海外赴任者規程とグローバルなモビリティポリシーの考え方

海外赴任者規程とグローバルなモビリティポリシーの考え方


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海外赴任者の働き方が多様化してきたこともあり、海外赴任者規程の見直しの機運が高まっています。本稿では、グローバルモビリティポリシーの作成を行う場合、よくあるパターンと解決策について説明します。


本稿の執筆者

EY税理士法人・EY行政書士法人 税理士・行政書士 藤井 恵

15年にわたり、日本から海外または海外から日本への赴任者・出張者の税務、給与、福利厚生、リスク管理など、グローバルモビリティに関する総合的なコンサルティングサービスを企業に提供。主な著書(共著)に『海外勤務者の税務と社会保険・給与Q&A』(清文社)『すっきりわかる!海外赴任者・出張者・外国人労働者雇用』(税務研究会)などがある。


要点

  • コロナ禍による海外赴任者の働き方の多様化により、状況に応じ複線化できる海外赴任者規程(グローバルモビリティポリシー)作成機運が高まっている。
  • ポリシー検討時には、どのような赴任形態が考えられるかを整理し、税務や社会保険に関する重要ポイントを処遇と税務を並行して検討しながら制度設計を行うことが必要です。

Ⅰ はじめに

企業の海外展開が進んでくると、日本から海外への赴任だけでなく、海外から日本や、海外から海外への異動のケースも出てきます。また、日本から海外に赴任する場合も、これまでのように「数年間のみ会社都合で海外に赴任して仕事をする」場合から、本人都合で海外に滞在して仕事をしたり、世界中を転々と移動することを前提とした赴任などさまざまなケースが生じています。コロナ禍により、海外赴任者の働き方が多様化してきたこともあり、海外赴任者規程を単一の処遇ではなく、状況に応じて複線化できるようなグローバルに利用できるポリシーにするなど、規程の見直しの機運が高まっています。

そこで本稿では、グローバルモビリティポリシーの作成を行う場合、よくあるパターンと解決策について説明します。

 

Ⅱ グループ全体の国際間人事異動規程(Global Mobility Policy)作成時によくあるパターン

1. 日本の海外勤務者規程をもとに作成する場合

日本の規程を英訳するなどして、グローバルなポリシーとして利用する方法です。

この場合、「処遇の記載のみで、会社の考え方が記載されていないので、ポリシーとして名ばかり」「役職にかかわらず手当の額は変わらない」「出向元が日本の場合とその他の国の場合では出向元での所得税の取扱いが異なるためそのままでは使えない」という状況に陥ることがあります。

2. 具体的なことを定めず方針の記載にとどまる場合

「国によって状況は違うから」と、細かな処遇は記載せず、「〇〇についての支給は行う(行わない)」といった各項目の大枠だけ記載されたポリシーもあります。また、ポリシーといっても、基本的な支給項目の羅列や、出向元と出向先の人事担当者の大枠の役割を書いたにすぎない場合もあります。これですと、詳細は全て現地に委ねられることになります。その結果、項目の並び順が同じであるだけで、「グローバルな処遇とその方針を定めたもの」としては物足りず、結果として活用できません。

3. 日本の規程を全く考慮せず、新たなポリシーを作る場合~海外主導でポリシーを作成する場合

日本企業が買収した海外の企業がいわゆるグローバル企業であり、すでにグローバルなモビリティポリシーを持っているケースなどがこれに当てはまります。

このケースの場合、海外子会社自身、またはその会社の専属のコンサルティング会社を含めて、モビリティポリシー作成のミーティングが進みます。彼らは日本の処遇や考え方に必ずしも明るいとは言えないので、日本の税務や社会保険の取扱いを把握していない可能性があります。

そのような状況下でモビリティポリシー作成の議論が進み、日本側が特段関与しないまま任せていると、日本からの赴任者には到底受け入れ難いものになることがあります。グローバル企業だからといって、社員のマインドまで「グローバル」になっているとは限りません。結果として社員から不満が多く、競合他社と比較した際に見劣りがし、良い人材の採用が難しくなります。

 

Ⅲ 解決策 日本からの赴任者にも海外現地法人からの赴任者にも通用する複線型の制度を作成

「Ⅱ1. 日本の規程をそのまま翻訳して使う」形だと、日本以外の国からの赴任にそぐわない面が出てきます。一方で、「Ⅱ2. 具体的なことを定めず方針の記載にとどまる場合」も、結局何も決まっていないも同然です。さらに「Ⅱ3. 日本の制度を考慮せず、グローバルなものを作る」と、日本からの赴任者の考え方にそぐわないものになるリスクがあります。

そのため、その折衷案として、これまでの単一的な処遇から複線型の処遇を用意するなど、新たな考え方を取り入れつつも日本人にもなじむものにする必要があります。さらに、これまでの「生え抜きの日本人男性の管理職」から、女性や外国人、役員などさまざまな属性の方が海外赴任するようになっています。つまり、日本からの赴任者だけをみても多様化しています。そのため、単一の処遇を設定するのではなく、「海外赴任時の処遇に関するポリシー」を設定しつつも、赴任目的、赴任期間、業務内容などに応じた処遇を検討する必要があります。

この方式でポリシー作成を進める場合、まずは過去にどんな赴任者がいたのか、今後発生する赴任者としてはどのようなケースがあり得るのか、日本からの赴任者はもちろん、海外現地法人からの赴任者のケースもヒアリングしてみるとよいでしょう。

その上で、どんなケースがあり得るのかを整理し、それぞれにおいてふさわしい処遇をディスカッションし、自社グループではどれほどのパターンの処遇が考えられるかを整理します。「給与・手当」「福利厚生」「税・社会保険料」の三つに分けて考えていくことをお勧めします。

中には、「複線型の処遇を考えると一つのポリシーになり得ないのではないか」という不安をお持ちの方がいるかもしれません。

しかし、「当社の海外赴任の考え方は〇〇である」という大枠のポリシーを定めた上でそのポリシーに照らして処遇を考えた場合、「給与については△△と考える。そのため、赴任目的や業務内容・赴任期間を考慮すると、給与タイプとしてはA~Dまでの4タイプに分けられる。基本となるポリシーに照らすと処遇Aであれば手当はこのくらい、処遇Bであれば手当はこのくらい、処遇Cでは手当は払わない......」といった形で整理していきます。

 

Ⅳ おわりに

このように検討する中で、さまざまな矛盾に気付いたり、自社の考え方をさらに整理することができます。また、国をまたぐ移動において、税金や社会保険の取扱いは国によって大きく異なります。そのため、この点を考慮せずモビリティポリシーを作ってしまうと、さまざまな矛盾や解決できない事態が生じ、機能しないものになります。

そのため、ポリシーを作成する際には、どんな赴任形態が考えられるかを整理しつつ、税務や社会保険に関する重要ポイントを処遇と税務を並行して検討しながら制度設計を行うことが必要になります。

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サマリー

海外赴任者の働き方が多様化してきたこともあり、海外赴任者規程の見直しの機運が高まっています。本稿では、グローバルモビリティポリシーの作成を行う場合、よくあるパターンと解決策について説明します。


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