Future Consumer Index:危機的状況に消費者は対応している


多くの消費者は、パンデミックの間に⾝に着けた価値観や⾏動様式を通じて、危機的状況に対処しています。


要点

  • パンデミックを経験したことで、変化や不確実性に対する消費者のレジリエンス(耐性)は大きく高まった。
  • 単に事態に反応するのではなく、自身の生活を積極的に主導し、形作りたいと考える傾向にある。
  • 大半の消費者は、今後12カ月以内に経済が回復するとは思っていない。


EY Japanの視点

地政学リスクの高まり、インフレの急激な進行により消費者は生活防衛を優先的に考え、より一層選択的な消費傾向を強めています。今後3年間の生活環境の見通しにおいて、日本の回答者の40%が悪化すると回答しており、良くなると回答した19%を相殺した数値はマイナス21%(良くなる-悪化)となり、全世界のプラス14%を大きく下回ります。また、今後数年間の生活必需品の値上がりに対しても、総じて日本の消費者はより悲観的です。コロナ禍によるパンデミックを経験した消費者は、将来に対する不安を抱えながら、自らの消費行動を進化させてきました。生活環境の変化に応じ、自らの消費行動を変容させる柔軟性を持ち、過去の消費パターンにとらわれないという特徴が見られます。その中で、日本においてもサステナブルな消費行動に対する意識は向上しています。また、デジタル通貨の使用、メタバースなどのデジタル空間での消費、仮想商品の消費といった新たな波も、景気動向にかかわらず拡大しています。消費者が将来に対してより悲観的で、値ごろ感を重視する日本の市場においても、消費者が費用対効果に納得できるサステナブルな商品やサービスの提供、デジタルを活用した顧客体験の提供が、消費財企業にとっての重要な差別化要因となり始めています。


EY Japanの窓口

平元 達也
EY Japan 消費財・小売リーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

世界中の消費者は、この数年間、望まず激しい変化にさらされてきました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの当初、⼈々は⾃⾝の健康を最優先し、⽂字通り⼀夜にして⾏動や態度を⼀新しました。パンデミックの経済的影響による打撃が深刻化するとともに、消費者の関⼼は価格(値ごろ感)と⽣活費に移りました。そして、世界を覆っていた雲が徐々に消え始めたかのように思えたとき、人々は新たな「ポストコロナ」の価値感、特にサステナビリティを重視し始めました。

しかし、まだ「ポストコロナの時代」は始まっていません。世界経済は減速し、⾦利は上昇しています。インフレが何⼗年もの間経験したことのない規模で再来し、地政学的な影響が世界中に広がり、COVID-19の新たな変異株の出現が続いています。これらの要因が相まって新たな危機を⽣み出しつつあるのか、それともすでにあった危機が拡⼤しているに過ぎないのかは議論の余地がありますが、おそらく消費者にとって、この違いは重要ではないでしょう。

シリーズ第10回となるEY Future Consumer Index最新版では、絶え間ない危機と不確実性の中で生きることに慣れてきた人々の姿が明らかになりました。消費者は将来に不安を感じています。63%は今後12カ月以内に経済が回復するとは思っておらず、62%は今後6カ月間に生活費が増加すると予想しています。

パンデミックの到来以降、私たちは 5つの異なる消費者セグメントを追跡してきました。⼈々が不確実な世界への適応を進めていることを反映し、昨年は各セグメントに分類される消費者の割合が特に⼤きく変動しました。

消費者は、果てしなく訪れる変化と不確実性の波に受動的に反応するのではなく、積極的に対処している、あるいは対処しようとしています。常に新たな挑戦が待ち構えていたとしても、⼈々は⾃らのニーズと優先事項を中⼼に据えて⾃らの⽣活を管理し、形作りたいという考えを強めています。実際、58%が、⾃分が⽣活の主導権を握っていると感じており、この状況を維持・拡⼤したいと答えています。

在宅勤務の増加により、消費者は自律的に時間の使い方を決められるようになりました。また、生活の他の部分、特にお金の使い方や個人情報の共有について、自身で決定したいと考えています。消費者は支出に対して慎重になっていますが、一方で、価値観やライフスタイルを守るための行動については、大胆になっています。以前の金融危機と比較して、3つの根本的な変化があると考えられます。

1.パンデミックを経験したことで、消費者の順応性が高まった

⼈々は不確実さと変動に慣れてきました。今ではより多くの消費者が、「常に危機意識を持って」⽇常を送っています。⽇々の選択から⻑期的な計画に⾄るまで、⾃らの⽣活様式を劇的に変化させることに慣れてきたのです。そして、⻑年の習慣を捨て、新しい習慣を⾝に付けることに抵抗を感じない傾向が強くなっています。⼈々は、今までは気付いていなかった⾼度のレジリエンス(耐性)を⾃らの中に⾒出しています。

