令和5年3月期法人税申告の留意点

令和5年3月期法人税申告の留意点


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令和5年3月期の法人税申告においては毎年のように改正が行われている賃上げ税制の変更点に加えて、令和2年度のグループ通算制度の税制改正と同時に手当てされた改正点の施行もあるため、幅広い確認が必要です。

本稿の執筆者

EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング部 税理士・公認会計士 矢嶋 学

法人向けコンプライアンス業務の他、組織再編および事業承継コンサルティング、大規模法人を対象とした税務リスク・アドバイザリー業務に従事。EY税理士法人内の研究開発税制チームリーダー。従前は国税職員として相続税、法人税の調査経験を有する。


要点

  • 賃上げ税制は毎年改正があり、かつ、一定の大企業はマルチステークホルダー方針の届出が必要。
  • グループ通算制度の改正と同時に手当てされた受取配当等の控除負債利子計算に注意。
  • グループ通算制度は適用初年度ですでに投資簿価修正に改正がある。

Ⅰ はじめに

令和5年3月期の法人税申告においては、税制改正により昨年度と異なる事項を確認することが重要です。令和4年度の税制改正で変更された点が中心になりますが、令和3年度以前に改正された事項のうち、当期から適用開始となるものの有無について確認することも必要です。本稿では、令和5年3月期の決算法人を前提として、法人税と法人事業税の主要な留意事項を解説します。

 

Ⅱ 法人税

1. 賃上げ促進税制

「成長と分配の好循環」の実現に向けて、一人一人に対する積極的な賃上げを促すことに加え、大企業にあっては多様なステークホルダーへの配慮を求める内容に改正されています。具体的には<表1>「賃上げ促進税制」の改正後欄に示すとおり控除率の上乗せ措置が拡充され、大企業は最大30%、中小企業は最大40%の控除率が適用可能となりました。なお、大企業のうち事業年度末の資本金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合にはマルチステークホルダー方針を自社のウェブサイトに公表し、公表した旨を適用事業年度終了の日の翌日から45日を経過する日までに経済産業大臣に届け出る必要があるため留意が必要です。

表1 賃上げ促進税制

2. 租税特別措置の不適用措置

大企業が試験研究費の税額控除など一定の租税特別措置法に規定する税額控除を適用する場合、適用事業年度の所得が前事業年度の所得を超えているにもかかわらず、継続雇用者の給与支給額が増加せず、かつ国内設備投資額がその事業年度の償却費総額の30%を超えないときは、これらの税額控除の適用が受けられない措置が導入されています。この制限の適用を受ける大企業が次のいずれにも該当するときは、継続雇用者給与等支給額の要件が対前年度増加率0.5%以上(令和5年度以降は1.0%以上)に強化されています。

① その事業年度末の資本金が10億円以上であり、かつ、その法人の常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合
② 前事業年度の所得の金額がゼロを超える場合、または設立事業年度または合併等事業年度に該当する場合

3. 受取配当等の益金不算入から控除する負債利子

その事業年度に支払う負債の利子の額がある場合には、受取配当等の益金不算入制度の計算のうち、関連法人株式等に係る配当等の額については、その負債の利子のうち関連法人株式等に係る部分の金額を控除する必要があります。この負債利子控除について、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から関連法人株式等に係る配当等の4%相当額とされています。なお、負債利子が少ない法人もあることから、その事業年度に支払う負債利子の10%相当額を上限とすることとされています。

4. グループ通算制度の改正及び初年度対応事項

令和4年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度の適用が開始されました。ここでは、令和4年度の税制改正で手当てされた投資簿価修正に関する改正、連結納税制度を適用していた事業年度中に連結グループ内の適格合併が行われていた場合の経過措置について取り上げます。

(1) 投資簿価修正の改正

グループ通算制度では、通算法人に通算終了事由が生じた場合に通算グループを離脱する法人の株式の帳簿価額を離脱法人の税務上の簿価純資産価額に合わせるような投資簿価修正が行われます。通算グループの子法人の中には、いわゆる買収プレミアムを支払って買収した会社もあり、そのような子法人が通算グループを離脱すると買収プレミアム相当の金額が株式の帳簿価額に反映されなくなってしまうという問題がありました。この点について令和4年度の税制改正で手当てがなされ、簿価純資産価額に資産調整勘定対応金額の合計額を加算することができるようになりました。なお、当該資産調整勘定対応金額の合計額を加算するためには、離脱法人の株式を有するすべての法人がその通算終了事由が生じたときに属する事業年度の確定申告書等にその計算の明細を記載した書類を添付する必要があるため留意が必要です。また、離脱法人の株式を有するいずれかの法人が資産調整勘定対応金額の計算の基礎となる書類を保存していることも要件とされています。

(2) 連結納税グループ内の適格合併が行われていた場合の経過措置

連結納税制度からグループ通算制度に移行した法人が連結グループ内で適格合併を行っていた場合の被合併法人の株式に係る資産調整勘定対応金額も前記(1)の加算措置の対象とすることができます。ただし、この場合には、連結親法人であった法人が令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度終了の日までに「投資簿価修正における簿価純資産価額の特例計算に関する経過措置を適用する旨の届出書」を納税地の所轄税務署長に提出していることが要件であるため、3月決算の法人がこの経過措置を適用する場合には、令和5年3月31日までに当該届出書を提出しておく必要があります。

 

Ⅲ 法人事業税

外形標準課税の適用対象法人の法人事業税所得割について、年800万円以下の所得にかかる軽減税率が不適用とされています。

 

Ⅳ おわりに

令和5年3月期はグループ通算制度の適用開始年度であり、連結納税制度から移行した会社や新たにグループ通算制度の適用を開始する会社にとっては大きな転換期を迎えています。本稿では紙面の都合上、グループ通算制度が創設された令和2年度税制改正の解説は省略しています。

単体納税に関する改正事項は他にもあり、本稿ではその一部の紹介となりましたが、少しでも皆さまのお役に立てますと幸いです。
 

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サマリー

令和5年3月期の法人税申告においては毎年のように改正が行われている賃上げ税制の変更点に加えて、令和2年度のグループ通算制度の税制改正と同時に手当てされた改正点の施行もあるため、幅広い確認が必要です。


情報センサー
2023年3月号

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