サステナブルパッケージ:商品の鮮度を保ちつつ、土に還る包装へ

サステナブルパッケージ:商品の鮮度を保ちつつ、土に還る包装へ


さまざまなブランドがサステナブルな包装への移⾏を進めています。必要な規模に到達するには適切な投資選択をし、連携することが不可⽋です。


要点

  • 海や埋め立て地に廃棄される軟質プラスチックフィルムを削減するには、各ブランドは商品のみならず、包装のライフサイクルも検討する必要がある。
  • 消費財企業は、サステナブルな新素材を探しながら、実用化に向けた体制とインフラの開発も進めなければならない。
  • 複数のステークホルダーと多種多様なソリューション候補が存在する中で、サステナビリティを実現し、全国あるいはグローバル展開をスピーディーに拡張するには「エコシステム」と「パートナーシップ」が重要な鍵を握る。


私たちは、店頭に並ぶ⾊とりどりで華やかなデザインの商品が消費者の関⼼を引き、購買意欲をかきたてる光景を当然のように受け⽌めています。ですが、役⽬を終えた包装がその後どうなるかについては、⾒て⾒ぬふりをしています。企業におけるESG・サステナビリティ戦略の重要度が⾼まるにつれ、パッケージのその後の⾏⽅についても取り組んでいかなくてはなりません。

サステナブルな軟質プラスチック包装の開発はとりわけ難題で、これといった解決策もありません。今のところ、プラスチック容器のリサイクルに使⽤されるメカニカル・リサイクル・システムでは軟質プラスチックフィルムは処理できません。プラスチックフィルムは軽量で安価なため、その⼤半は⾷品容器として⽤いられるので使⽤後は⾷⽤油で汚れており、再利⽤可能なフィルムを⼤量に回収することは難しい上に、フィルム⾃体が複数の層で構成されている点がリサイクルをさらに困難にしています。新素材(リサイクルが容易か⽣分解性)や新たな処分⽅法(ケミカルリサイクル、⼤規模コンポスト化)の開発、あるいはそれらを掛け合わせた解決策を⾒つけるにはイノベーションが不可⽋ですが、いずれの場合でも新しいビジネスモデルやそれを⽀えるインフラ、そして消費者に対する啓発が必要です。また、現地法令に配慮しながら、広範な試験の実施と多額の投資も求められます。

現状把握とその対応の複雑性から、リサイクルは「難しすぎる問題」として⻑年据え置かれてきたのもやむを得ないでしょう。しかし、各⽅⾯からの圧⼒が⾼まる今、企業は移⾏戦略を決断する必要に迫られています。

消費財企業はこの点を⼗分意識しており、使⽤量の削減・リサイクル率の向上・⽣分解性プラスチックの開発などを通して、プラスチック包装削減に全⼒を挙げて取り組んでいます。包装は商品の品質を維持する上で極めて重要な役割を担うため、削減とのバランスを図るのは容易ではありません。また、ブランドアイデンティティの強化にも重要な役割を果たします。つまり、有名ブランドは先陣を切って課題に取り組む必要があるのです。適切でサステナブルな処分⽅法を⾒出ださなければ、店頭で⼈⽬を引く魅⼒的なパッケージが⼀転して不快なゴミへと成り変わり、ブランドの評判を下げるリスクにもつながりかねません。


店頭で⼈⽬を引く魅⼒的なパッケージが一転して不快なゴミへと成り変わり、ブランドの評判を下げるリスクにもつながりかねません。


環境に配慮して購入する消費者が増えている

消費者の態度は変化しています。EY Future Consumer Indexは、若年世代は批判的・懐疑的で、ブランドが⾃分の期待に沿わなければ別のブランドへ乗り換えると⽰しています。各ブランドが主張するサステナビリティへの配慮をチェックするとの回答は、Z世代とミレニアル世代では24%に上りますが、ベビーブーム世代ではわずか4%でした。

実際、この世代は企業の主張の信憑性を確認しようとするだけではなく、⾏動を起こす割合も⾼くなっています。Z世代とミレニアル世代の21%が、環境に⼗分な配慮をしていないとして特定の商品の購⼊をやめています(ベビーブーム世代では6%)。つまり、サステナブルなパッケージへの移⾏に積極的でないブランドは、将来の顧客を競合に奪われるリスクがあるのです。

政府の⽬もあります。各国政府は持続可能な開発⽬標(SDGs)を達成しようとプラスチックやごみの削減⽬標を設定し、企業がどのように協力しているかをモニタリングしています。投資家も、差し迫りつつあるリスクに不安を感じています。⾃社にも地球にも有益となる、適切で⻑期的な選択肢を確保するために、企業は将来を左右する重⼤な決断を下さなければなりません。