2. デジタルな世界には、消費者にとってより多くの選択肢がある

直近の世界⾦融危機(2008年~2009年)時には、オンラインの世界は驚くほど原始的な空間でした。スマートフォンは初期段階にあり、ブロードバンドは低速でした。今では、消費者が情報を⼊⼿し、代替案を⾒つけ、経験を共有し、協⼒し、相互に学ぶことがはるかに容易になりました。同時に、デジタルな世界はパニックを増幅し、不確実性を⾼め、情報や意⾒で⼈々を圧倒しかねません。

3. 消費者の価値観は根本的に変化

これまでこのIndexは繰り返し、パンデミックの経験が消費者の価値観をどれほど深く変えたかを示してきました。特に、人々は今、サステナブルな生活の実践にはるかに真剣に取り組んでおり、物質的な商品への関心は薄れてきています。私たちの最新のデータから、消費者は家計が厳しい状況でも、新しい価値感を単に捨てるつもりのないことがわかります。むしろ、消費者はそれを新しい形で表現しようとしています。この点について、以下でより詳細に考察します。

生活費に関する懸念
の回答者(世界各地の消費者)が、今後6カ⽉の間に⽣活費が増加すると予想。

これは、ビジネスリーダーにとってどのような意味を持つのでしょうか。
消費財企業は、⾃社の価値観と⾏動が、ターゲットとする消費者層の考え⽅と⼀致していれば成功し、そうでなければ失敗するでしょう。どのブランドを購⼊するか、あるいはプライベートブランドを選択するか、あるいはそもそも購⼊しないのかについて判断する際に、消費者は懸念や重視する事項を判断に反映させたいと考えています。また、製品そのものにとどまらず、ブランドの背後にある組織に⽬を向け、その組織は世界にどのような影響を及ぼし、その影響は⾃らの価値観に沿っているのかを考えるようになってきています。消費者の価値観や⾏動がさまざまな面で急速に変化を続けていることは明らかであり、リーダーはこの状況に適応する必要があります。消費者の多くが購⼊を控えたいと考えている時に、「より多く売る」戦略に、どの程度妥当性があるでしょうか。

本稿の最後に、検討するべき4 つの必須事項を挙げています。ここではまず、今回のIndexから明らかになった重要なトレンドに焦点を当てます。

コストの削減:消費者は代替品を購入しているが、生活を犠牲にしてはいない

現在、最大の消費者セグメントは「値ごろ感優先」であり、全ての消費者が生活費について懸念しています。79%が自身の財務状況に懸念があると回答しています。35%は、生活費以外の支出に回すお金が十分にあるかを心配しています。また、66%が価格に見合う価値を重視しています。

多くの消費者は、普段購⼊している商品を別のブランドに替えたり(33%)、プライベートブランドに切り替えたりしています(21%)。消費者は多くの点において、この2年間の生活に戻りつつあります。在宅勤務をし、⾃宅で過ごす時間を増やし、外⾷をせず、新しい服を買う必要を感じることもなかったため、⽀出を控えることができました。このため、多くのブランドは難しい局⾯に⽴たされています。

  • 49%がプライベートブランドの加工食品の購入を検討
  • 48%がより低価格の代替品を購入
  • 42%が自宅外での娯楽支出が減少すると予想
  • 35%が⾷料雑貨デリバリーの⽀出が減少すると予想

⼀般的に、⼈は家計が厳しい時、限られた領域で⽀出を抑え、⼀⽅で⾃分に「ご褒美」を与えます。しかし今、消費者はあらゆる領域で倹約術を実践しています。化粧品を例に挙げると、インフルエンサーが発信する「デュープ(類似品)」についての情報を中心に、ソーシャルメディア上で活発な交流が⾏われています。「デュープ」とは、⾼級ブランド品の代わりとなる安価な製品で、⾼級ブランド品と同等の効果があり、「お得」だとインフルエンサーが考える製品です。

私たちのデータは、このような⾏動は消費者の節約志向を表しているだけではなく、パンデミックの間に⾝に付けた⾏動が継続されていることも⽰しています。従来はステータスにつながっていたブランドの一部の特性は、もはや消費者の⼼に響かなくなっています。⼈々は⼼の奥底で、もっと「ありのままに」⽣活し、お⾦を使いたいと願っています。より多くの⼈が、買い替えではなく修理して使⽤することを選択しています。また、季節ごとの流⾏への関⼼も下がっています。「値ごろ感優先」のセグメントに属する消費者の79%、そして、より快楽主義的な「体験優先」の消費者の55%が流⾏に無関⼼です。「ありのままの姿」でいる⽅が快適だと考えているのです。

