2024年におけるテクノロジー企業のビジネスオポチュニティ・トップ10

2024年におけるテクノロジー企業のビジネスオポチュニティ・トップ10


生成AI時代に成功を収めるための再構築と再配置、そしてイノベーション。AIを戦略の中心に据えることで、これまで先行していた競合他社を一気に追い抜く可能性を秘めています。


要点

  • ゲームチェンジャーとなるテクノロジーとして生成AIを導入し、組織の専門知識と経験のレベルアップを図る。
  • 生成AIを含むあらゆる先端テクノロジーを総合的に活用し、業務の強化を図る。
  • デジタルインフラに投資し、アジリティとパフォーマンスを高める。

EY Japanの視点

わが国においては令和5年度税制改正においてグローバルミニマム課税が法制化され、対象となる企業は2024年4月以降開始の事業年度を対象とした制度対応として会計への影響対応および申告を見据えた態勢整備が求められています。

新たな制度対応に加えて税情報の開示検討が求められる中、税務人材の確保・維持に非常に多くの企業が苦労しています。金融サービス業界においては欧米企業が先行して社内外のリソースを活用したコソーシングの採用を進めており、近年日系企業においてもコソーシングに関する問い合わせが増加しています。

日常的なコンプライアンス業務と付加価値の高い戦略業務の中で、企業がより重点を置くべき領域を明確化した上でコソーシングを選択肢に含めて態勢整備検討を進めていくことが重要です。


EY Japanの窓口
尾山 哲夫
EY Japan テクノロジー・メディア & エンターテインメント・テレコムリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 セクター副リーダー コンサルティング・マーケッツリーダー パートナー

世界中のテクノロジー企業は、同セクターが何とか将来に向けて軌道修正した1年を経て、2024年を迎えています。2023年は、世界中で経済的逆風が吹き荒れ、地政学的緊張が高まりましたが、同セクターはうまく乗り切ることができました。また昨年は、人工知能(AI)を中心とする先端テクノロジーのポテンシャルを巡り、楽観論と興奮、期待が広がりを見せた年でもありました。あらゆる問題を解決するわけではありませんが、生成AIや大規模言語モデル(LLM)、業界固有のコパイロットなどの先進的な技術やサービスが、急速にナラティブを書き換えようとしています。
 

リスクが高まる中、成長重視に回帰

テクノロジーセクターの見通しは、12カ月前に比べてはるかに明るくなりました。2023年初旬は、マクロ経済の低迷で同セクターのバリュエーションが低く抑えられ、テクノロジー企業も利益率を上げるため、コスト削減や規模の適正化を図るようになりました。こうした対応により、主要目標が達成できただけでなく、資金的余裕が生まれ、将来の成長を加速させるための新しいテクノロジーへの投資に資金を回せるようになったのです。企業は、AIをハードウェアやソフトウェア、サービスを含め、テクノロジーセクター全体における成長機会として見ており、先端テクノロジーの中で最も有望視しています。

さまざまなマクロ面の課題が引き続きテクノロジーセクターに影響を及ぼしていますが、テクノロジー企業がAIを中心に据えた戦略を新たに掲げたことで、投資家の信頼を取り戻すことができました。一方、経済的逆風は売り上げを圧迫しています。企業は、数々の地政学的な紛争や貿易紛争により、さまざまな市場やテクノロジー、原材料、部品へのアクセスが困難になっています。また、データ保護規制の改正も企業のデータ収益化の方法を変えることになるほか、デジタル課税と反トラスト規則により競争環境が一夜にして変わる可能性があります。


2024年におけるテクノロジー企業のビジネスオポチュニティ・トップ10

詳細な知見については、レポートの全文をご覧ください。


2024年のオポチュニティを描く

私たちは、こうした状況を背景に、2024年のテクノロジー企業のビジネスオポチュニティについて分析しました。その結果、サプライチェーンの最適化、自動化、リスク管理、顧客ニーズへの対応、新規事業開発など、ほぼ全ての事業活動にAIツールを活用できることが分かりました。


私たちは、ビジネスオポチュニティ・トップ10のリストを取りまとめるに当たり、業務プロセスやサブセクターを問わず、テクノロジー企業がとる可能性のある行動に対してバランスの取れた視点を示すことを目指しました。こうした機会を獲得するために迷わず行動することで、テクノロジー企業は、イノベーション、画期的なテクノロジーの開発、新しいサービスの市場投入など、最も得意とすることに注力できます。

