IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の概要と適用に向けた対応

情報センサー2025年2月 FAAS

IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の概要と適用に向けた対応


2027年1月1日以後に開始する事業年度より、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が原則適用されます。IFRS第18号の主な要求事項の概要とその適用に向けた対応について解説します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 アドバイザリーサービス本部 FAAS事業部 公認会計士 加藤 大輔

監査部にて会計監査業務に従事したのち、財務会計アドバイザリー(FAAS)事業部へ異動。主にIFRSや新基準などの導入支援業務などに従事している。また、法人ウェブサイトに掲載する会計情報コンテンツの企画・執筆に携わっている。



要点

  • IFRS第18号はIAS第1号「財務諸表の表示」に置き換わる新基準であり、原則として2027年1月1日以後に開始する事業年度より適用される。
  • IAS第1号の多くがIFRS第18号に引き継がれるものの、多くの企業の表示及び開示に影響を及ぼすと見込まれる新たな要求事項が導入されている。
  • IFRS第18号の適用は財務業績に係るコミュニケーション戦略を見直す契機となる一方、その準備に相当の時間を要する可能性があるため、早期にその検討に着手することが望まれる。


Ⅰ はじめに

IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」は、IAS第1号「財務諸表の表示」に置き換わる新基準です。IAS第1号の内容の多くがIFRS第18号に引き継がれていますが、財務諸表の比較可能性と透明性の向上を通じた「投資家との業績報告に係るコミュニケーションの改善」を目的として、新たな要求事項が設けられています。本稿では、IFRS第18号の主な要求事項の概要とその適用に向けた対応について解説します。
 

1. 主な変更点の全体像

<図1>は、現行基準からの主な変更点を示したものです。まず、基本財務諸表と呼ばれる財務諸表本表では、損益計算書の比較可能性改善のため、2つの新しい小計と3つの新たな区分が設けられています。また、財務諸表の注記では、経営者が定義した業績指標の透明性の向上のために新たな開示が要求されています。そして、両者にわたるものとして、財務諸表におけるより有用な情報のグルーピングの観点から、集約と分解に関するガイダンスが設けられることとなりました。

図1 現行基準からの主な変更点のイメージ

図1 現行基準からの主な変更点のイメージ
Illustrative Examples : IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements, IASB, 2024, p.29, Project Summary : IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements, IASB/IFRS Foundation, 2024, p.3 を基にEY作成

2. 適用時期

IFRS第18号は、原則として2027年1月1日以後に開始する事業年度から適用(早期適用可)されます。ただし、IFRS第18号は遡及(そきゅう)適用が求められているため、比較年度の修正再表示が必要となり、さらに少なくとも直前の比較対象期間において、従前の損益計算書との各科目に係る調整表の開示が必要になります(IFRS18.C1-C3)。また、IAS第34号「期中財務報告」に基づき期中財務報告を作成する場合、損益計算書について年次財務諸表で使用すると見込んでいる見出しと、求められている小計を表示する必要があります(IFRS18.C4)。このため、3月決算会社の場合、2028年3月期の第1四半期から、新たな小計を表示することになります。


Ⅱ 主な新しい要求事項

1. 損益計算書の小計と区分

(1) 新しい要求事項

従来は、損益計算書上、特定の小計(いわゆる、段階損益)の表示は求められていなかったため、同じ名称の小計(例えば、営業利益)であっても、その計算方法にバラつきがあり、企業間比較が困難になるといった課題がありました。このため、損益計算書の比較可能性改善の観点から、「営業区分」「投資区分」「財務区分」の3つの新しい区分と、「営業損益」及び営業損益と投資区分に分類した収益及び費用で構成される「財務及び法人所得税前純損益」という2つの新しい小計が設けられ、各区分に分類される収益及び費用が整理されることとなりました(IFRS18.69-71)(<図2>参照)。