では、消費財企業はどのようにプラスチック削減を実現していくべきでしょうか。

EY Future Consumer Index
Z世代とミレニアル世代の21%が、環境に⼗分な配慮をしていないという理由で特定の商品の購⼊をやめています(ベビーブーム世代では6%)

明確な選択肢はあるが明確な答えはない

⼀般的には、包装とそれに使⽤するプラスチック量を削減し、リサイクル可能な素材を増やすところから始めます。現在、リサイクルを実現する上で最も資源効率・エネルギー効率の⾼い⽅法はメカニカルリサイクルです。しかし、メカニカルリサイクルの施設では軟質プラスチックフィルムの処理ができません。伸張性の⾼い軟質プラスチックフィルムは機械の回転部に絡まる可能性があり、詰まりを起こした際には除去するために機械の停⽌を余儀なくされます。放置したまま稼働すると選別機の性能が下がり、汚染(紙のリサイクル⼯程にプラスチックが混⼊するなど)につながるからです。

プラスチックフィルム包装のサステナビリティ実現のため、企業ではケミカルリサイクルと⽣分解性素材を真剣に⽐較検討していますが、双方にメリット・デメリットがあります。

ケミカルリサイクル市場は現時点では発展の初期段階にありますが、包装に使⽤した軟質プラスチックフィルムを加⼯して、未使⽤プラスチックに遜⾊のない、⾷品包装に使⽤できる品質のポリマーの⽣産技術が開発されています。商業価値のある素材を⽣産することにより、包装材を埋め⽴て地へと送らずにすむだけでなく、プラスチック⾃体の使⽤を削減しながら新しい市場を⽣み出すことができます。ただし、ケミカルリサイクルは仕分けに⼿間がかかるのと不純物を除去する必要があるため、化⽯燃料からプラスチックを⽣産する場合と同等の⽣産コストになるまで規模を拡⼤するには、相当の時間を要するでしょう。

同様に魅⼒的なのが、有機物へと分解されるプラスチック材料への切り替えです。バイオポリマーは、植物油、でんぷん、たんぱく質などの再⽣可能なバイオマス源から⽣産されます。化⽯資源の保全と⼆酸化炭素排出量削減の⼆重のメリットがありますが、その一方で貴重な農地資源を⼤量に必要とします。SDGsの⽬標2が「飢餓をゼロに」であることを考えると、農地を⾷糧生産のためではなく包装材の資源に充てることは許されるものでしょうか。この技術もまた、ポリマー生成のコストが高く技術が初期段階にあることから、製造と抽出には相当のコストがかかります。需要をまかなう包装材の量と安定供給を実現するためのエコシステムの整備と普及には⼤きな困難が伴うでしょう。その上、⽣分解性・コンポスト可能なポリマーはそれぞれ分解の速度と程度が異なります。包装材が複数の層で構成され、各層が別々の⽬的を持つ異素材から成る場合、「⼟壌改良材」の段階にまで⽣分解するために必要な条件(気温、湿度、微⽣物)と時間を判定するには、厳格な試験を実施しなくてはなりません。


サステナブルなパッケージへの移行に積極的でないブランドは、将来的に顧客離れを招くリスクを負うことになります。


ビジョン実現に必要なもの

軟質プラスチックによる包装の将来的な理想は、次のとおりです。
 

  • サステナブルな包装材は、現在使⽤している素材より安価で、商品の品質保持に優れ、消費者の⽬を引くものである。
  • 処分時には、リサイクル、クローズド・ループ・システム、有害・汚染物質ではない有機物へのコンポスト化または⽣分解によって最終的に経済的価値のあるアウトプットが⽣産される。
  • 生産に必要な化学薬品や材料が⼗分に確保でき、それらを使用した製品が環境・社会に悪影響を及ぼさない。
  • 使⽤技術は検証済みのもので、複雑な機械や設備が正常に機能するよう適切な投資を行う。
  • 新しいプレイヤーが既存のプレイヤーと協⼒し、新しいエコシステムが構築される。
  • プロセスは、世界的に⼀貫した法令・インフラ環境下で、全地域で⼀様に展開される。
  • 回収体制が整備され、リサイクルとコンポスト化が消費者⾏動として定着する。
     

消費財企業はこの理想郷への道のりを歩み始めたばかりですが、単独で、あるいは孤⽴して問題解決に取り組むことはできません。⾃社、消費者、社会のための⻑期的な価値創出に向けて前進するには、次のような⽅法があります。
 

  1. 社内エキスパートを連携させる
    現⾏の樹脂フィルムを⽣分解性の材料で代替するにしても、軟質プラスチック⽤クローズドループ・リサイクル・システムを開発するにしても、社内で各分野のエキスパートが⽅向性を同じくする連携が必要です。プロダクトマネジメント、サプライチェーン、研究開発、調達、戦略部隊、そして⾔うまでもなくサステナビリティ部⾨が協働し、最良の移⾏計画を策定しなければなりません。どの選択肢でも新興技術が関連してくるため、⽅向性と試験計画について⾜並みをそろえることが極めて重要です。