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オポチュニティ1

デジタルトランスフォーメーション戦略に生成AIを組み込み、コントロールタワーを設置する

企業全体で、変革的でありながら信頼できる、倫理的な生成AIの導入を実現する。


AIの成熟度
の企業がまだAIの成熟の初期段階にあり、小集団内で概念の実証を行ったり、ケイパビリティを構築している状況です。

出典:EY, Innovation Realized Executive Pulse Survey, 2023

生成AIは、新たなデジタルトランスフォーメーション時代の先駆けとなっています。テクノロジー企業にとって、それは多大な効果をもたらすと同時に、危険を伴う可能性もあります。多くの企業はすでにデジタルトランスフォーメーションが進んでおり、今後リーダーに求められるのは、自社のデジタル戦略を見直し、AIが中心的役割を果たす方向へ転換することです。生成AIが登場する前に設計/実施されていたトランスフォーメーションの取り組みは急速に時代遅れとなっており、これまでの先駆者は、新しいケイパビリティを優先する競合他社に後れを取る可能性があります。

対照的に、デジタルトランスフォーメーションの初期段階で後れを取ったテクノロジー企業には、チャンスがあると言えます。戦略の中心にAIを据えることで、それまで大きくリードされていた競合他社を一気に追い抜く可能性があるのです。AIは、トランスフォーメーションの取り組みを加速させるだけでなく、業務を再構築し、急速に台頭する新しいテクノロジーとビジネスモデルの活用を可能にします。

こうしたリスクと機会の難しいバランスの中で、デジタルトランスフォーメーションを先導する業界リーダーの地位の維持/獲得を目指すテクノロジー企業は、AIのコントロールタワー(各事業部門のトップと、最高デジタル責任者や最高データ責任者など経営幹部から成る特別運営グループ)を設置すべきです。この運営グループは、生成AIを活用したデジタルトランスフォーメーションの包括的なビジョンを策定し、主要なビジネス機会を把握し、戦略を立て、人材戦略を最適化して、AIを責任ある方法で導入することができます。

重要なのは、AIのコントロールタワーによって、人がデジタルトランスフォーメーションの中心であり続けることです。また、リーダーたちは、適切なポリシー/手順、ガバナンス/説明責任に関する戦略を整備し、研修・意識向上活動を推進することにより、安全で信頼でき、倫理的なAIの導入を後押しすることができるでしょう。

テクノロジー企業の新たなイノベーションの原動力となっている先端テクノロジーは、生成AIだけではありません。エッジコンピューティング技術やクラウド技術、量子技術なども、デジタルトランスフォーメーションで重要な役割を担うことになるでしょう。生成AIを単独で活用するのではなく、より幅広いテクノロジートランスフォーメーションの中に取り入れることにより、持続的な価値を創造する上で有利な立場に立つことができます。

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オポチュニティ2

フロント・バックオフィスのターゲットを絞ったユースケースで生成AIを試験的に導入する

生成AI導入に伴い、高い価値をもたらす機会を特定し、ターゲットを絞る。


後れを取らないこと
のテクノロジー企業のCEOは、競合他社に戦略的優位性を与えないよう、今すぐ生成AI対策に取り組む必要があると考えています。

出典:EY, CEO Outlook Pulse Survey, 2023

この1年間で生成AIの認知度は一気に向上し、人々の注目と関心を集めました。テクノロジー企業は、革新的な力に触発されて、さまざまなフロント・バックオフィス部門でその活用の機会を探っています。こうした取り組みの早期の成果を見れば、生成AIを効果的に使用した場合、製品・サービスの改良と業務の効率化の双方で企業の役に立つことが分かります。

その一方で、生成AIツールは、多くのコストとリソースを必要とするなど、課題も残っています。全てのユースケースに生成AIの活用を進めたくなりますが、大きな効果と価値が得られるユースケースとトランスフォーメーションの機会にターゲットを絞り、初期の投資、人員、リソースの割り振りを慎重に検討することで、より大きな成果を上げることができると思われます。まず、生成AIを活用できる潜在的な機会のポートフォリオを開発したり、現在の取り組みに組み込むことを推奨します。次に、考えられるユースケースについて、既存ビジネスの喫緊の課題や拡張性との兼ね合いなどの指標を基に評価し、優先順位を決めます。

生成AIへの投資の開始/拡大を目指すテクノロジー企業は、資本配分戦略を変更することなく、収益性の高い成長を支えるフロントオフィスのユースケースをターゲットにすることができます。例えば、ソフトウェアコーディングで生成AIを活用したり、ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)を使用した、収益性に直結するコンテンツの作成を加速することが挙げられます。