図2 損益計算書における新たな分類区分のイメージ

図2 損益計算書における新たな分類区分のイメージ
各種資料を基にEY作成

また、主要な事業活動として特定の事業(特定の種類の資産への投資、又は顧客へのファイナンスの提供)を営む場合は、投資・財務区分に分類される収益及び費用を営業区分に分類することが求められています(IFRS18.49-50)。例えば、主要な事業活動として、顧客にファイナンスを提供している企業(銀行や顧客にファイナンス・リースを提供している貸手など)においては、当該活動が主要な事業活動ではない場合に財務区分に分類される支払利息が、営業区分に分類されることとなります。なお、投資・財務区分に分類される収益及び費用のうち、一部の項目を営業区分に分類しない取扱いや会計方針の選択が求められる項目が存在するため、注意が必要です。

さらに、為替差損益やデリバティブ損益など、事実及び状況に応じて区分が決まる項目も存在します。為替差損益を例に挙げれば、関連する収益及び費用の項目と同じ区分に分類する(例えば、売掛金など営業取引から生じる為替差損益は営業区分、資金調達取引に関連する為替差損益は財務区分に表示するなど)ことが求められることとなりました※1

(2) 適用に向けた対応

損益計算書の構成は、自社が特定の事業を主要な事業活動として営んでいるかどうかについての評価を行った上で、新たな区分ごとに既存の項目を整理し、追加的な科目及び小計の表示の要否を慎重に検討する必要があります。従前から営業損益の小計を表示している場合であっても、従前の各項目の分類や事実及び状況に応じて区分が決まる項目の存在によっては、変更が必要となる可能性があるため、注意が必要です。そして、新たな表示を行うために必要な情報とその収集方法(例えば、為替差損益と関連する収益及び費用とのひも付けなど)を分析し、必要に応じて、勘定科目体系やレポーティングパッケージを含むシステムの見直しを行うことが考えられます。また、現在の小計が、経営者のインセンティブや財務制限条項の遵守の決定に用いられる指標である場合など、損益計算書の構成の変更することで生じるその他の影響についても留意する必要があります。
 

2. 経営者が定義した業績指標(MPM)

(1) 新しい要求事項

決算説明資料等の中で、各企業が独自に提供してきた業績指標(代替的な業績指標<APM>やnon-GAAP指標と呼ばれることがある)について、その指標の使用理由や計算方法等を財務諸表利用者側から理解することが困難な場合があるという懸念がありました。このため、業績指標の透明性の向上の観点から、経営者が定義した業績指標(以下、MPM※2)に関する注記が求められることとなりました。ただし、財務諸表外で開示しているすべての業績指標が注記の対象となるわけではなく、MPMの定義(<図3>参照)を満たすものだけが注記の対象となります。

図3 経営者が定義した業績指標(MPM)

図3 経営者が定義した業績指標(MPM)

MPMはその定義のとおり、財務諸表外での一般とのコミュニケーション※3において使用されている収益及び費用の小計に限定されます。例えば、フリー・キャッシュ・フロー、財務比率※4 (ROEなど)や非財務指標(顧客数など)は収益及び費用の小計ではないため、注記の対象とはなりません。また、IFRS会計基準で既に要求している小計(営業損益など)や小計としては要求していないものの、MPMではないとされた項目(売上総損益など)も、注記の対象外とされています(IFRS18.117-120, B116)。一方、一部の項目(一時的な損益など)を調整した営業損益などは、MPMに該当する可能性があります。指標がMPMに該当する場合、当該指標の計算方法及びその指標がどのように有用な情報を提供するか、そしてIFRS会計基準で規定されている小計との調整表を注記することとなります。調整表の各項目に係る税効果及び非支配持分への影響も開示することが求められています(IFRS18.121-123)。

(2) 適用に向けた対応

まず、自社の決算説明資料等において使用している業績指標が、MPMの定義を満たすかどうか調査を行う必要があります。IFRS第18号は、使用している指標の見直し自体を求めるものではないものの、これを機会に指標自体を見直すことも考えられます。そして、MPMの開示が必要となる場合には、MPMの算定及びその開示に必要な情報収集プロセスを整備する必要があります。
 

