EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 グルグラム駐在員 公認会計士 松田晃典
2004年入所後、小売業・製造業など国内上場企業や多国籍企業の会計監査、外資系企業の日本法人の会計監査(IFRS)に従事。21年11月よりEYインド グルグラム事務所に現地日系企業担当として駐在し、会計、税務、コンプライアンス支援など、幅広いサービスで日系企業の事業展開を支援している。
要点
インドは13億人を超える人口に裏付けられた世界有数のマーケットの1つです。グローバル展開を検討している日系企業にとっても若い労働力、巨大な消費者マーケットを持つインドは関心が高く魅力的な進出先の1つとなっています。
近年、インド政府は製造業振興の「メイク・イン・インディア」のスローガンの下、会社法改正や多くの税制改革などの施策を実行、外資誘致、ビジネス環境やインフラの整備など制度のグローバル化に取り組んでいます。
一方で、発展途上のインフラや他国と比較すると複雑な制度、運用面での曖昧さによる実務対応の難しさもあります。会計監査、内部統制などの要請も広範です。
ここではインドへの進出に当たって事前に知っておきたい制度および留意点を紹介します。
進出形態は内国法人(現地法人)、外国法人(駐在員事務所、支店、プロジェクトオフィス)がありますが、日本の会計監査の前提と次の点が大きく異なります。
規模などにかかわらず全ての拠点でインド勅許会計士の会計監査が義務付けられ、進出時から会計監査が必要となります。会社法の規定により決算期は3月に法定され※1、多くの日系企業が該当する非上場会社は決算日から6カ月以内に開催する株主総会の前に行う取締役会の決算承認までに会計監査を受ける必要があります。
また、関係会社を持つインド会社は非上場でも、単体に加えて連結財務諸表を作成し、監査を受ける義務があります。
IFRSを基礎としたインド版IFRS(Ind-AS:Indian Accounting Standard)、現地基準であるインド会計基準(AS:Accounting Standard)があります。Ind-ASは全ての上場会社および純資産が25億ルピー以上の非上場会社に強制適用されます。自社はInd-AS適用対象外の会社でも、Ind-AS強制適用会社の持株会社、子会社、合弁会社、関連会社である場合はInd-ASの適用が求められますので、インド上場会社と合弁会社を設立する場合などは留意が必要です。
過去の不正事件を受けて、監査人の独立性を維持するために一定の会社に会計監査人の強制ローテーションルールが導入されています(<表1>参照)。
会計監査人は5年ごとに選任され、選任期間満了前で正当な理由なく解任することはできません。そのため、5年継続を前提として各会計事務所の特徴を理解して進出時に慎重に監査人を選定する必要があります。
任期中に監査人を解任する場合は臨時株主総会の普通決議および中央政府の事前承認が必要になります。中央政府の承認には解任根拠の十分性の確認など煩雑な手続も絡み、実務上は監査人と協議し、合意の上で監査人に辞任してもらうのが一般的です。
小規模会社等※2を除く非上場会社の監査でもインドの会計監査人の監査報告書には意見表明以外にCARO(Companies Auditor's Report Order)の規定する一定事項(棚卸資産の実地棚卸、不正、継続企業の前提など)のレビュー結果が記載されます。
2022年3月期より適用となるCARO2020は記載項目が<表2>のように21項目となり、以前よりも増加しています。監査人の報告責任を強化するものですが、企業にも財務に係る内部統制を強化し、重要情報を適時適切に監査人に提供する必要が生じます。
親会社はインドに拠点の監査報告書入手時にCAROにも目を通し、除外事項等が無いか確認する事もグループガバナンスの観点から有益です。
(1) 内部統制に関する規定aインド会社法により特定の会社を除く(<表3>*1参照)全ての会社は財務報告に係る内部統制の構築と運用を行い、取締役会への報告が義務付けられます。また、その有効性について、会計監査人の意見表明が求められます。日本版内部統制報告制度とインド版SOXはCOSOフレームワークを基礎としており共通項目が多いですが、日本版のように評価範囲に主要3勘定の例示がないなど、内部統制の仕組みの文書化やテスト実施などは別途インド勅許会計士協会のガイドラインに沿った整備運用が必要です。
所得税法により、年間売上高1,000万ルピー超の場合(<表3>*2参照)は勅許会計士の税務監査が必要です。
対象取引が1ルピーでもあれば移転価格の対象取引(国際/特定の国内取引)と金額について勅許会計士からForm 3CEBという証明書類の入手義務が生じます。
対象会社(<表3>*3参照)は社内外の勅許会計士等の専門家を内部監査人として選任し、内部監査の範囲、方法、頻度などを協議して決定します。
インド会社法の専門家(公的で非常に難易度の高い資格といわれる)であり、会社内部の文書管理や株主管理を行うとともに、会社のコンプライアンスについて責任を負う責任者をいいます。
対象会社(<表3>*4参照)は常勤の会社秘書役の設置義務、会社秘書役の監査義務があります。
(1) ~ (5) の対象範囲について一覧化すると、<表3>の通りになります。
インドは経済成長、外資誘致のために、ここ10年コンプライアンス制度の大きな見直しを行っていますが、依然としてコンプライアンス項目は範囲が広く、詳細なガイダンスがないことによる解釈・運用面の難しさがあります。
新規進出支援サポートなど、総合的なご相談に対応しておりますのでお気軽にお問い合わせください。
※1 例外的に海外の親会社の決算日に統一するなどの理由で当局に承認されれば、3月決算以外を採用できる。但し、所得税法上は課税年度が4月1日から3月31日と指定されているため、3月末であらためて決算を行う必要があり、2度決算の作業が生じることに留意が必要。
※2 銀行、保険会社、会社法セクション8の会社(慈善事業目的等、政府の承認を得た一定の会社)、一人会社と会社法セクション2(85)の小規模会社、非公開会社で公開会社の子会社または持株会社ではなく貸借対照表日現在の払込資本、準備金および剰余金の合計が1,000万ルピーを超えず会計年度のどの時点でも銀行や金融機関からの借入金総額が1,000万ルピーを超えず、かつ2013年会社法のScheduleⅢに開示される売上高総額(廃止事業の収益含む)が財務諸表上で1億ルピーを超えない会社
若い労働力、巨大な消費者マーケットを持つインドは、グローバル展開を検討している日系企業にとって関心が高く魅力的な進出先の1つとなっています。本稿では,インドへの進出に当たって事前に知っておきたい制度および留意点を紹介します。
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