バックオフィスでの生成AIのユースケースは、生産性の向上やコスト削減の一助にもなります。また、フロントオフィスでの取り組みと連携させることで、企業は生成AIを活用してコンテンツを作成し、情報の検索と要約、会話機能などの分野で迅速に価値を創造することができます。このアプローチに適した部門は、法務部門、コンプライアンス部門、税務部門、カスタマーサクセス部門などです。その他、人材の獲得、新人研修、定着、スキルアップにAIツールを導入して、採用活動を最適化することも可能です。


3

オポチュニティ3

急成長するエッジエコノミーにおける新しい形のデジタルインフラに投資する

ユビキタス接続に移行し、意思決定の遅れを最小限に抑える。


エッジコンピューティングのメリット
の回答者(経営幹部)が、自社はエッジコンピューティングのユースケースと概念の理解を深める必要があると考えています。

出典:EY, Reimagining Industry Future, 2023

先端テクノロジーの変革力を主に支えているのは、超高速のデータ収集/計算能力です。AIの急速な進化、エッジでの超高速処理が必要なユースケースの普及、絶えず変化する規制を考えると、信頼性の高い接続と迅速な計算能力を支えるデジタルインフラへの投資を最適化することが不可欠です。

幅広い新しい機会を生かす上で不可欠なのは、高速ユビキタス接続、低遅延コンピューティングを中心とする、新しいタイプのデジタルインフラです。テクノロジー企業は、こうした能力や機能の活用によってメリットを受けられますが、目的に合わないインフラに資金の過剰投資をしないよう注意する必要があります。エッジエコノミーが急成長する中、次世代デジタルインフラの整備と、ますます厳格化される資本制約の中で、双方の目標のバランスが取れる企業は勝ち抜くことができるでしょう。

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オポチュニティ4

新興市場に新たな供給ラインを構築する

サプライチェーンの複雑化と混乱を見通し、レジリエンスを高める。


ハードウェア重視のテクノロジー企業にとって、サプライチェーンの分断(デカップリング)リスクは依然として現実にある問題です。そのため、半導体などのサブセクターでは、地政学的な混乱による影響を回避するため、企業は競い合うようにサプライチェーンの再編を進めています。例えば、米国においては、先進製造技術の発展により、台湾関連のリスクの一部が軽減される可能性があります。とはいえ、先進製造技術の向上は、チップの製造に不可欠な、相互に関連のあるエコシステムを拡大させる取り組みの一歩に過ぎません。

米国以外の国々も国内製造分野のケイパビリティ強化を進める中で、ガリウムやゲルマニウムのような主要一次産品から、必要不可欠な製造ツールや設計用ソフトウェア、パッケージング、テストサービスまで、数多くの活動を巡り緊張が激化する可能性もあります。

2023年版のEY Global Board Risk Surveyでは、取締役会が優先的に取り組むべき3大リスクのうちの2つは、地政学的事象とサプライチェーンの混乱です。こうした状況を背景にチップメーカーの間で、シンガポールやベトナム、マレーシア、フィリピンなどのASEAN諸国やインドをはじめとする新興市場に拠点を設ける動きが広がっています。これは、貿易紛争にさらされる国・地域を避けて、拠点の多様化と拡大を図る確かな機会となっています。こうした拠点の多様化・拡大では通常、まず包装やテスト業務から始め、ウエハー製造工場や先進パッケージングなど、より高度なプロセスを移転させます。世界各地に顧客を持つ企業の場合、中国本土と西側諸国の両方で、サプライチェーンの多様化を図るか、第2のサプライチェーンを構築することで、貿易が今後混乱するリスクを軽減できます。現在、インドやASEAN諸国への投資が増えていますが、今後はそれ以外の地域もこの流れに沿って、テクノロジー企業の拠点誘致に乗り出すことが予想されます。

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オポチュニティ5

AIロードマップを中心に企業投資計画を策定する

買収、M&A、パートナーシップ構築を進めて、AI関連のキャパシティとケイパビリティを強化する。


アライアンス重視
のCEOが今後12カ月間に何らかのトランザクションを計画していますが、積極的に買収を進める意欲は急激に低下しており、ジョイントベンチャーや戦略的アライアンスをより重視しています。