3. 集約と分解

(1) 新しい要求事項

① 集約と分解の原則

多額の「その他」の費用について追加的な情報が提供されていないなどの課題への対応のため、集約と分解に関するガイダンスが設けられました。基本的には共有されている特徴に基づき集約し、共有されていない特徴に基づいて分解することとなりますが、その際には重要性がある項目が不明瞭にならないように留意する必要があります。また、情報の記載箇所については、基本財務諸表と注記の役割に基づいて決定する必要があります。基本財務諸表の科目は、「有用な体系化された要約」の提供の観点から検討を行い、「有用な体系化された要約」を提供しない場合には、重要性がある情報は注記で開示することになります(IFRS18.41-42)。「その他」の名称は、より有益な名称を見つけられない場合にのみ使用するものとされ、より有益な名称を見つけるためのガイダンス、及びより有益な名称を見つけられない場合の取扱いなども規定されました(IFRS18.B25-B26)。

② 営業費用に関する情報の表示及び開示

営業費用は、費用性質法(材料費、人件費など)又は費用機能法(売上原価、販売費など)のいずれか、又は両方を用いて表示する必要がありますが、そのためのガイダンスが新たに設けられました(IFRS18.78-82)。また、費用機能法による表示を行った場合、5つの科目(i.減価償却費、ii.償却費、iii.従業員給付費用、iv.減損損失及び戻入れ、v.棚卸資産評価損及び戻入れ)については、機能別の内訳を開示することが求められています。ただし、当該期間に費用として認識した金額である必要はなく、追加的な説明を行った上で資産の帳簿価額の一部として認識された金額を含めることが認められています(IFRS18.83, B84)。

(2) 適用に向けた対応

集約及び分解の原則の観点から、集約又は分解すべき項目や名称を見直すべき項目の有無、その記載場所の適切性、内訳の説明の十分性について分析し、集約と分解に関する判断方針を整備する必要があります。また、営業費用の性質及び機能の特徴を分析(費用機能法による表示を行う場合、販売費と管理費の区分を含む)し、費用機能法による表示を行う場合に求められる追加的な開示のため、必要な情報収集プロセスを整備する必要があります。
 

4. その他

IFRS第18号の適用に伴い、他のIFRS会計基準においても間接的な改訂が生じています。例えば、キャッシュ・フロー計算書においては、間接法の営業活動によるキャッシュ・フローを算定する出発点が営業損益に統一され、利息及び配当金のキャッシュ・フロー区分の選択肢が削除されています(IAS7<2017>.18, 34A)。日本企業では、間接法の出発点を税引前利益(又は損失)とし、受取利息、受取配当金、支払利息によるキャッシュ・フローを営業活動によるキャッシュ・フローに分類しているケースが多いため、当該改訂は多くの企業に影響を及ぼすものと考えられます。

※1 なお、過大なコストや労力を要する場合は営業区分に分類することを認めており、過大なコストや労力を要するかどうかの評価は項目ごとに行う必要がある。

※2 Management-defined Performance Measures

※3 財務諸表外での一般とのコミュニケーションには、有価証券報告書の経理の状況の前の部分(いわゆる、前段)や決算説明資料等が含まれる。

※4 財務比率自体はMPMには該当しないものの、比率の分子又は分母である小計がMPMの定義を満たす場合、当該小計をMPMとして取り扱うこととなる(IFRS18.B117)。


Ⅲ おわりに

IFRS第18号の適用による損益計算書の構成の変更や、追加的な開示に対応するため、必要な情報及びその収集方法の分析、必要に応じて決算プロセスの変更やシステムの対応が求められることとなります。また、経営者のインセンティブや財務制限条項などへの影響、MPMの見直しの要否の検討においては、事業戦略を策定する部署やIR部門と、これまで以上に緊密な連携が必要になると考えられます。本稿の冒頭に記載した通り、IFRS第18号は「投資家との業績報告に係るコミュニケーションの改善」を目的としており、その適用は財務業績に係るコミュニケーション戦略を見直す契機となる一方、その準備に相当の時間を要する可能性があるため、早期にその検討に着手することが望まれます。
 

参考文献:
Applying IFRS:IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」2024年7月



サマリー

2027年1月1日以後に開始する事業年度より、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が原則適用されます。IFRS第18号の主な要求事項の概要とその適用に向けた対応について解説します。


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