コスト削減が組織のパフォーマンス追及のマインドセット醸成にどう影響するか

コスト削減が組織のパフォーマンス追及のマインドセット醸成にどう影響するか


グローバル企業の経営幹部は、持続可能なパフォーマンスを追求する態勢を社内に構築し、コスト構造の最適化を追求する文化を定着させることで、変化する世界情勢に対応しようとしています。


要点

  • 現在の新しく厳しい経済環境では、持続可能でコスト効率が高く、適応力に優れた方法でオペレーションを行う企業のみが成功を収める。
  • パフォーマンス向上を単なるプロジェクトとしてではなく、企業全体の文化として定着させることで、コスト削減の実現可能性が高まる。
  • 既存の状態に挑戦し、強い姿勢でコスト削減に真っ向から取り組むことが、パフォーマンス追求の態勢を構築する第一歩となる。



EY Japanの視点

EYでは、グローバルに事業を展開する企業にとどまらず、さまざまな企業を対象として、コスト削減や運転資本の最適化に関する取り組みを長年にわたり支援しています。

環境の変化を背景に資金調達コストの上昇や財務規律を重視する姿勢が強まる中、成長投資に必要な資金を外部調達ではなくコスト削減や運転資本の最適化で生み出す取り組みは従来以上に重要となっています。

コスト削減に際し、自社のリソースのみでの取り組みでは、ビジネスモデルや組織構造の見直し等、既存の枠組みを前提としない施策の立案・実行に踏み込みづらい事例が散見されます。EYでは確立したフレームワークによるプロジェクトの推進に加え、プロジェクトの意義や目的を明確にコミュニケーションし、プロジェクトに対する関係者の前向きな意識を醸成するところから支援しています。


EY Japan の窓口

松 恭祐
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社  ターンアラウンド・アンド・リストラクチャリング・ストラテジー パートナー



過去4年間、続々と続く予期せぬ事象への対応に追われた結果、今日、多くの企業は苦しい立場に立たされています。ビジネスリーダーたちは、消費者行動の急速な変化、サプライチェーンの再構築、エネルギー市場の混乱、経済成長・インフレ・金利を巡る急激な環境変化など、グローバルな変化に迅速に対応し続けなければなりません。

こうした変化に接するたびに、従来のコスト構造を抜本的に見直さざるを得ない状況が生じてきました。ますます高まる資本コストと効率へのプレッシャーによって、企業は前提としていた諸条件の再考を余儀なくされています。さらには、変化する競争環境の中で技術革新の加速や、顧客と投資家を引き付け維持するために、よりサステナブルであり続けることが求められる状況を背景に、大規模な変革の実行に対する資金需要がいっそう高まっています。


コスト構造を再定義する


現在は新たな経済サイクルの始まりであり、さまざまな課題が待ち受けています。サステナブルでコスト効率が高いオペレーションを行い、課題に適応し続けられる企業だけが成功を収めます。これは最も純粋な形態の「適者生存」と言えます。規模の大きさではなく、最もふさわしい、最も適応に成功した企業が生き残るのです。


成功もまた新しい方法で定義されることにも留意しておくべきです。財務目標は、野心的かつ社会や環境面での目標と並列に評価されるため、アジャイルなビジネスモデルと柔軟なコスト構造が求められます。ビジネスリーダーはコスト削減と継続的なパフォーマンス向上を最優先の課題と位置付ける必要があります。ディスラプションに対する持続可能なレジリエンスを構築し、業務面および財務面の卓越性を企業文化に深く組み込むことで、企業の将来を確かなものにする必要があります。


2023年7月のEY CEO Outlook Pulse(PDF、英語のみ)の調査結果によると、回答者の過半数(63%)が、自社のポートフォリオ変革を継続または加速しています。積極的な取り組みを行っているこのグループは、変革に必要な資金を主に業績向上を通じ内部で創出しようとしています。これは、成長とコストを巡る環境の急変が影響しています。極めて低コストな資金と流動性の増加に支えられ、コストをさほど留意することなく成長を追求してきた状況から、新しい取り組みやビジネスを推進する全ての局面において、収益性や価値創造への明確な道筋を示しつつ、持続可能な投資であることを新たな規範としなければならない環境にパラダイムシフトが起きたのです。

今、巨大なチャンスが目の前にあるのだということは明白でした。ただ、私たちはどのようにアジャイルで効率的な組織に組み替え、従業員の成長意欲に火をつけられるのかについては明確に見えていませんでした。

企業の経営幹部は、コスト削減の可能性は何度も検討しており、考え得る施策は実行し尽くしたとお考えかもしれません。しかし、私たちの経験では、企業がコスト削減の取り組みを、a) 既存のビジネス構成要素の最適化としてではなく、より抜本的にビジネスモデル全体を対象とするようになったとき、b) 「プロジェクトにおけるパフォーマンスの追求」ではなく「パフォーマンスを追求する態勢の構築」と捉えるようになったときに、この見方は変わります。 