出典:EY, CEO Outlook Pulse Survey, 2023

AIやLLMの使用が急激に拡大していますが、この流れに乗ることは簡単ではありません。その理由の1つには、ハードウェアの需要が供給を上回り、価格が高騰し、入手が困難な状況があります。また、LLMの学習には時間と費用がかかり、かなり大規模なデータが必要な上、簡単にアクセスできない可能性もあるからです。その上、こうしたサービスをカスタマイズして展開するには、希少なスキルと人材が必要です。これらは全て、新規サービス開発と市場投入までの時間を巡って、買収または構築するかの判断を迫られた時に課題に上ります。

過去の経験から買収とM&Aが開発加速の一助となることは明らかですが、AI分野のM&Aに対する規制はハードルが比較的高く、それには2つの理由があります。まず、同セクターの反競争的行為の取り締まりが全般的に厳しく、特に大型M&Aは厳しく審査されます。また、地政学的緊張と国際貿易紛争が、半導体やAIなどのサブセクターを中心に、M&Aを阻む障壁となっています。対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States:CFIUS)や欧州議会国際貿易委員会(European Parliament Committee on International Trade:INTA)などの機関による審査や承認が必要なAI分野の国境を越えたM&Aは、今まで以上に締結が難しくなるでしょう。とはいえ、今日のテクノロジー企業はプラットフォームビジネスを展開しているため、既存のAIエコシステムを基盤としたビジネスモデルを持つ、対応力に優れた魅力的な企業が今後も数多く登場することを考えると、依然としてM&Aの将来性も明るいと言えます。

従って、AI分野で事業を拡大する最善の方法は、小・中規模買収と企業投資、パートナーシップを組み合わせることだと考えられます。買収により、企業は知的財産や、新しい提案の迅速な策定に必要な人材/スキルにアクセスすることが可能になります。企業投資は、現在は実現不可能と思われる未来のアプリケーションに向けたさまざまなロードマップの策定を推進します。またパートナーシップを構築することで、新しいビジネスチャンスの開拓に必要なデータ、サービスや市場にすぐにアクセスできることができます。

6

オポチュニティ6

プラットフォーム・ビジネスモデルを使用して、先端テクノロジーを産業化し、その規模を拡大する

革新的で目的に合ったビジネスモデルを導入し、技術の進歩の可能性を引き出す。

プラットフォームビジネスは、テクノロジーセクター全体で標準的なビジネスモデルとなっています。プラットフォーム戦略によって顧客と向き合い、製品とサービスを販売することで、あらゆるサブセクターの企業が規模を拡大し、外部のキャパシティとネットワークを活用して、新たな市場でのビジネスチャンスを生かせることが明らかになりました。また、より効果的な価値創造と、競合他社も含めた企業間の互恵的連携を支えているのが、プラットフォーム戦略の中核を成すマルチパーティ・エコシステムです。2023年版の EY Platform Economy Transformation Study から、テクノロジー企業の半数強が、今後プラットフォーム・ビジネスモデルは、顧客との距離を縮め、その関わりを深め、収益・利益を増やす一助になると考えていることが分かりました。

プラットフォーム・ビジネスモデルは、生成AI革命の中心的役割も担っています。テクノロジー企業は、生成AIプラットフォームの市場の開拓と、社外で開発された生成AI機能の社内業務への統合を進めており、LLM開発事業者は、プラットフォームモデルを使用し、自社製品・サービスの普及と継続的な改善を支援しています。一方、ハードウェア・半導体メーカーは、生成AIの幅広い使用に必要なインフラの整備を目的に、プラットフォーム・パートナーシップやプラットフォーム・エコシステムの構築を進めています。また、社内のインテリジェントアシスタントを含め、生成AIの企業使用の最前線に立つ企業は、これらの機能を安全かつ効果的にユーザーに提供するために、プラットフォーム戦略を刷新しています。

こうした事例から明らかなように、現在テクノロジーセクターは、変化と刷新の時期を迎えています。今、データ戦略を含め、プラットフォーム・ビジネスモデルの導入や進化の加速に向けて目的主導型のアプローチをとる企業は、価値を獲得し優位な立場に立つことができます。今後は、AIがセクター全体に激変と機会をもたらし、企業が市場シェアと影響力の争奪戦を繰り広げる中、堅固かつ多様化したプラットフォームを展開できるかどうかが、敗者と勝者を分ける鍵を握ると思われます。