  2. 商品と消費者の見直しを行う
    この機会を捉えて基本事項を⾒直し、包装に対する最適な要件を定め、より⾰新的な選択肢や対策を検討しましょう。また、製品にとって何が必要不可欠であるのかを把握することは、消費者の使⽤状況や嗜好の把握と同様に、包装で使⽤する軟質プラスチックを削減する戦略策定の指針となります。


  3. 法令の一歩先を行く
    無数の規則や優遇策、税⾦、法令に首尾よく対応し、政府の措置に対して有利な⽴場を維持するには、絶えず状況の監視を続ける必要があります。理想的なのは、使い捨てプラスチックの禁⽌・プラスチック包装に対する課税、国境炭素調整などの法令に先んじてサステナブルな包装への取り組みを進め、優遇策を利⽤することです。また、⼤規模な移行を進める上で、政府への助⾔やロビー活動を積極的に行うこともできるでしょう。


  4. 健全なエコシステムを形成するパートナーシップを組む
    ⾃社にとって適切なエコシステムのビジネスモデルを特定し、⾃ら企画運営に携わるべきエコシステムと、単に参加するにとどめるエコシステムとを⾒極める必要があります。同業・競合他社と協⼒すれば⼤規模展開が可能となるだけでなく、リスクと恩恵を共有するルールを明確に定め、合意することで競争上の懸念事項にも対応できます。⾮営利団体、政府組織、⼤学、研究機関などとのパートナーシップを活⽤すれば、プラスチック削減の取り組みとコストを分担しながら、リサイクル性、コンポスト化、ラベル付けの基準も確⽴できます。消費財企業はバリューチェーン全体でパートナーシップを組むことで、ケミカルリサイクル業者や⽣分解性プラスチックメーカーと共同で投資し、費⽤対効果の⾼い素材と将来的な供給が確保できます。


  5. 消費者を巻き込みソリューションの一部とする
    消費財企業は消費者の⾏動に影響を及ぼすことに熟達していますが、消費者と地域社会がリサイクルにおける役割をきちんと果たせるよう、普及には適切なタイミングを見計らうことが鍵となるでしょう。まず、新しい⾏動や習慣を取り⼊れるよう消費者に働きかけてリサイクル活動に巻き込み、啓発していかなくてはなりません。例えば、軟質プラスチックのケミカルリサイクルを⾏うには、消費者に軟質プラスチックがリサイクル可能であることを学んでもらい、正しくリサイクルに出してもらう必要があります。また、⾃治体には単一ストリーム・リサイクリングの導入と、ケミカルリサイクル業者が再生素材を入手できる分別システムが要求されます。⽣分解性包装の場合は、消費者が各家庭でコンポスト化に協力しなければ、他のプラスチックと同様に埋め⽴て処分をしなければなりません。いずれの場合も、企業は適切なリサイクルの習慣を促し、有益な情報をラベルに表示するなどして、課題解決の一翼を担う必要があるでしょう。
     

もはや現状維持は許されませんが、サステナブルな包装に関する技術が初期段階であることを考えると、経済面で現実的な⽅策を⽣み出すのは何年も先のことになるかもしれません。開発の初期段階では、複数の技術に投資し、有望な技術の実現可能性と費用対効果を⾒極めることが最も堅実なアプローチでしょう。いったん決まれば、その技術を迅速に⼤規模展開し、必要な材料を問題なく供給するために集中投資が必要となります。
 

同業他社やバリューチェーン全体で連携することで、特に調達⾯でのリスクとコストの管理が可能となると同時に、需要を押し上げ、事業規模拡張が実現できます。
 

本稿に関しては、Ernst & Young LLPのMark Weick、Matt Handford、Minhaj Baqai、Morgan Cole、Melissa Harariの諸氏のご協力をいただきました。この場を借りて感謝申し上げます。


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    サマリー

    法令および消費者からの要求が⾼まり、リサイクル・⽣分解不可の軟質プラスチックフィルムを使⽤した包装は受け⼊れられなくなるでしょう。消費財企業は、商品品質の維持に向けサステナブルな代替策を⾒つけなければなりませんが、簡単な解決策はありません。リスクがありつつも投資が必要で、影響が広範囲に及ぶ可能性のある決断を迫られているのです。⾃社の各種包装に関して最適なソリューションを選択し、多⾯的なアプローチで実現しなければなりません。前進を加速させるには、効率的なエコシステムと強⼒なパートナーシップの形成が極めて重要です。


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