現在と想定される将来の市場を踏まえた上で、既存の戦略とビジネスモデルを再検討することがその第一歩です。そのためには従来見られた、1つの機能またはビジネスの一部分だけに焦点を当てた狭い視点では不十分です。アジャイルで柔軟な組織およびプロセスへの転換には、最新テクノロジーを効果的に活用しながら徹底した再設計を図る必要があります。包括的なKPIシステムを適合させ、潜在的なコスト最適化の可能性を常に把握し、推進することが次の重要なステップになります。

さらにダイナミックな発展を遂げる生成AIを中心としたテクノロジーの積極的な導入が、コスト削減や、ひいては職務内容の充実といった魅力的な将来を約束します。さらには変革に必要とされる業務や変更管理に振り向けるキャパシティを生み出します。

BOGNERの90年の歴史の中で、私たちの組織、構造、プロセスは、持続可能な成長に必要な収益を上げ続けるという今日の要求を満たすには手広くなり過ぎました。私たちは変化しなければなりませんでした。

コスト構造再考のための変革の指針

再構築されたコスト構造は、持続可能な基盤を構築するために、可能な限り「グリーンフィールド(新規開発)」や「MVP(顧客に価値を提供できる必要最小限の製品)開発」のアプローチをとる必要があります。また次の指針に従うべきです。

  • 大胆な目標:コスト削減の取り組みは、明確な目標と高い透明性を伴う方法をもって設計されるべきです。改善策には明確な根拠を持ち、健全な基礎を有する方法論に基づき、財務への影響に明確に結び付いたアクションを採用すべきです。
  • 広範な視野:既存の状態からさらなる効率化をひねり出そうとしても、目標達成はおぼつかないでしょう。ビジネスモデル、組織構造、プロセスを抜本的に変える手段を検討する必要があります。同時にテクノロジー面での可能性を考慮し、財務、社会、環境それぞれの目標の達成について並列的に検討することも重要です。
  • 説明責任:組織でのオーナーシップと十二分に強いサポートは、コスト削減策の策定、計画の詳細化および実行に必要不可欠であり、コスト構造を継続的かつ確実に改善するために必須です。
  • 実行の動機付け:KPI体系に関連した施策と、効果的なインセンティブを新たに創造することは、感覚的に異なる印象を持たれることもあるかもしれません。しばしば耳にする議論として、過去にチーム自らのモニタリング下で発生した不具合があれば修正すべきである、というものがありますが、この考え方のみでは不十分です。たとえ過去のエラーについて従業員が責任を負うにしても、エラーを修正し、再発を防止するためには持続可能な形でのインセンティブが必要です。
  • 企業文化の変革:歴史的に大きな成功を収めてきた大企業こそ、コスト構造を見直し、新たな取り組みを学び、取り組むことが必要です。コスト削減の取り組みを進めるためには、コミュニケーションと変革に向けた戦略を同時に推進することが重要です。社内でより高い支持を得ることで、取り組みの実現、継続的なコスト管理に向けた全体的な態勢を強化することが可能になります。「コストカット」という否定的な意味合いを「持続可能な変革のために必要な資金を確保する」というニュートラルな表現に転換するためにも、これは全ての企業が取り組まなければならない課題です。

EYはコスト削減の潜在的な機会を効率的に実現し、持続的なパフォーマンスを追求する態勢を企業文化として定着させることを支援します。貴社のビジネスに関するあらゆる領域における改善機会をカバーするとともに、必要に応じ、ビジネスモデル自体の再構築や適合する組織構造の設計も支援しています。



持続可能なトランスフォーメーションに向け、継続して改善機会に取り組む組織文化を構築する

経験豊かなEYのチームが、コンセプト構築のフェーズから実行、ステークホルダーマネジメントまで、きめ細やかにコスト削減プロジェクトを導きます。EYのグローバルネットワーク、経験豊富な人材、業界をリードするEY独自の広範なテクノロジーソリューションを活用し、持続可能な変革を速やかに実現します。その代表例の1つである「EY wavespaceTM」は、コンセプト構築フェーズを効率的に推進し、ステークホルダーの同意を確保し、短時間での実行フェーズ着手を実現します。



サマリー

将来の多様な課題に対処するために企業の経営幹部が求められていることは、根本的な問題に取り組む活動に企業を導くこと、つまり現状に果敢に挑戦し続け、断固としたコスト削減に真っ向から取り組むことです。適者生存の環境下における競争を制し、企業の将来を確実なものにするために、持続可能なパフォーマンスを追求するマインドセットを社内に定着させることが重要です。



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