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オポチュニティ7

今後課せられる新たな税負担に対する、積極的かつ包括的な対応を確立する

大幅かつ国際的な税制の変更に備える。


BEPS 2.0の影響
のテクノロジー企業のリーダーが、BEPS 2.0のグローバルミニマム課税の導入に伴う変化は「中程度から大規模」になると予想しています。

出典:EY, Tax and Finance Operations Survey, 2023

2024年1月1日に施行された国際的な税制は複雑なため、テクノロジー企業は税務部門だけでなく、幅広い分野において影響を受けることが予想されます。今、先を見越し、税務プロファイルの最適化を図るべく包括的かつ十分に対応する企業は、対応の遅い競合他社に比べ有利なスタートを切ることができるでしょう。

OECDのBEPS 2.0第2の柱の影響がさまざまな形でテクノロジー企業に及ぶことが考えられるため、今回の税制の変更は重要な意味を持ちます。具体的には、国際課税の納付税額の引き上げや、サプライチェーンにおける人材や機能的資産のコロケーション、サプライチェーン全体のESG戦略、グローバルミニマム課税制度の順守に伴うコスト/リソース面の取り組みなどが挙げられます。実際、グローバルミニマム課税の導入が、最大かつ最もディスラプティブ(破壊的)な規制環境の変化であることは間違いありません。

世界各地に拠点を置き、国・地域を越えたプラットフォーム戦略、分散したユーザーベース、複雑なサプライチェーンを持つテクノロジー企業は、変化に徹底的かつ周到に備えることで、特に大きな恩恵を受けることができます。嵐を乗り切り、事業の混乱を最小限に抑えるには、先を見越して新しい要件を評価し、それに対応することが不可欠です。グローバルミニマム課税制度の導入で、2024年からは最低税率が15%になりましたが、大手テクノロジー企業は、事業を展開する国・地域で税率が15%になるようグローバルサプライチェーンを構築し、その運営を支援することで、自社の事業に投資する運転資金を確保することができます。

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オポチュニティ8

環境への取り組みにおいて、データセンターのエネルギー効率化を優先する

エネルギー消費量が多く、増加傾向にある分野に、サステナビリティへの取り組みを集中させる。

ネットゼロへの道のりは長く、時間を要し、地域やセクターによって、その進み具合も異なります。テクノロジーセクターにとって、この取り組みを完了することが特に重要である理由に、まずこのセクター自体の環境負荷がかなり大きいこと、次にCO2排出量の削減に必要なツールの提供を社会が同セクターに頼っていることが挙げられます。そのため、多くのテクノロジー企業が炭素目標にすでに取り組んでいますが、予算が制約され、利益率が圧迫される中、どこから始めるか、何を優先すべきかを検討することが肝要です。

廃棄物の削減、リサイクル、有害化学物質の代替、持続可能なエネルギーの利用、水質汚染の軽減など、多くの分野について検討が必要です。こうした対応も重要ではありますが、今年テクノロジー企業が特に力を入れるべきなのは、データセンターのエネルギー効率化だと考えられます。現在、デジタルトランスフォーメーションやクラウド移行、エッジデバイスやソーシャルメディアの利用の増加などに伴い、企業および個人レベルで生み出されるデータの量は増加し、データセンターの数と規模が増大しています。また、それに伴い、データセンターが消費する電力量も増えています。しかも、LLMの学習やインテリジェントシステムの運用には大量のコンピューティングおよびストレージ能力を必要とするため、データセンターのエネルギー使用量の加速的な増加は差し迫っています。2027年までにAIの電力消費量は、オランダ一国の消費量に並ぶ可能性があり、その需要も拡大する一方です*。

今こそテクノロジー企業は、エネルギー設備メーカーに投資するとともに、メーカーと共同で、データセンターの革新的な新しい動力源を開発すべきです。データセンターのエネルギー効率化を図ることで、短期的にはデジタルサービスの生産コストを削減し、将来のエネルギー危機の影響を軽減できます。使用していないエネルギーは脱炭素化する必要がないため、長期的に見ても、ネットゼロへの道のりにおいてメリットはあると思われます。

*出典:de Vries, The growing energy footprint of artificial intelligence, Joule, 2023

