EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYパルテノンは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
要点
バッテリーリサイクルは、原料価格高騰や脱炭素を主な背景として重要性が増しており、欧州で特に先行して取り組みがなされている状況です。
欧州で事業を展開する、国内の自動車メーカーや、電池関連プレーヤーにおいても、バッテリーリサイクルは重要なトピックとなっており、各社取り組みを進めている状況にあります。
一方で、バッテリーリサイクルは、1社単独で実現できるものではなく、リサイクルを意識した製品開発・製造から、使用済み電池の回収、リサイクル/リユースの実施、再流通などに至る、幅広いバリューチェーンを構築する必要があり、電池メーカー、材料メーカー、スタートアップを含むリサイクル企業、さらには商社や、自動車メーカーなどがアライアンスや資本提携を行い、エコシステム構築を進めています。
欧州が先行する本取り組みは、グローバルレベルで加速するものであり、エコシステムをいかに早期に構築するかが、バッテリー/電動化ビジネスにおける事業成長の鍵になります。
欧州のリチウムイオンバッテリーを手掛けるバッテリー製造業界は、新規企業の参⼊や投資の増加、バリューチェーン全体の生産能力増強イニシアチブなどの後押しを受け、成⻑を加速しています。しかし同時に、真にサステナブルなバッテリーの循環型経済を作り出すという約束してきたことを果たす時が迫っており、状況は待ったなしです。現在リチウムイオンバッテリーのリサイクル率は低く、回収して再利⽤される材料の量はごくわずかです。欧州のバッテリーリサイクルを進めるには、そうした現状を根本から改める必要があります。
2025年までに、使用済みバッテリーは年間20万トン(0.2百万トン/年)に増加すると予想されています。主な増加の要因は、ギガファクトリー(バッテリーの大規模生産工場)での廃棄率が生産開始後の数年間、20%〜30%と高いことにあります。この量は、2035年、バッテリーが耐用年数を迎え始め、一斉に返却されるようになる頃には1.4百万トン/年にまで増加します。現在、欧州のリサイクル能力は0.04百万トン/年未満で乾式製錬法が主流ですが、この方式ではリサイクルできるのはごく一部の材料に限定されます。バッテリーリサイクル業界のリサイクル施設も、コバルトの回収向けに設計されたものが主流です。しかしセル技術が脱コバルト、高ニッケル含有にシフトする中で、リサイクル技術も転換が求められます。
EYパルテノンができること
CEOやビジネスリーダーは、この変革の時代に、ステークホルダーにとっての価値を最大化するという任務を負っています。私たちは常識に疑問を投げかけ、収益性と長期的価値を向上させる戦略を構築し、実行します。
続きを読むつまり、現在のリチウムイオンバッテリーのリサイクルバリューチェーンは⽬的に合致しておらず、⼤幅な⾒直しが必要です。同時にこれは、技術の複雑化と多様化が進むバッテリー市場を⽀えるリサイクルインフラを構築する⼤きなチャンスと⾔えます。
本記事では、バッテリー製造業界の拡⼤がどのような機会をもたらすかを探り、業界の⾰新的技術や現在の業界のリーダーについて解説します。記事の後半では、発展を続けながら持続可能なバッテリーリサイクルの循環型経済を、欧州に構築するためのアクションプランをまとめます。
第1章
思い切った設備投資と、新たなリサイクル技術の迅速な開発が求められます。
使⽤済みリチウムイオンバッテリーの取り扱い方法には大きく、リサイクル、リユース、廃棄処分の3つがあります。
バッテリーの廃棄処分の1つに埋め⽴てがありますが、これには重⼤な環境リスクが伴います。欧州委員会(EC)は⻑期的枠組みであるEuropean Battery Directive(欧州電池指令)を制定しており、電池、蓄電池および電池組み込み機器のうち主要な品⽬について、段階的にリサイクル材の最低含有量を義務化する方向で、リサイクルを積極的に奨励しています。
欧州におけるバッテリーリサイクル手段の1つには、エネルギーバリューチェーンの中でバッテリーを別の⽤途に使う⽅法(リパーパス)があります。これはニッケル・マンガン・コバルトを主成分とするNMCバッテリーよりも、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)バッテリーに適した⽅法です。その理由として、LFPバッテリーは再生材料の価格が⽐較的安価なこと、ライフサイクルが大幅に⻑いこと、性能要件が他ほど厳格でないことが挙げられます。
