州・特別地域の経済をチャートから読み解く -利上げの影響により、オーストラリア全土で経済は減速-

州・特別地域の経済をチャートから読み解く -利上げの影響により、オーストラリア全土で経済は減速-


1~3月四半期のオーストラリアの州・特別地域別経済に関するチャート:2023年3月


要点

  • 金利上昇が与える影響は、引き締め政策が主に住宅市場を介して浸透するため、州や特別地域により若干異なる。
  • オーストラリア全土で住宅価格が下落しているが、2桁の下落が見られる地域もあれば、1~2%の緩やかな下げ幅にとどまった地域もある。
  • クイーンズランド州と南オーストラリア州ではすでに支出が減少し始めているが、個人消費の減速はおのおのの州で同時に進むと予想される。
  • 労働市場、企業の信頼感、状況は予想外に堅調さを維持している。

2023年は、多くの新たな課題をもたらすとともに、古い課題も引き継いでいます。一方で、州や特別地域の経済の中には、予想外に堅調に推移しているところもあります。


2022年は減速の兆しで幕を閉じた

22年は各州・特別地域で若干異なる結果に終わりました。首都特別地域(ACT)、ビクトリア州、西オーストラリア州で見れば、10~12月四半期は堅調で、州の最終需要はそれぞれ0.3%増、0.2%増、0.1%増となりました。タスマニア州の経済は低迷のままで、北部準州(ノーザンテリトリー)(−0.5%)、クイーンズランド州(−0.3%)、ニュー・サウス・ウェールズ州(−0.1%)での最終需要は減退しました。

南オーストラリア州とクイーンズランド州では家計消費が落ち込みましたが、その他の州では穏やかなペースながら、個人消費は回復しました。公共消費は、西オーストラリア州と北部準州を除くすべての州で増加しましたが、民間および公共投資は、住宅用不動産市場の減速と一部のインフラプロジェクトにより、国内のほとんどの地域で減少しました。

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課題を持ち越した新年

消費者の信頼感は、生活費と金利上昇の影響を受け、全国的に景気後退期並みの低水準にとどまっています。家計資産は、住宅価格の下落によって低下しています。22年11月の前回の記事ではダーウィンの住宅価格がプラスに転じたものの、今回はダーウィンでも住宅価格がマイナスに転じています。住宅価格は、シドニーで14%、ホバートで12%、ブリスベンで11%、メルボルンで10%、キャンベラで9%下落しました。一方、アデレード、パース、ダーウィンでは、下落幅は1~2%と非常に小さく、消費者心理への影響は少ないと思われます。住宅価格の下落幅の違いは、これからの各州における経済環境での大きな差となります。

住宅価格の下落や住宅ローン金利の上昇に伴い、住宅投資は10~12月四半期までに0.9%減少し、穏やかな動きが続いています。一方、労働力や資材不足の緩和、輸送運賃の正常化、住宅プロジェクトの強力なパイプラインや、ほとんどの州・特別地域で発生した深刻な異常気象(建設需要のさらなる増加)は、業界にとっての追い風となっています。

一方で、キャンベラ、ホバート、ダーウィンを除き、賃貸料は年率2桁のペースで上昇しています。これは、家計に対する新たな圧力となり、今後1年間の裁量的な支出を鈍らせることになります。賃貸市場は、空室率が0.4%(パース)から1.8%(キャンベラ)の間で、引き続き厳しい状態が続いています。

実質賃金は、全州・特別地域でほぼ同じペースで下がり続けており、消費者心理を低下させる要因となっています。南オーストラリア州は引き続き最も影響を受けた州であり、10~12月四半期までの1年間で実質賃金が5%以上減少しています。実質賃金の下落幅が最も小さかったタスマニア州は、4.2%の下落にとどまりました。

オーストラリア全土で海外からの移民が大きく回復しているにもかかわらず、労働市場の逼迫(ひっぱく)が続いており、企業はスキル人材不足に直面しています。求人1件に対する失業者数を比較すると、首都特別地域(0.6人)、北部準州(0.7人)、西オーストラリア州(0.9人)が最も労働市場の逼迫を実感しています。

その他の指標でも減速が

一方で新年度に入り、他の指標も鈍化しています。

 

オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のカード支出データによると、名目支出は2月中旬に減少し始め、3月に入っても減少を続けています。これは、非食品小売業が減少したことによるものですが、娯楽・旅行支出の増加によってわずかに相殺されました。

 

オーストラリア準備銀行は10回連続で利上げを実施し、市場エコノミストはさらなる利上げを予想していますが、銀行業界の最近の動向により、金融市場の価格設定は現在不安定な状況です。パンデミック時に低金利を保証された固定金利の住宅ローン保有者は、これまで金融引き締めの影響をほとんど受けませんでしたが、今年、これらの住宅ローンの大部分が変動金利に切り替わる予定です。このため、家計はさらに圧迫されるでしょう。

 

貿易相手国の間では、成長の鈍化と景気後退の条件がそろっています。つまり、コモディティ価格(特にLNG、石炭、鉄鉱石)は今後数カ月にわたって下落する可能性があり、これは主に西オーストラリア州、クイーンズランド州、北部準州に及ぶと思われます。中国は、最近の貿易再開により需要が増加する可能性があり、コモディティ価格の上昇リスクとなります。

予想外に堅調な州経済-少なくともこれまでは

地政学的な状況、気候変動、ネットゼロへの移行、人口動態の変化などを抜きにしても、今年も経済の変化と複雑な状況が待ち構えています。しかし、経済の見通しには希望の光が見えています。

労働市場は予想以上に回復しており、失業率は首都特別地域で最も低い2.9%、北部準州で最も高い、それでも比較的低いですが、4.6%となっています。労働参加率は依然として高く、北部準州は全州の中で最も高い水準にあります。

景況感は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック前の水準で推移していますが、19年に比べてビジネスの状況は高まっており、特にクイーンズランド州と西オーストラリア州ではその傾向が見られます。これは、これまでの家計消費の回復力を反映していますが、消費が減速しマイナスに転じると、景況感やビジネスの状況も打撃を受けると思われます。


サマリー

州・特別地域の経済に関するチャートでは、州全体の経済動向を比較・把握するとともに、23年第1四半期における、個々の州の強みや重要課題を明らかにしています。


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