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オポチュニティ9

高度なリスクツールに投資し、コスト、リスク、レジリエンス、アジリティの間のトレードオフを見直す

ビジネスモデルとオペレーティングモデルが受ける打撃に備える。


リスク管理ギャップ
の取締役会が、「現在のリスク管理の枠組みでは新しいリスクに十分に対処できない」に「そう思う」と回答しています。

出典:EY Global Board Risk Survey, 2023

次に起きるブラックスワン現象を予知することはできるのか。それは、いつ、どのように発生し、事業にどんな影響を及ぼすのか。この質問は、現実離れしているように聞こえるかもしれません。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで、ディスラプティブな事象がさらなる事象を引き起こし、リスクと機会を生み出し、テクノロジー企業の中でも、そうした事態に対してうまく対処できる企業と、できない企業で明暗が分かれることが明らかになりました。万全の準備を整え、十分に対応することができるかどうかが、四半期ごとに生き残りを懸けて事業を続ける企業と、新しい市場を開拓し、事業を急激に拡大する企業とを分けているのです。

これらを念頭に置き、テクノロジー企業は新しいリスクに対処する能力の強化に力を入れていますが、テクノロジーセクターの直面する新しいリスクが増えていることから、課題の緊急性は増しています。気象事象や財務リスク、次のパンデミック、競合他社のイノベーションへの対抗などの、より一般的なリスクに加え、貿易紛争や地政学的な紛争、課税制度や法令の変更、政府の介入、サイバー犯罪、データ保護規則などは、テクノロジーセクターに特に関連するリスクをもたらします。また、テクノロジーサプライチェーンはグローバルに統合されているため、1つの混乱が、バリューチェーン全体に波及する恐れもあります。

こうしたリスクは、データを収集/分析することで個別にモニタリング/管理でき、AIの活用によって、より効果的に行うことができます。しかし、多くのリスクは同時に発生または相互に影響し合う可能性があり、貿易制裁や気象事象、地域の不安定化、規制強化、サプライチェーン不足など複合的事象に対するテクノロジー企業のリスクエクスポージャーを把握する上で、高度なリスク評価とシナリオプランニングが欠かせません。企業は、こうしたリスクカテゴリー全般に関する知見を備え、リスクの重要度を再検討し、コスト、リスク、レジリエンス、アジリティの間の複雑なトレードオフを、どのように管理するかについて見直す必要があります。今、高度なリスクツールに投資をしている企業は、次のブラックスワンに襲われた時に、その選択の正当性を確信するでしょう。

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オポチュニティ10

先端テクノロジーを導入し、現在と将来のサイバーリスクを軽減する

新しいケイパビリティを活用し、企業のセキュリティとレジリエンスを強化する。



生成AIや量子技術のような先端テクノロジーは企業に数多くのメリットをもたらす半面、サイバー脅威の性質を根本的に変え、その脅威がもたらすリスクを増幅させています。特にテクノロジー企業は豊富なデータを蓄積し、複雑な技術システムを数多く保持する傾向にあることから、従来および新しいサイバー脅威の両方にさらされているのです。

長年にわたり高度な脅威検出/対応ケイパビリティに投資をしてきたテクノロジー企業は、サイバー攻撃にうまく対処してきました。生成AI・量子技術時代においても、企業はこれらの先端テクノロジーを活用し、サイバー防御を強化し、競合他社との差別化を図ることができます。

企業は、量子通信とポスト量子暗号、またこれらのテクノロジーを開発・展開できる人材に投資することで、近い将来、従来の暗号化では十分でなくなった場合に備えることができます。量子コンピューティングを使用した悪意ある攻撃者が、時代遅れのセキュリティシステムに素早く、かつ容易に侵入できるようになるのと同様に、量子技術を活用して身を守る企業は、サイバー攻撃をうまく防ぐことができます。

生成AIは、サイバー防御の面でも重要な役割を担っています。今日、テクノロジー企業は、生成AIを使用して、ビジネスプロセスを明確化し業務についての理解を深め、データとシステムを正確に分類してラベル付けをすることができます。サイバー攻撃者が悪用する3大脆弱性は、未分類のデータシステム、ラベル付けされていない企業データ、技術的負債(時代遅れのコード・テクノロジースタック)であるため、生成AIはサイバー防御においても有用です。従来の手法でバックオフィスのデータシステムやプロセスの複雑性と不透明性を軽減すると、コストと時間がかかりますが、生成AIを活用し、サイバーリスクのこうした要因に自動的に対処することで、サイバーリスクをより包括的かつ迅速に、低いコストで軽減できます。


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サマリー

2024年、テクノロジー企業は競合他社に後れを取ることなく、生成AIなどの次世代テクノロジーに投資して、組織として、こうしたテクノロジーを活用した新しいビジネスモデルの本格的な導入に備える必要があります。

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