Price Point:2022年第2四半期の原油・ガス価格の見通しを理解するための4つのトレンド

Price Point:2022年第2四半期の原油・ガス価格の見通しを理解するための4つのトレンド


市場に活気が戻りつつある中、ウクライナ情勢が各国のエネルギー政策の転換に拍⾞をかけています。本稿では、最新の原油・ガス市場の⾒通しについて解説するとともに、銀行、ブローカー、コンサルタントによる価格見通しに関するEYの分析を提供します。


要点

  • ウクライナ情勢がエネルギー市場を揺るがしており、市場価格は過去に例を見ないほどの高水準を記録している。
  • 各国によるロシアに対する経済制裁を懸念し、エネルギー市場関係者はサプライチェーンの再構築を模索している。
  • ロシア産エネルギーの最大の消費者である欧州は、ロシア産化石燃料への依存から脱却すべくグリーンエネルギーへの投資を加速させている。


石油・ガス市場は、出口の見えない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応に追われた末、世界的な需給バランスや資金配分の再構築の兆しとともに2022年第1四半期の幕を閉じました。

世界最大の天然ガス輸出国、かつ世界第2位の原油輸出国に対する制裁が強化され、過去に経験したことのない水準にまで原油価格が上昇しています。ロシア産原油の禁輸を正式に公表した国は少ないものの、国際エネルギー機関(IEA)は日量250万バレルの供給が途絶えると予測し、また潜在的な風評被害がロシア産原油の市場性に影響を与えてきました。

ブレント原油とウラル原油のスプレッドは、時折停滞はしたものの1バレル当たり3米ドルから30米ドルと広がりました。フォワードカーブは、価格の短期的推移や、市場の行く末について有益なヒントを与えてくれます。2023年12月におけるLNG(プラッツJKM)の先物価格は、2022年2月上旬比では1.5米ドル高値で取引されることを示していますが、2022年4⽉⽐では10⽶ドル以上の⾼値で取引されることを⽰しています。

原油価格も同様の推移を示しています。WTI原油の、2022年4月と2024年1月におけるスプレッドは26米ドルとなりましたが、2021年末時点の同時期におけるスプレッドは10米ドルでした。ロシアへの制裁法案の可決に伴う市場への影響は時がたつにつれ徐々に分かると思いますが、1つ確信できることは通常通りのビジネスに戻ることは想定されていないということです。

2022年第2四半期のテーマは「再生」です。ロシアの石油・ガス供給の損失または潜在的損失により、経済制裁や風評被害のリスクの観点から生産者・精製業者やトレーダーは商流を再検討せざるを得ない状況です。国、企業や消費者はこの状況に対応するための方策を模索しており、その結果、将来のグローバルエネルギー市場に影響を与え得るかもしれません。

しばらくの間は原油・LNGの価格は高い水準が続く見込みです。ロシア産原油の消費国は経済制裁を懸念し買い控えが生じており、OPEC加盟国が失われたロシア産原油の供給を補填するための増産をしようとする兆候はほとんどありません。2021年末における余剰生産能力は日量370万バレルであり、これは2020年1月における数量をやや上回るものです。経済制裁下におけるベネズエラとイランの生産能力(最大⽇量約300万バレル)が差分を埋めることはできても、政治的・経済的な障壁は依然残ります。今日の価格においては、米国のシェール生産は魅力的ではありますが、すぐに増産できるのは日量100万バレルから200万バレルの間になります。ウクライナ侵攻前に既にLNG施設は拡張しており、新たなLNG供給源がすぐに見つかる見込みはありません。

欧州はロシア産エネルギーの最大の買い手です。ウクライナ情勢を契機に、欧州は再生可能エネルギーの生産をより一層加速させています。グリーンエネルギーの生産能力は太陽光パネルや風力タービンのサプライチェーンに依存するため、追加生産能力が限られていることから、新たなLNGインフラが失われたロシア産原油の不足分の大きな部分を埋め合わせすることになるでしょう。


2022年第2四半期には、次の4つのトレンドが見られます。

 

1. 供給における前例のない混乱

ウクライナ情勢およびロシアへの経済制裁が世界経済に混乱を招きました。供給の調整には時間と追加のインフラ投資を要するでしょう。

2. 流動的な資金配分

失われたロシア産の石油・ガス・石炭をどのように補填するのかについて疑問が⽣じています。市場への対応と供給の確実性が短期における市場安定性の鍵となるでしょう。

3. 拡大するLNG市場

ロシア産ガスに依存することは選択肢の1つではなくなりましたが、ガス需要はしばらく続くので、欧州においてLNGがより重要な役割を担うでしょう。

4. 変わりゆく製造フローとマージン

ロシアにおける精製品の輸出フローは原油とは大きく異なります。サプライチェーンが再構築されるまで、製品や地理的格差は変動幅が大きいでしょう。


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サマリー

ウクライナ情勢がエネルギー市場に与える影響は甚大であり、ステークホルダーはサプライチェーン再構築や新たなエネルギー政策を模索しています。市況の予測は依然として困難を極めており、世界はエネルギー政策の大転換期を迎えています。今後も情勢を引き続き注視していく必要があります。


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