EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー・アンド・トランザクション 平井 清司
市街地再開発事業に関するアドバイザリー、不動産鑑定評価、機械設備等の動産評価、空港や地方公社等の民営化関連アドバイザリー、商業施設等のフィージビリティスタディ等の業務に従事。不動産鑑定士。同社 アソシエイトパートナー。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー・アンド・トランザクション 広門 進
不動産関連業務にさまざまな角度から約30年間従事した後、2019年よりEYにおいて、企業の最適な不動産戦略の意思決定を支援するCorporate Real Estateサービスをリード。同社 アソシエートパートナー。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) コンサルティング 公共・社会インフラセクター 酒見 和裕
大手ゼネコン、シンクタンク等を経て、現職。政府・自治体、民間企業等向けに官民連携でのまちづくり・公共事業、国内外のスマートシティ事業やスタジアムアリーナ等に関するコンサルティングを担当。一級建築士。同社 シニアマネージャー。
要点
建設プロジェクトにおいて、施主は建物等を「どう使うか」の検討が最終的なゴールである一方、その過程においては受注側の専門家である総合建設会社等との交渉、調整等の「どう造るか」についての専門的な知見が必要です。本稿では、このような専門的な知見をアウトソースする建設PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)について、その概要および有用性を解説します。
日本では、総合建設業が発達してきた結果、欧米諸国のような形での分離発注より、総合建設会社への一括発注が主に行われてきました。建設プロジェクトは、発注者である民間企業にとっては数年から数十年に一度しか実施されないイベントであり、社内でのナレッジ蓄積が困難です。建設プロジェクトが継続的に実施されてきた経済成長が著しかった時代の日本では、建設プロジェクトおよびファシリティマネジメントに特化した部署や専門子会社の活用、または設計会社やエンジニアリング会社のアサインにより対応してきました。
しかし、建設プロジェクトの頻度低下や企業グループ再編により、発注側のインハウスの専門家やグループ内知見が失われつつある一方、一括発注という受注形態により受注側である総合建設会社の知見、ノウハウの蓄積だけが進んでおり、発注者と受注者のナレッジの格差が広がってきています。また建物等に求められる性能、水準は高度化し、複雑化してきています。そのため、建物等を「どう使うか」というソフト面から「どう造るか」というハード面までのトータルな知見が必要であり、そのような専門性をアウトソースすることの重要性、必要性が高まってきています(<図1>参照)。
このような建設プロジェクトの特性から、諸外国では、多様な専門家に対してアウトソースを行うことが従前から一般的に行われており、日本でも海外投資家の建設プロジェクト参画機会の増加等に伴い、さまざまなプロジェクトスキームが出てきています。
建設PMOとPM(プロジェクトマネジメント)、CM(コンストラクションマネジメント)については、法的な規定がなく必ずしも統一的な定義がないため※、混同されることもありますが、ここでは一般的な定義として<図2>の通り整理しています。
CMは基本的に受注者側の立場で建設プロジェクトを支援する業務に対し、PMは発注者側の立場でプロジェクト支援を行う業務です。
そしてPMを推進する立場である建設PMOは、プロジェクトの初期段階から発注者に伴走して支援する役割を担います。
建設PMOは、企業としてのCRE(コーポレート・リアル・エステート)戦略に関わる川上からプロジェクトに関与し、設計会社や建設会社の選定やスケジュールとタスクの管理、コストコントロール等の川下まで総合的に支援を行います。
そのため、同業務の実施には、クライアント企業のビジネスの理解と建設業に関する知見、ノウハウ、ネットワークの双方が必要となります。前述のとおり、建設分野のアウトソーシングは、これまで、設計事務所等のエンジニアリングを専門とする専門家が主なアウトソース先でしたが、PM / CMを専業とするような業態や一般的なビジネスコンサルティングを専門とする企業等、より発注者のビジネスに精通した専門家が建設PMOを担う例も見られます。
発注者であるクライアント企業は建設PMOをアウトソースすることで、建設に関する専門的な知見や設計会社、建設会社とのハードなコスト交渉等の条件調整から開放され、自社のビジネスにおいて建物等を「どう使うか」という点にフォーカスすることができます。また、社内の建設プロジェクトへの意見集約や関係部署間の調整、プロジェクト推進のための各分科会のファシリテーション等も建設PMOを利活用することで効率的に進めることができます。
多くの一般企業にとって建物等はあくまでその利活用が目的であり、建設プロジェクト自体を目的とするものではありません。企業内人材の最有効活用が求められる中、新たな専門家をインハウスで雇用、育成することは現実的ではなく、今後建設PMOのアウトソースはいっそう進んでいくものと考えられます。
※ 例えば国土交通省「CM方式活用ガイドライン」では、PM / CM方式として、PMサービスを「CMサービスに比較して企画や構想段階などの川上からのサービスを含む」と定義し、CM方式について「発注者の補助者・代行者であるCMR(コンストラクション・マネージャー)が、技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って、設計の検討や工事発注方式の検討、工程管理、コスト管理などの各種マネジメント業務の全部または一部を行うもの」といった形で、PM / CMのいずれも発注者の支援、代理としている。一方、日本で建設PM / CM業務を提供している企業のウェブサイトでは、本稿のように、PMとCMをその立場の違いで区分している例もみられ、必ずしも決まった定義はない。
日本では建設プロジェクトマネジメントは伝統的にインハウスで実施されてきましたが、建設プロジェクトを取り巻く多様な事業者と渡り合うためには、業界に精通した専門家の利活用がいっそう重要となってきています。
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