日本企業に必要な新たなるCSuO像~気候変動対策をより加速させるためには

日本企業に必要な新たなるCSuO像~気候変動対策をより加速させるためには


EYでは2023年に、23カ国520人のチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO、または同等の役職)を対象としたグローバル調査「EY Sustainable Value Study」を実施。

調査では、パリ協定およびその後のCOPで定められた1.5°C目標達成に向け気候変動対策をさらに加速させる必要がある中、サステナビリティ施策の進捗が鈍化傾向にあること、そして企業間でサステナビリティへの投資と排出削減対策の差が拡大している現状が浮き彫りになりました。

本稿では、調査を通して得られた回答の中から日本企業の回答を抽出し、気候変動対策において今後日本企業に必要な行動を紹介します。


要点

  • 気候変動対策において、日本企業はグローバル企業と比較しても後れをとっていない。投資額も増加傾向に。
  • 変革を導く「トランスフォーメーショナルCSuO(変革的CSuO)」が今、必要になっている。日本企業でも特定予算や専任チームを持ち、取締役会への参画や企業戦略へ関与できる権限を持ったCSuOを設置する企業が増えている。
  • 広範なサプライチェーンの排出量削減(スコープ3)への取り組みがより重要となり、それを強化する上でデータとテクノロジーの活用、さらには人権やダイバーシティ・エクイティ&インクルーシブネス(DE&I)への意識がより一層求められる。


グローバル企業と比較しても日本企業は後れをとっていない

2021年のCOP26以降、企業は大規模な気候変動対策に取り組んできました。しかし、多くの企業リーダーが限られた予算の調整に頭を悩ませる中で、今ムードが変わりつつあります。

今回のグローバルの調査でも2022年に実施した調査に倣い、測定と情報開示、ガバナンスと監督、運用とサプライチェーン、顧客と製品の提供、およびサプライヤーとサードパーティという5つの領域で、気候変動に対応した32のアクションの進捗状況を測定しました。(図表参照)そして、70%完了した企業を「ペースセッター」、30%以下しか完了していない企業を「オブザーバー」と分類。22年結果と比較すると、温室効果ガス(GHG)排出量削減の中央値が30%から20%に減少し、目標年次の中央値も2036年から50年に延期されたほか、32のアクションのうち、企業が完了したアクションの平均数が10からわずか4に減少していることが判明しました。

また、投資についても2022年は61%投資を増やすとしていましたが、23年は34%にとどまっています。

一方、日本企業については平均完了アクション数が2022年は2でしたが、23年は5まで飛躍。また投資を拡大する企業も増加しており、グローバル企業と比較しても気候変動対策はさほど遅れておらず、グローバル全体の結果と比較しても、優れている項目も散見されます。

気候変動対策を進める上で重要となる変革的CSuOとは

なぜ日本はこうした結果になったのでしょうか。まず今回調査した日本企業30名のうち、4名がペースセッターに所属していることがわかっています。2022年の調査では、ペースセッター企業に該当する日本企業がなかった状況から大きく前進したと言えるでしょう。さらに日本企業にはペースセッターに加え、変革的CSuOが10名いたため、それが結果に影響を与えたと考えられます。変革的CSuOとは、「変革を導くCSuO」を意味し、特定予算や専任チーム、戦略的任務などを持ち、社内でより大きな権限を発揮できるCSuOを指します。

実際ここ数年、日本では政府方針のもと上場企業の気候変動情報に関する開示義務化が進んでおり、各開示項目によってタスクが明示されたことに加え、事業部門間のコラボレーションもより必要になっています。日本企業でも、より企業戦略へ関与できる権限を持ったCSuOを設置する企業が増えており、今後は変革的CSuOが気候変動対策を加速させる上で重要な存在となっていくでしょう。

さらに、公開しているデータに基づきEYが分析したところ、グローバルでは変革的CSuOの95%が特定予算や専任チームを持ち、役員会にも参画できる権限を有しています。こうしたCSuOを導入している企業は平均54%のGHG排出削減を実現していますが、導入していない企業は44%となっています。また排出率の増減でも前者はマイナス3.6%であるのに対し、後者は5%プラスとなりました。第三者との連携についても、前者は81%に上り、後者は65%にとどまっています。日本企業は2022年の段階では経営戦略に気候変動対策を取り入れるかどうかが問われていましたが、現在はCSuOを中心に戦略を実行に移す段階にあると言えるでしょう。
 

