経済価値ベースのソルベンシー規制等~ESRに関する検証の枠組みとガバナンスへの影響~

経済価値ベースのソルベンシー規制等~ESRに関する検証の枠組みとガバナンスへの影響~


2023年6月に金融庁より公表された「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基準の最終化に向けた検討状況について」では、経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する各論点の方向性などが示されています。

本記事では、公表されたレポートからESRに関する検証の枠組みに係る論点を取り出し紹介します。


要点

  • 経済価値ベースのソルベンシー規制等では、ESRの検証の枠組みが示されており、保険会社はこれに対応することが求められる。
  • ESRの検証の枠組みは「内部の検証態勢」と「外部専門家による検証」で整理されている。

1. 「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基準の最終化に向けた検討状況について」(2023年6月金融庁)(以下、「最終化に向けた検討状況」)

概要

2022年6月に公表された「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基本的な内容の暫定決定」(以下、「暫定決定」)では、主に第1の柱に関する標準モデルの考え方について、新規制の暫定的な結論及び基本的な方向性を示しました。

以降、金融庁はフィールドテスト結果の分析や保険会社及びその他の関係者との対話を通じ、新規制に関する各論点の検討を進めてきました。2023年6月の「最終化に向けた検討状況」では、各論点について最終化に向けての方向性、検討経緯及び検討状況、残課題を下図の論点ごとに整理しました。

図1:経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基準の最終化に向けた検討状況について

ここでは、特に「ESRに関する検証の枠組み」について紹介します。

保険会社内部の検証態勢

ESRに関する計算全体の適切性の確保において、中心的な役割を担うのは保険会社の内部における検証機能であることを示しており、判断要素の大きさや金額的重要性を考慮した軽重を付けた対応とする観点、及び各社の既存の内部統制を活用する観点からの態勢や仕組みの構築を基本的な方向性として検討しています。

「最終化に向けた検討状況」において、保険会社に具体性をもった態勢整備を促す観点から、検証機能の位置付けや役割に関して、次のように整理の上方向性を示しています。

  • 保険会社内部における検証機能の監督上の位置付け
  • 保険数理機能の役割と提出情報
  • ESR検証機能の役割と提出情報
  • それぞれの検証機能に必要な資格要件、独立性及び適格性要件
  • 新規制導入後における保険計理人の確認事項の整理
     

外部専門家による検証

「暫定決定」では、①ESRの特性を踏まえた内部ガバナンス態勢の補完、②ESRの情報利用者からの信頼性確保、③わが国のソルベンシー規制に求められる情報の信頼性の水準、④当局による検証や情報利用者による検証の実効性・効率性の4つの観点で外部専門家による検証の意義は認められ、制度化を基本的な方向性とし、関係者間での議論・検討がなされてきました。

「最終化に向けた検討状況」では、外部検証の枠組みや実行可能性の検討をより具体化させるために、諸前提を具体化して検討することを示しています。

  • 経済価値バランスシートを対象とした合理的保証を前提にしている。
  • 検証基準の策定や位置付けは日本公認会計士協会(以下、「JICPA」)とも必要なコミュニケーションを図っていく。
  • 会計監査人が保証業務実施者となることが経済合理的となるような制度を想定する。
  • 新規制導入前のドライランの実施も各社の状況によっては望ましいと考えている。
     

ポイント

  • 保険会社内部の検証態勢について、検証機能の役割を保険数理機能とESR検証機能に分けて整理し、それぞれの資格要件と独立性・適格性要件を検討しています。また、検証機能が実施した検証の内容・結果をまとめたレポートを作成し、取締役会等及び当局へ提出することを基本的な方向性としています。
  • 外部専門家による検証について、経済価値バランスシートを対象とした合理的保証を前提に引き続き検討します。その際、「諸前提」を具体化した上で今後の検討を進めていきます。

2. 保険会社内部の検証態勢

「暫定決定」では、内部検証態勢の全体像に関して、①保険会社が定めた検証責任者によるESR計算に関する適切性確保の態勢整備、②判断・見積りの要素が大きい領域への適切性確保の仕組みを設けることを基本的な方向性としました。2023年6月の「最終化に向けた検討状況」では、今後より具体性をもった態勢整備を保険会社に促していく観点から、それぞれにおける検証機能の監督上の位置付けや役割等に関する現時点の方向性を示しました。

検証機能の監督上の位置付け、役割・権限

  • 保険会社における検証機能に関する監督上の要求事項等を監督指針で定めるとともに、報告徴求の枠組み(保険業法第128条及び第271条の27)に基づき、検証機能からの情報(保険負債の検証レポート)やESR検証レポートの提出を求めることを現時点の方向性とし、提出期限については引き続き検討する。

保険数理機能の役割と提出情報

  • 保険数理機能は、少なくとも、規制上のESRの計算に用いる保険負債が適切に計算されていることを検証すること、保険数理機能が実施した上記の検証の結果をまとめたレポート(保険負債の検証レポート)を年1回作成し、取締役会等及び当局に提出することを基本的な方向性とする。
  • 保険負債の検証レポートの記載事項(保険負債の検証における着眼点)について、記載事項のイメージを掲げた上で引き続き検討することとする。また、グループレベルにおける保険負債の検証レポートの記載事項は、基本的には単体の保険負債の検証レポートと同じ記載事項としつつ、一部固有の項目を追記することや子会社による検証結果を活用することを現時点での方向性とする。

ESR検証機能の役割と提出情報

  • ESR検証機能が実施した検証の結果をまとめたレポート(ESR検証レポート)を年1回作成すること及びESR検証レポートの記載事項(ESR全体の検証における着眼点)については、記載事項のイメージを掲げた上で引き続き検討する。

検証機能の資格要件と独立性・適格性

  • 保険数理機能の責任者は日本アクチュアリー会正会員もしくはそれに相当する海外団体の正会員、ESR検証機能の責任者は特段の資格要件を設けない。
  • 保険数理機能の責任者の適格性要件については、日本アクチュアリー会との協力も視野に入れつつ、各社の適格性要件の設定に資するような適格性に関するフレームワークを引き続き検討する。
  • 監督指針に最低限の要件を示しつつ、1)検証機能の責任者の適格性要件等の設定、2)要件やその順守状況等の文書化、3)当局報告を求める。

新規制における保険計理人の位置付け

  • 保険数理機能の責任者の要件として保険計理人であることを制度上必須としないこと、及び、保険計理人による「保険金等の支払能力の充実の状況が保険数理に基づき適当であるかどうか」に関する確認業務の廃止を基本的な方向性とした。

3. 外部専門家による検証

2023年6月の「最終化に向けた検討状況」では、外部検証の枠組みについて、経済価値ベースのバランスシートを対象とした合理的保証業務を前提に検討を進める、という考え方や実行可能性等の検討をより具体化させていくために、その他の前提も具体的に示されました(諸前提は今後の検討を踏まえ適宜修正される可能性があります)。なお、金融庁は新規制導入前の試行的な外部検証もしくはドライランが実施されることが、各社の状況によっては望ましいと言及しています。以下では、主な検討諸前提と想定される影響、留意点等を整理しました。

図2:外部専門家による検証

出典:金融庁「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基準の最終化に向けた検討状況」
fsa.go.jp/news/r4/hoken/20230630.html(2023年8月16日アクセス)



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サマリー

2025年度に施行が予定される経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に際して、保険会社は内部の検証態勢の構築および外部専門家による検証への対応が求められます。対応すべき課題とロードマップを理解し、ESRガバナンスの態勢整備を進めていくことが重要となるでしょう。


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