電気⾃動⾞(EV)の場合、定格容量の80%を下回ったEVバッテリーは、定置⽤蓄電池やEV充電インフラなど別の⽤途に使⽤が可能です。ただし、リパーパスを商業的に成り⽴たせるには、大変な課題の数々を克服する必要があります。その1つには使⽤済みバッテリーの残存価値の把握があります。
こういった課題が解決されるまでの間は、リサイクルがやはり最も実⽤的で、急成⻑が⾒込まれる選択肢と⾔えます。バッテリーリサイクル業者が急拡⼤するチャンスを巡りビジネスを加速する中、リサイクルプロセスの効率向上と持続可能性を⾼める新技術を求め多額の投資がR&D企業に流れています。
現在、リサイクルの手法で最も一般的なのが乾式製錬法です。先述の通り、この⼿法は、コバルト含有量の多いバッテリーに特に適していることが示されていますが、その採算性はコバルトを回収できるかの一点に懸かっています。現在はニッケル含有率の⾼いバッテリーの普及が加速する中、コバルト以外のリサイクル材料から価値を生み出せるかがますます重要になっています。
しかし乾式製錬法にも課題がないわけではありません。そのうちの1つは、この⽅式では臨界温度まで上昇させるために化⽯燃料の燃焼を利用するため、多大な資本とエネルギーを要する点です。こうした環境負荷のかかる技術からの脱却を求める消費者や規制当局、特に欧州委員会(EC)からの圧⼒が強まりつつあります。このことも、欧州においてより持続可能性に優れた湿式製錬法(リチウム塩やニッケル塩など⾼価値の⾦属塩を抽出分離する⼿法)に多額の資本が投⼊されている理由の1つです。こうした資本の流れは、ECが「ゆりかごから墓場まで」(サプライチェーンのすべての段階)のリサイクルを⽬指し、環境面でさらに意欲的な政策を展開するのに伴い加速するものとみられます。
リチウム塩やニッケル塩などの⾼価なリサイクル材への投資が進むもう1つの要因には、これらの元素は⼀次供給源(あるいはバージン材供給源)からの供給不⾜に陥りやすい点にあります。供給不⾜を回避するとは、価格上昇圧⼒をかけ、採鉱業者が採掘事業にゴーサインを出せる程度の費⽤対効果を得られるようにすることです。しかしゴーサインが出たとしても、鉱床発⾒から採掘開始までは7年以上かかることもあります。対して、新設のギガファクトリーは2年という短いリードタイムで操業を迎えられますので、供給側からすると、時間のプレッシャーは⾮常に厳しいものと⾔えます。
第2章
規模の拡大とネットワークの構築、新技術の実証、効果的なパートナーシップで市場を掌握。
欧州の新たなバッテリーリサイクル業界が形作られるにつれ、レースに参⼊し市場シェア獲得を⽬指す企業が増加しています。新規参⼊者には、材料メーカーやバッテリーセルメーカー、OEM企業、民間リサイクル業者、廃棄物処理会社などがみられます。有⼒な参⼊企業は直接投資ではなく、セクターをまたいだパートナーシップやアライアンスといった統合ビジネスモデルを⽬指す傾向が⾒られます。2017年以降、欧州のリチウムイオンバッテリーリサイクル関連では、20件のトランザクション(企業間取引)と24件のアライアンス(業務提携)が実行されました。トランザクションやアライアンスは湿式製錬技術関連に集中しており、19件のアライアンスと13件の投資案件が実施されています。
欧州リサイクル市場が最終的にどう帰結するかについて、中国が1つの可能性を⽰しています。⻑年細分化されていた中国の現地リサイクル市場は現在、バッテリー材料サプライヤーが寡占し、⼤⼿OEMが⾃社製バッテリーに限定してわずかに市場シェアを獲得している状況です。おそらく欧州もこの中国モデルと同じ道をたどり、エコシステム全体でリサイクル参⼊企業がみられるようになると思われます。
注⽬すべきは、アジアや北⽶の企業が、ギガファクトリーで出遅れ機会を逸した失敗を繰り返すまいと、欧州での事業を視野にライセンスを確⽴すべく特許申請を進めている点です。しかし、欧州のリチウムイオンバッテリー製造分野で誰が勝者になるかはまだ分かりません。何と言っても、欧州ではEVバッテリーのリサイクル業者にとってこれといったモデルが確立していません。しかし、次に⽰す重要なケイパビリティを備える者が優位に⽴つことは間違いありません。
運営に必要とされる最⼩効率規模は、年間4キロトン(ktpa)前後の設備能⼒になるようです。この⽔準の供給原料を確保、集約できれば、コスト経済性を求める上で有利になります。ただし、この規模での成功が期待できるのは、EVの⾞載バッテリーが耐⽤年数を迎え、一巡目の役割を終え供給原料が⼤幅に増加し始める2020年代半ばから後半以降になる点は押さえておく必要があります。