開示義務で気候変動対策が加速する日本。今後の課題はサプライチェーンの再構築

今後、企業は気候変動対策の初期段階を超えて、より積極的に取り組む必要があることは明らかです。日本企業は開示義務のもと動き出しており、ルールや規制を障壁ではなく、気候変動対策を進めるためのトリガー、かつレバレッジするものだと捉えることが必要でしょう。

日本の景気全体が不安定なこともあり、予算は厳しくなっていますが、日本企業の43%が気候変動対策を加速させると回答しており、日本企業はルールが決まれば、前進していく傾向にあると言えます。
2022年の調査結果から日本企業は気候変動対策において、自社の中で完結できる「ガバナンス」「戦略」などから着手する傾向にあることがわかりました。対して、関連するステークホルダーが多岐にわたる取り組み、特により広範なサプライチェーンの排出量削減(スコープ3への対処)は、従来のサプライチェーンを抜本的に見直す必要があり、これには時間も費用もかかることからなかなか進まない現状があります。

今、日本企業は省エネ、再エネ導入などは進めていますが、サプライチェーン全体の再構築が、非常に重要になっているのです。実際、ペースセッター企業ほどサプライチェーンの再構築に取り組み始めており、変革的CSuOの設置についても一歩先を行っています。
 

スコープ3への対処のカギは組織間連携、データとテクノロジーの活用

スコープ3への取り組みでは、グローバルの変革的CSuOの68%が排出量削減のためにサプライヤーを切り替えたと回答。

日本企業もサプライヤーへの気候変動対策の費用面のサポートや技術提供については44%と高く、サプライチェーンの再構築についても40%が関与しており、全体として気候変動対策でサプライチェーンの再構築に着手していることがわかります。

一方、こうしたサプライチェーンを再構築するために、グローバルの14%は組織間の連携をより高める必要があると考えています。その点、変革的CSuOを設置している企業では連携が進んでいますが、「その他のCSuO」の企業は40%、日本企業は36%がいまだ連携が進んでいないと回答しています。サプライチェーンへの投資では、グローバルでは32%、「その他のCSuO」が20%、日本企業が26%とそれぞれ進めてはいるものの、まだ投資の余地はあると言えるでしょう。そのため、サステナビリティ推進のためのサプライチェーンの再構築を経営戦略に組み込むべきかについても変革的CSuOは58%であるのに対し、「その他のCSuO」は43%、日本企業は37%と若干低くなっています。

また、サプライヤー全体、あるいは、サプライヤー間のコラボレーションを容易にしていくには、データとテクノロジーの活用が欠かせません。実際、変革的CSuOの75%、「その他のCSuO」の54%、日本企業の47%がデータやテクノロジーの活用に積極的であり、AIの活用についてはいずれも前向きな姿勢を示しています。
 

ペースセッターになる日本企業を増やし気候変動対策を加速させる

これから気候変動対策をより加速させていくためにも、日本企業はサステナビリティ投資がもたらす幅広い価値(従業員、顧客、社会、地球規模など)に改めて注目し、変革的CSuOを設置していく必要があります。

日本企業の特徴として、サプライチェーンのリスクマネジメントについて、人権やDE&Iに関する投資を高めていく方針をとっています。実際、一番のアクセラレータは人材とスキルであり、これから強化していくことが必要です。

その意味で、日本企業はペースセッターになれる資質を持つ企業が増え始めています。全体として、日本企業はこれまで気候変動対策の取り組みは遅れがちと考えられてきましたが、今回の調査結果を見ると、日本企業は一つ一つの項目を対処しながら着実に進んでいることがわかります。ひとたび動き出せばさらに加速するのではないでしょうか。日本政府も国として目標を掲げており、企業にとっても気候変動対策を加速させることで、大きなメリットを享受できるようになるでしょう。


サマリー

日本企業は、変革的CSuOを設置すると同時に、政府のルールや規制を障壁と考えるのではなく、レバレッジしていくことが重要です。そのためには、データとテクノロジーを活用し、サプライチェーンを再構築していく必要があります。特に人権やDE&Iに関する投資を高めていく方針を強化することで、今後気候変動対策はさらに加速していくでしょう。


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