EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 フランクフルト駐在員 公認会計士 久保川智広
2005年入所後、国内外の製造業、不動産業、化学産業、総合商社などの日本基準・USGAAP・IFRSの監査業務を担当する他、会計アドバイザリー・IFRS導入支援業務に従事。19年11月よりEYドイツフランクフルト事務所に現地日系企業担当として駐在し、会計、税務、法務、IT、コンプライアンス、新規投資支援など、多岐にわたり日系企業の事業展開を支援している。
要点
2021年4月21日、欧州委員会は、企業のサステナビリティ報告に関する指令(CSRD)案を公表しました。これにより約49,000社がCSRDに基づく開示(CSRD開示)に対応することが必要になると見込まれ、日系企業にも影響が生じます。
欧州の成長戦略である欧州グリーンディールにおいて50年までに気候中立の達成が掲げられていますが、この施策の実現には、大規模な公共および民間投資が必要です。ここで、CSRDによって報告対象をより多くの企業へと拡大し、サステナビリティ報告を財務報告と整合させることで、報告の一貫性を高めることが期待されます。これにより、比較可能で信頼性の高いサステナビリティ情報が利用可能となることは、欧州の施策実現に大きく寄与すると期待されています。
上場・非上場を問わず、すべての大規模会社※が適用対象となります。なお、対象にはEU域外企業のEU域内の子会社が含まれます。
本指令は「ダブルマテリアリティ」の概念に準拠し、「環境・社会のマテリアリティ」と「財務のマテリアリティ」の両方の観点からマネジメントレポート内で開示を行うことが求められます。主な開示項目は以下の通りです。
例えば温室効果ガスについて、サプライチェーン排出量の開示が求められます。
【サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量】※<図1>参照
出典:環境省ウェブサイト www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
つまり、事業者自らの排出だけでなく、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、事業活動に関係する全体から発生する温室効果ガスを合計した排出量の開示が求められます。
また、21年9月にCSRDの設定主体である欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)公表のプロトタイプ基準では、開示対象年度のみならず基準年度および比較対象である前々期、前期の情報開示も求められているため、過去情報の収集についても留意が必要です。
CSRDに基づくサステナビリティ報告は外部の第三者による限定的な保証を受ける必要があります。また、本制度導入後、限定的な保証よりも保証水準の高い合理的な保証へ移行する予定です。
当報告は、前述の通り、マネジメントレポートにて開示されるため、当該保証は、原則的には監査人によって提供される予定です。ただし、監査法人以外の保証者にも保証業務の提供が許可される予定です。
CSRD開示は個社ベースの開示を親会社が作成し、第三者の保証を受けた連結グループのCSRD開示に代替することが可能です。
23年度より適用開始予定です。22年10月31日までにサステナビリティ報告基準の第1弾(開示すべき全てのサステナビリティ事項および全ての報告領域が含まれる予定)が採択され、23年10月31日までにサステナビリティ報告基準の第2弾(最初の基準での開示を補完する情報や業種固有の情報が含まれる予定)が採択される予定です。また、EU加盟国は、23年1月1日以降始まる事業年度より適用するよう、22年12月1日までに本EU指令を国内法化が求められています(<図2>参照)。
※ 執筆後、欧州理事会でCSRDの適用開始時期を遅らせる修正がなされています。22年春開催の欧州議会で協議され、最終決定される予定です。
サステナビリティ情報の開示につき、対象となるEU域内子会社が個社別に対応するのではなく、上記免除規定を利用し、日本本社が連結グループベースにて、もしくはEUの統括会社がEU連結グループベースにて当該開示を作成し、これをEU各社で利用する方法も検討されています。日本でもプライム市場上場会社においては、コーポレートガバナンス・コード改訂により気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)開示が求められており、サステナビリティ情報の開示の検討が進められています。ただし、CSRDとTCFDは範囲と内容が完全に一致するものではないため、EU外の世界各国に展開している会社では、EU連結グループベースでの開示準備を進める方向性を採用する会社が多いようです。
また、現時点で以下の検討をしておくことが有用と考えられます。
執筆時点(22年1月)で明確な開示基準は公表されていませんが、開示範囲が広範囲にわたり、内容も深度の深いものが求められると予想されるため、現時点で着手可能なことから始めることが重要だと考えます。また、今後も22年3月頃にCSRD公開草案の公表やEFRAGと協調するIFRS財団が設立した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、22年6月に国際的に統一された気候変動に関する開示基準の公表が予定されているなど、22年も大きな動きが予定されるため状況の注視が必要です。
※ 次の三つの基準のうち二つを満たす会社
2021年4月21日に欧州委員会が公表した企業のサステナビリティ報告に関する指令(CSRD)案について制度概要(対象企業、開示内容、第三者保証、免除規定、スケジュール)や現時点の検討事項を解説します。
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