サステナビリティ:消費者は自らの価値感を固持している

多くの消費者は、サステナブルな⽣活と、⼿が届く予算内での⽣活の両⽴は難しいと考えており、サステナブルな商品の価格が⾼過ぎると感じています。しかし、レジリエンスを備えた消費者は、サステナブルな⽣活を求める気持ちを捨てたわけではありません。彼らはより費⽤対効果の⾼い⽅法を模索し、それを達成しようとしています。

多くの消費者が、廃棄物の削減や中古品の購⼊に、今まで以上に熱意を持って取り組んでいると回答しています。消費者は、経済的メリットと環境に対するメリットの双⽅を最適化することにより、⾃⾝の意思に従って⾏動しています。

  • 67%が、価格が⾼いためにサステナブルな製品の購⼊を思いとどまっている
  • 87%がフードロスの削減に努めている
  • 36%が中古品の購⼊を増やす予定でいる
  • 85%が省エネに取り組んでいる
  • 24%が、環境への配慮が⼗分でないブランドの購⼊をやめた(または購⼊を減らした)

今回のIndexは、サステナブルな商品や製品に対する意識が向上していることも⽰しています。サステナブルな商品は品質が低く耐久性がないと考える消費者の割合は減少しています。同様に重要なことは、サステナブルな製品についての製造元情報への信頼が⾼まっていることです。

消費者は、あらゆる情報源からの情報を信頼しているわけではありません。信頼性と透明性が⾼いと感じられる情報や意⾒を求め、⾃分が⽬にするものをフィルタリングし、パーソナライズする⽅法が重要だと考えています。私たちは、サステナビリティに関するこのようなトレンドをより広範囲にわたり⽬にしており、実際消費者の約3分の1が、⾃⾝のカーボンフットプリントや環境への影響につながる要因を追跡するアプリやサービスを利⽤しています。消費者は、購⼊する製品について情報に基づいた意思決定をする意欲を強めており、その決定を裏付ける信頼できる情報源を求めています。

消費財企業も、信頼できる情報源を探しています。彼らは「サステナビリティ・テック」を⽤いて製品を改良しています。多くの企業はすでにサステナビリティ・テック企業と協⼒し、消費者をより理解するための情報やインサイトを⼊⼿しています。このようなパートナーシップは、企業が消費者との関係を深め、サステナブルなイノベーションを推進し、サステナビリティ⽬標を達成する⽀えとなる、新たな消費者インサイトの源泉となっています。

デジタル︓消費者は代替となる体験や製品を重視するようになっている

今回のIndexでは、新興技術やデジタルチャネルに興味のある消費者層が、規模は⼩さいながらも拡⼤していることが明らかになりました。デジタル通貨の使⽤やメタバースの体験、仮想製品の購⼊を実践したことがある消費者は、10⼈に1⼈に上ります。

意外にも、この⽔準は、5年前の電⼦商取引の状況と類似しています。2017年には電⼦商取引は⼩売販売の10%を占めており、その後倍増しました。このような電⼦商取引の普及率は、⼀部の識者にとっては⽬抜き通りでのショッピングの終焉を容易に予測できるものでした。消費財企業も、同様の転換点にあるのでしょうか。

パンデミックを経験したことで、消費者の⽇常⽣活の大部分が「デジタルファースト」になりました。家計をもっとしっかり管理したいと思う消費者は、再びデジタルに⽬を向けています。例えば、デジタルな体験と物理的体験をヘッジし、ライフスタイルを犠牲にすることなく、別のもので代替しています。

新形態のデジタル商品・サービスの導⼊により、企業には新たな機会がもたらされます。ブランド体験の差別化、イノベーションの推進、消費者データの捕捉、デジタルな製品テスト、デジタル製品ラインなどの実現につながる形で、デジタルに投資できるでしょうか。

信頼が極めて重要になるでしょう。データの使⽤と保護に関しては、消費者はデータの共有先について強く懸念しており、データがどのように利⽤され、保護されるかを理解したいと望んでいます。消費者は、パンデミック後の「常に危機意識を持つ」姿勢に「安全優先」という要素を追加しています。


ビジネスにおける4つの必須事項
 

1. オペレーションとポートフォリオを⾒直し、⼿頃な価格を実現する
 

消費者は、望む製品を⼿の届く価格で⼊⼿するために、より安価なものを選ぶ傾向が増しています。企業は、現在のインフレ環境下において、価格設定の改善に向けて製品ポートフォリオをどのように管理して最適化していくかを検討する必要があります。
 

