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州・特別地域の経済をチャートから読み解く ― オーストラリア全土で経済成長が堅調な一方、2023年に予想される逆風とは

12月四半期のオーストラリアの州・特別地域別経済に関するチャート:2022年11月


要点

  • 2021~22年の各州・特別地域経済は、ニュー・サウス・ウェールズ州と首都特別地域(ACT)を除き、すべての州で長期成長率を上回る業績を上げました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のロックダウンからの回復により、ビクトリア州の成長率が最も高くなりました。
  • 22年第4四半期に向けて、好調な労働市場や個人消費の回復など、多くのポジティブな経済指標が続いています。
  • しかし、世界経済の弱体化、金利上昇、住宅市場の低迷、ニュー・サウス・ウェールズ州、クイーンズランド州、南オーストラリア州、ビクトリア州での洪水による物資供給への影響などにより、23年にはすべての州・特別地域の経済活動において混乱や低下が生じることが予想されます。

2021~22年はロックダウンの反動で、好調な年に

オーストラリア経済がパンデミックから回復し、規制が緩和されたことで、22年度はすべての州と特別地域が成長を遂げました。1ニュー・サウス・ウェールズ州と首都特別地域を除けば、すべての州で長期成長率を上回りました。

最も成長率が高かったのはビクトリア州(5.6%)、次いで南オーストラリア州(5.1%)、北部準州(ノーザンテリトリー、4.7%)でした。ビクトリア州は新型コロナウイルス感染症のロックダウンや規制から立ち直り、20~21年の0.3%減から大きく改善しました。ニュー・サウス・ウェールズ州は、上半期のロックダウンや州境閉鎖の影響により、20~21年の2.6%に続き、21~22年は1.8%と最も低い成長率を記録しました。

減速の兆し

22年後半は、各州・特別地域でさまざまな経済指標が混在する結果となりました。

生活費と金利の上昇により、消費者マインドは全国的に悪化しています。家計資産も、主にシドニー、メルボルン、ブリスベンで見られる住宅価格の下落によって低下しており、州都の中ではダーウィンにおいてのみ住宅価格の上昇が続いています。

一方、労働市場は非常に好調で、女性の労働参加率が過去最高に近いにもかかわらず、今もなお労働者の数は増え続けています。求人広告数などの先行指標が減速していることから、失業率も最低値と思われる3.4%に近づいていると言えるでしょう。失業率がこれほど低くなるのは50年ぶりのことです。

堅調な労働市場に加え、コロナ禍に積み上げた貯蓄により、小売売上高は比較的堅調で、北部準州とタスマニア州を除けば、9月四半期に入っても上昇を続けています。11月のオーストラリア・ニュージーランド銀行の消費データによると、あらゆる業界において小売価格が大きく上昇している中、ブラックフライデー商戦を前に消費は減速する様子はありませんでした(ブラックフライデーの売り上げは他の主要な年末商戦日の売り上げを上回っています)。西オーストラリア州は、パンデミック開始以来の小売販売量の伸びにより、引き続き他州をリードしています。州境管理の厳格化によりロックダウンの期間が短くなり、資源セクターにけん引され経済も回復に向けて勢いが増しています。

また、労働市場が非常に好調であり、その結果スキル人材が不足しているため、企業は生産能力の制約に直面しています。求人1件に対する失業者数を比較すると、首都特別地域(求人1件に対して失業者0.6人)、北部準州(0.8人)、西オーストラリア州(0.9人)が最も労働市場の逼迫した状態となっています。クイーンズランド州は、ニュー・サウス・ウェールズ州やビクトリア州からの州間移民を受け入れているため人口が増加しており、労働力不足が緩和されていると思われます。

労働市場が好調であるにもかかわらず、賃金の伸びは緩やかで、一部の地域を除いて、企業は一貫した賃上げを実施する必要がありませんでした。しかし、消費者向けビジネスにとっては、低賃金と高インフレが相まって、顧客の実質賃金を押し下げるという、もろ刃の剣となっています。南オーストラリア州では9月四半期の実質賃金の下落率が5%超と最も大きく、西オーストラリア州では2.7%下落しました。

2023年の逆風


金利上昇により借入可能枠が縮小し、住宅流通が減少しているため、住宅購入意欲は低下しています。住宅市場の動向はしばしば景気を大きく左右する要因であり、他のどの州都よりも住宅価格の下落が激しいシドニーでは10%下落しており、ニュー・サウス・ウェールズ州内においては、個人消費が最も急速に冷え込む可能性があります。ブリスベンとメルボルンの住宅価格(いずれもピーク時から6%下落)も同様です。アデレードやパースといった人口の少ない都市の住宅価格は、わずかな下落にとどまっています。
 

住宅価格の下落に伴い、全国的に家賃が上昇しており、これも一部世帯における今後1年間の裁量的支出を鈍化させる要因となっています。賃貸料は、全州都で平均すると2桁の伸び(年率ベース)であり、ユニットは20%以上、戸建ては18%上昇しています。パースとアデレードの賃貸市場の状況は非常に厳しく、10月の空室率はわずか0.4%でした。
 

パースのように、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中、州政府の建設奨励金が非常に手厚かった州都を筆頭に、新築住宅の建設は急速に回復していますが、少なくとも今後1年程度は住宅供給が増加する可能性は低いと思われます。建設業界は、資材やスキル人材の不足に悩まされていますが、パンデミック時に州や特別地域のすべてが直面したこの問題は、発注に要する期間が正常化し、輸送運賃が低下するにつれて緩和されてきたようです。
 

洪水の発生においては、家屋やインフラの再建が必要となるため、最終的には経済活動の活発化につながるでしょう。しかし、短期的には、サプライチェーンや輸送インフラの断絶、農産物の被害などに影響が出ると思われます。これらの供給サイドの問題により、ニュー・サウス・ウェールズ州、クイーンズランド州、南オーストラリア州、ビクトリア州では生産が低下し、それが一時的にインフレ率を押し上げる可能性が高くなります。
 

同国の貿易相手国において23年に予想される経済成長の鈍化と景気後退は、西オーストラリア州とクイーンズランド州の貿易セクターに最も影響を与えるでしょう。両州の輸出実績は、過去2年間のコモディティ価格の高騰と輸出量の顕著な増加により非常に好調でしたが、今後この傾向はより緩やかになると予想されます。

州・特別地域をチャートから読み解く

1 州総生産(Gross State Product)は、オーストラリア統計局(ABS)が毎年11月に前会計年度について発表します。

サマリー

四半期ごとにアップデートされる、オーストラリアの州・特別地域別経済に関するチャートは、各州の経済動向を比較し、主要な点を把握するとともに、22年第4四半期における各州の強みと重要な課題を浮き彫りにしています。

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