
  • 労働コストや税務コストが相対的に低い点はメリットと考えられる一方で、財政赤字の削減が喫緊の課題となっている。

Ⅰ はじめに

ルーマニアと聞いて、皆さまは何を思い浮かべるでしょうか。ドラキュラ伝説、ナディア・コマネチなどは有名かと思いますが、1989年のニコライ・チャウシェスク独裁政権の崩壊は当時、世界に大きな衝撃をもたらしました。中東欧には旧社会主義国家が多数存在しますが、革命によって独裁政権に終止符が打たれた事実は注目すべき点と言えるのではないでしょうか。他の旧社会主義国家とは異なり、ルーマニアが唯一のラテン系国家である点も関係しているのかもしれません。ルーマニアの国名の由来は、ラテン語で「ローマ人の土地」という意味なのです。

今回は、日本ではまだあまり知られていないルーマニアに対して投資を検討される際に、参考となる情報をご紹介します。

Ⅱ ルーマニアへの投資状況

1. 海外直接投資の動向と経済成長

ルーマニアは2007年にEUに加盟し、その後順調に経済を発展させています。特に、直近10年間の実質GDP成長率は、EU全体の成長率を上回っています(<図1>参照)。実質GDPはEUの中では中位、中東欧主要4カ国(本稿では、ポーランド、ルーマニア、チェコ、ハンガリーの4カ国とします。)の中では、ポーランドに続いて2番目に位置しています。

この著しい経済成長の背景には、海外直接投資が存在します。ルーマニアはEU加盟後、西欧からの直接投資が旺盛で、ドイツ、オーストリア及びフランスが主要な投資国です。その他、EU域外の米国、英国、中国、日本及びトルコなどからの投資もあり、世界各国から幅広い投資が行われています。業種別の投資は、製造業が最多で、貿易業、建設及び不動産業、金融業への投資も多くみられます。

図1 実質GDP成長率推移(%)

THE WORLD BANK Data、data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZGを基にEYにてグラフを作成

2. 日系企業の投資実績

日系企業も製造業を中心にルーマニアへ進出しており、すでに進出企業は100社を超えています。最近では、主に、次の新規投資や大規模プロジェクトの完了がありました。

  • (株)日立製作所の米国子会社(GlobalLogic)、ルーマニア大手IT(Fortech)を買収。
  • (株)タムラ製作所、フェテシュティに生産子会社を新規設立。
  • (株)IHIインフラシステムとイタリア企業WebuildのJVによるブライラ橋開通。

また、2023年3月に日本政府とルーマニア政府は、「戦略的パートナーシップの構築に関する日・ルーマニア共同声明」を発表しました。当該声明の中で、「両国は、主要なインフラプロジェクト開発並びにエネルギー、輸送及びデジタル連結性といった様々な分野における二国間協力の強化の可能性を認める※1」旨、宣言しており、今後も日系企業が引き続き、ルーマニアのパートナーシップとなることが期待されています。

※1 外務省「日・ルーマニア戦略的パートナーシップ構築に関する共同声明」、www.mofa.go.jp/mofaj/files/100469562.pdf(2024年1月15日アクセス)

Ⅲ 投資先としての魅力

1. 豊富な天然ガスと旺盛なインフラ投資

ルーマニアは黒海に面し、天然ガスの原産国でもあるため、EUの中でも天然ガスの輸入依存度が低く、結果としてエネルギー危機に強いという特徴があります。ルーマニア政府は、将来的に、天然ガスの周辺国への輸出拡大も検討しており、今後の動向が注目されています。

また、ルーマニアは、発電所、道路、鉄道、地下鉄といったインフラの老朽化が進んでおり、他のEU諸国と比較すると、まだ十分ではないため、ルーマニア政府はインフラの改修、拡張を優先課題として、インフラ投資を進めています。こちらも今後の動向が注目されます。


2. 安価な労働コストと税務コスト

ルーマニアの最低賃金はEUの中でも相対的に低く、下から2番目(663.24ユーロ/月、2024年1月時点※2)になっています。中東欧主要4カ国の中でも一番低く、ポーランドと比較しても約7割です。ルーマニアはEUの中でも相対的に労働コストが安価であり、投資をする際のメリットの1つと考えられます。

また、ルーマニアの主な税務コストは、法人税率16%、VAT標準税率19%、源泉徴収税率8%であり、EUの中でも、特に西欧と比較して、相対的に低い水準です(<表1>参照)。これも、投資をする際のメリットの1つと考えられます。

※2 eurostat「Monthly minimum wages - bi-annual data」ec.europa.eu/eurostat/databrowser/view/earn_mw_cur/default/table?lang=en(2024年2月13日アクセス)

表1 主要国の税率比較

          (単位:%)
  ルーマニア 日本 英国 ドイツ ポーランド
法人税率 16.0 23.2 25.0 15.0 19.0
VAT標準税率 19.0 10.0 20.0 19.0 23.0
源泉徴収税率 8.0 20.0 0.0 25.0 19.0

WorldwideCorporateTaxGuide2023より抜粋

3. 投資誘致に関するインセンティブ(EU補助金とルーマニア政府補助金)

ルーマニアでの投資誘致に関するインセンティブは、EU補助金とルーマニア政府補助金の2つに大別されます。

EU補助金は、EUの結束政策の一環としてルーマニアに割り当てられた補助金を意味し、2021年から2027年にかけて総額315億ユーロが拠出されることになっています。今後も、当該補助金を財源とした公共調達案件の入札が行われることが想定されます。

一方、ルーマニア政府独自の補助金も存在しますが、2023年に主要な補助金制度が一旦終了しており、2024年以降のスキームは新たな予算に基づき現在検討中の段階です。政府と業界団体(ルーマニア商工会議所など)との協議によると、スキームは大幅に変更されないことが期待されていますが、具体的な公表時期については現時点で未定であり、今後の動向が注目されます。

Ⅳ 投資先としてのリスクと課題

1. 財政赤字の削減と税制面への影響

現在ルーマニア政府は、多額の財政赤字を抱えており、欧州委員会より、財政の改善が求められているところです。財政赤字が一定額に達した場合、EU補助金が中断する可能性も想定されます。

この点、ルーマニア政府は財政赤字を削減し、長期的な財政確保を目的として2023年10月に新たな法律(法律2023年第296号)を公布しました。当該法律は、所得税のインセンティブの縮小(2023年11月より適用開始)、売上税の導入、VAT軽減税率適用項目の見直し(いずれも2024年1月より適用開始)など多岐にわたっており、在ルーマニア日系企業からも反響が出ています。今後も、このような財政赤字削減を目的とした企業にとって不利な税制改正が行われる可能性も否定できないため、その点は留意が必要と考えます。

Ⅴ おわりに

ルーマニアは近年著しく経済が成長しており、多数の投資機会があると考えられますが、その一方で、課題を抱えていることも事実です。ルーマニアへの投資を検討される際は、メリットとリスクを比較考量することをお勧めします。

EYでは日本人駐在員による日系企業の進出支援、在ルーマニア日系企業が直面する課題解決のサポートを行っています。会計、税務はもちろんのこと、法務、新規進出支援など、総合的なご相談に対応していますので、お気軽にお問い合わせください。

サマリー

EUの中でも近年成長が著しいルーマニア。なぜこの国はこれだけの成長を続けているのでしょうか。あまりよく知られていないこの国に対して、投資を行う際に参考となる情報を紹介します。

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