過去のIndexでは、パンデミックによって消費者の間ではプライベートブランドへの切り替えが進んでいることが明らかになりました。これは、⼩売企業がプライベートブランドの販売を拡⼤するチャンスです。しかし、ブランドはまた、調達先や材料・部品を見直し、梱包や荷物サイズなどの代替案を試し、価格に対して効果的に商品を最適化する必要があります。
 

これにはサプライチェーンと製造部⾨のレジリエンスの向上が必要であり、同時にレジリエンスの向上を促すことにもなります。物価と収⼊に関する不安が⻑引くなか、短期的な調整にとどまらない可能性があります。

 

2. 費用対効果の高いソリューションの提供を目指してサステナビリティ戦略をカスタマイズする

消費者は今まで以上に価格に敏感になっていますが、サステナブルな⽣活や買い物に対する意欲をなくしたわけではありません。企業の多くは、サステナブルな製品・サービスを、消費者にとって⾼級な選択肢ではなく、費⽤対効果の⾼い選択肢として提供するために、新たな戦略を採⽤する必要があります。

このような考え⽅の核となる、レンタル、再販、修理など、製品をより⻑く循環させるモデルを検討する必要があります。また、サステナビリティの既存のソリューションの規模を拡⼤し、調達面の費⽤対効果を⾼める必要があります。

例えば、化石燃料の値上がりに起因するエネルギー価格の高騰は、手頃な価格でスケーラブルなグリーンエネルギーを供給する代替エネルギーへの投資拡大を促すかもしれません。つまり、必要に迫られたイノベーションが、製品のサステナブル性を高める機会となるのです。

3. 新たなデジタルの機会に対応するため、エンゲージメント投資を再配分する
 

物理的な世界の優先順位が突如としてデジタルな領域より下がることはないですが、コロナ禍で急速に進んだデジタルの台頭は、今後も継続する可能性が⾼く、その結果、ブランドは、オンラインや、まだ初期段階にあるものの進化し続けるメタバースに、従来とは異なる⽅法で関わることになるでしょう。
 

ブランドは通常、経済が低迷している時期にはマーケティング予算を削減しますが、消費者のブランドロイヤルティが低下するなかで、さらにサプライチェーンからの仲介者排除のリスクに直面しています。これに対し、企業は複数のチャネルを通じて消費者と接点を持ち、新たな可能性を探り、独⾃のブランド提案の鮮明化・明確化に向けた努⼒を倍増させる必要があります。これには、デジタルイノベーションや、物理的な顧客体験とデジタルな顧客体験の双⽅の価値を向上させる消費者データの収集および活⽤が含まれます。
 

しかし、これらの取り組みにおいては、データプライバシーとサイバーセキュリティに関する消費者の懸念を考慮する必要があります。消費者データの保護はもちろん重要であり、さらに、企業は消費者にとって有益な、責任ある⽅法でデータを使⽤していることを⽰すことで、信頼を得ることができます。

4. 消費者の価値観の変化をKPIに反映させる

今回も含め、Indexで⽰されているトレンドは、消費者の価値観がいかに変化しているかを浮き彫りにしています。⾦銭的な⾒返りが動機となる傾向が低下し、富や財よりも、むしろサステナブルな⾏動がステータスとなる傾向が⾼まっています。消費者は時間の使い⽅を⾒直し、場合によっては、したくないことに費やす時間を減らし、したいことに時間をかけたいと考えています。キャリアや給与よりも、柔軟性や⽬的を仕事に求めるようになっています。

企業がこれらの新たな価値感に対応するためには、⾃社の⽬的を再考し、⽬標を達成するためにどのようなKPIを設定すべきかを再検討する必要があります。成⻑、収益性、株価、株主還元などの従来の財務指標に代わり、排出量、多様性、イノベーションなどの⾮財務指標が重視され始めています。企業は、顧客である消費者および従業員との関係に照らしてこれらの指標を検討評価し、⾮財務的な価値を企業⽂化に根付かせる、新たなKPIを策定しなければなりません。

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    サマリー

    家計が厳しい時、⼈は⽀出を減らそうとします。企業も同様に考えるかもしれません。これは⾃然な反応であると同時に、多くの場合、唯⼀の対応策です。しかし、パンデミックを経験したことで、多くの消費者の危機への対処⽅法が変わりました。その価値観は変化しており、⾃分が⼈⽣の主導権を握っているという感覚を保ち、⾃らの意思に従って⽣きることを求めるようになっています。不要なものを買うことに対する関⼼が薄れ、サステナブルな⾏動に対する関⼼が⾼まっています。つまり、企業にとっては、顧客と同じ⽅向を向こうとするならば、今までとは異なる選択をすべきだということを意味します。


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