リサイクルコスト全体の約30%は輸送コストです。廃棄物のループと物流を効果的に管理できる企業が規模の拡⼤を実現できるものとみられます。ことに、地域でのリサイクルパターンが確立していればさらに強みになります。現在、有⼒企業のいくつかはハブアンドスポーク型の輸送方式を採用しています。⼀次解体は⼤規模な供給ハブの近くで⾏い、ブラックマス処理は集約化してコスト効率を向上するというモデルです。
既存のバッテリーメーカーが複雑化するセル設計や化学組成に注⼒していることを考えると、バッテリー設計で再生材料を最⼤限活⽤できる企業がおのずと回収物質生産での再統合に有利になっていきます。また正極活物質(CAM)製造企業などは化学的専⾨知識を保有し保証管理にも優れているので、材料を⾃社の製造⼯程に再統合することで⼤きな利益を得られる可能性があります。
技術開発は主に、材料の種類と量の両⾯でどれだけ回収できるかという点と、⼤規模操業を商業的に実現する⽅法に焦点が当てられています。セルメーカーは自社の技術に限定すれば技術開発においてリードしているとは言えないかもしれません。しかし、ベンチャーやアライアンスといったパートナーシップを利用し、現在技術開発でリードを取るリサイクル業者を通じてこうした技術を⼿に⼊れる確実な道筋をつけておくことは、極めて重要になりそうです。
テクノロジーが急速に進化しサービス提供モデルのローカル化が進むにつれ、パートナーシップにより強⼒なテクノロジーエコシステムと廃棄物処理網を持つ企業が優位に⽴ちます。
バッテリーリサイクルの価値は、どれだけ多くの原料を回収できるかに懸かっています。従って成功する可能性の⾼いパートナーシップは、綿密に考え抜かれたループ(循環)とフローの連続の中で、再生材料を扱う企業同⼠を幅広く結び付けるものとなるでしょう。企業はそれぞれリサイクルチェーンの中でニッケル、コバルト、リチウム、アルミニウムなど、再生材料ごとに専門化することになります。
第3章
バッテリーのリサイクル業は、難題を抱えるバッテリー材料供給市場において利益拡⼤を図る上で有効です。
リチウムイオンバッテリーリサイクルの経済性は、取り扱う規模の拡大を通じて強化していきます。
EYの試算によれば、コバルト含有量が多いバッテリーの場合は最⼤で22⽶ドル/kWh、最先端のニッケル含有量が多いバッテリーでは最⼤18⽶ドル/kWhの収益を確保できるものと見込まれます。こうした収益はリサイクルサービス料や回収した材料の販売によって得られるものですが、今後はバッテリー供給業者やOEM、廃棄物処理会社による合弁事業を統合し⾼度なビジネスモデルを展開することによって、経済性を高め収益を得ることも可能でしょう。また、リサイクル業者の中には、技術ライセンシングによって収益拡⼤を図ろうとしている企業もあります。
こうした収益を利益に変えるには取り扱い規模が成否を分けます。変換後の材料1キログラム当たりのOPEX(運⽤コスト)は、約10キロトン〜20キロトンのスループットで最⼩効率規模に到達します。⽐較的⼤規模な湿式製錬プラントが実現段階で⽬標としている20キロトンでOPEXが1.60⽶ドル/kgですが、NMC811セルであれば純利益を最⼤11.8⽶ドル/kWhまで上げることが可能になります。現在の⾼ニッケルセルの製造コストが130⽶ドル/kWh以上であることを考えると、これは決定的な違いと言えます。
第4章
バッテリーリサイクルの循環型経済を構築する上で、リチウムイオンバッテリーに関わる企業および政策決定者は極めて重要な役割を担います。
リチウムイオンバッテリーのリサイクル業界はまだ歴史が浅く、確⽴された鉛蓄電池リサイクル業界から学ぶことは多いですが、発展の続く、サステナブルなバッテリーリサイクルの循環型経済の基盤を欧州に構築するために、リサイクル業者、バッテリーや部品のメーカー、政策決定者などのリチウムイオンバッテリー業界の主要プレーヤーには今すぐからでもできることがあります。このことを念頭に、EYでは業界の未来のためにできる10のアクションプランをまとめました。
欧州のリチウムイオンバッテリー製造業の成⻑は今後も加速を続けます。欧州におけるバッテリーリサイクル産業のエコシステム構築は、サステナビリティ上必要だからというだけではなく、迅速な⾏動と投資が差し迫って必要とされるものです。難題を抱えるバッテリーの材料供給市場においてエコシステム構築により利益拡⼤を図れ、チャンスが⽣じます。そして、真にサステナブルなバッテリーの循環型経済を構築するという約束してきたことを果たす上で、リチウムイオンバッテリーに関わる企業および政策決定者は極めて重要な役割を担っています。