EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
目まぐるしく変化し続ける消費者のニーズに応えるために、消費財メーカーにはより柔軟な組織、オペレーティングモデルが求められています。過去20年で、日本の消費財メーカーの海外進出は大きく進展しました。グローバル市場での競争を勝ち抜くためには、各地域、国で異なる消費者ニーズへの対応も必要です。全てを自前のリソースで対応するのではなく、時にはライバルとも手を携えることも含めた社外リソースの有効活用を可能とする柔軟なオペレーティングモデルの構築が急務です。また、デジタルとデータの活用も、欧米の多国籍企業に比べ後れが感じられます。一方で、グローバル消費財市場における日本製品の信頼度は高く、国際競争における日本の消費財メーカーの強みです。この強みを活かす“パーパス”の下での柔軟なオペレーティングモデルの確立が必要です。組織の迅速な変革に向けてCEOの責任は重大です。
グローバルな消費財メーカーの最⾼経営責任者(CEO)が現在直⾯している最⼤の課題は、いかに組織の迅速な変⾰を続け、変化し続ける消費者の常に⼀歩先を⾏くかです。消費者の変化に対応していくためには、複数のビジネスモデル、戦略、計画案を迅速に実⾏していく必要があります。とはいえ、新しい取り組みが必要となるたびに異なるオペレーティングモデルを構築することはできません。それだけの時間はないでしょうし、多⼤なコストもかかるはずです。そこで必要となるのが、より機敏でレジリエンスに優れ、迅速に対応できる新たな業務の進め⽅を構築することです。
多くの組織が、そうしたオペレーティングモデルの構築に苦労していることが、MIT SMR Connectionsの委託を受けてEYがまとめた新たなレポートから分かりました。世界各国の経営幹部を対象とした調査の結果と、CEOや業界調査担当者に取材した結果をまとめたこのレポートでは、消費者のニーズの変化に合わせて業務運営体制を変革する中で組織が直面している課題を掘り下げています。未来に向けた体制づくりでは変革が不可欠だと経営幹部の86%が回答する一方、リーダーが適切な対策を講じて組織のかじ取りをしているかどうかは非常に不透明であることが今回の調査で明らかになりました。
CEOが直面する喫緊の課題(CEO Imperative)シリーズ第7号では、まったく新しい状況において組織の未来を創る上で、重要な課題と対応策について考察しています。ここでは、変革を順調に進めていく上で一助となる5つの設計の原則と、CEOがとるべき対応策を紹介します。調査結果について詳しくは、これらをまとめたレポートをご覧ください。
急速に変化しているのは、消費者が望む商品、サービス、体験だけではありません。消費者の価値観も急激に変わっています。テクノロジーは、消費者側からすると、新たな商品の選び⽅、購⼊の仕⽅、商品との関わり⽅を絶えず実現してくれる存在である⼀⽅、企業側からすると、⾃社が提⽰できる価値提案と、それを実現するための体制の整え⽅を再定義する存在です。
消費者の期待が「健康に良い商品を買えるようにしてほしい」から、「健康的な⽣活を送るサポートをしてほしい」に変化する今、パートナーが連携してそれを実現させるエコシステムが必要となってきました。このように多⾯的な関係を維持することが求められているため、昔ながらの業務の進め⽅や、それにこだわり続ける企業は取り残される恐れがあります。
どのような新しい⽅法で商品やサービス、体験の設計、開発、マーケティング、パッケージを⾏い、これらを組み合わせて届けるか。その選択肢は増えています。データと解析を中⼼とした新たなテクノロジーケイパビリティにより、かつてないほど消費者に近づくことができるようになりました。それだけではありません。原材料の調達から企業と消費者を結ぶ統合型オムニチャネルネットワークまで、サプライチェーン全体のすべてのステークホルダーやエコシステムのパートナーとの距離を縮めることも可能になっています。
変革に向けた心構えを醸成し、新たな現実に対応した経営幹部の優先課題を決定することがCEOに求められます。世界的なパンデミック、経済的不確実性、技術革新などの要因により、消費者の生活のあらゆる面が大きく変化しました。今後も消費者のニーズや期待、行動は変化し続けるでしょう。
こうした変化が企業にもたらす課題と機会は元来、全体に関わるものであり、すべての業務に影響を及ぼします。しかし、オペレーティングモデルの変革は多くの場合、全体的なものではありません。システム全体ではなく特定の事業部門を主な対象としており、最終目標に向かい、一本道のロードマップに沿って一歩一歩着実に進んでいくものです。今の時代からすると、これでは対象が狭すぎ、柔軟性に乏しすぎます。かつての世界を想定した変革の取り組みはおそらく頓挫するか、完全に失敗するでしょう。
未来を担うのは、機敏でレジリエンスに優れ、迅速に対応できる企業です。以下に紹介する5つの設計要素を取り⼊れることで、こうした重要な特性を組み⼊れることができます。箇条書きにしていますが、いずれの要素も相互に結びついています。1つか2つの要素で成果をあげることは、それはそれで素晴らしいものの、⼗分とは⾔えません。すべてをやり遂げる必要があります。また、取り組みを進める中で、消費者、従業員、エコシステムのすべてのパートナーとの信頼関係を構築し、維持することも求められます。
自らの組織を、消費者、顧客、サプライヤー、パートナー、データ調査会社、スタートアップ、そして場合によっては競合他社さえも取り込むダイナミックかつ柔軟なコネクテッドエコシステムの一部にしましょう。このエコシステムでは全員が価値の創造に参加します。そうすることで、全員が応分のメリットを得られるはずです。
消費者の声に耳を傾け、データと解析結果に基づき、適時に的確な意思決定を下すことのできる組織を作りましょう。デジタルネットワークとそのデータフローはいわば結合組織と神経系であり、エコシステムという「身体」を動かすことができるのです。多くの企業が解析を重視していますが、それだけでは十分でありません。
テクノロジートランスフォーメーションやデータトランスフォーメーションなど主要分野の高度なスキルを備えた人材を育成しましょう。それに加え、新しい形で協力し合う上で必要な考え方とケイパビリティを持つ、優秀なゼネラリストが各事業部門に必要です。最新のテクノロジーと新しい業務の進め方を取り入れることで、変化に対応できる人材と企業文化を育むことができます。
イノベーションの取り組みに全員を巻き込みましょう。最前線で働き、消費者やエコシステムのパートナーと⽇々接する⼈たちは、アイデアの宝庫であることが少なくありません。しかし、こうしたアイデアが吸い上げられない、あるいは硬直したプロセスが障害となって⽀持を得られないことが多いのも事実です。イノベーションを順調に進めることができるのは、有効なアイデアを吸い上げ、迅速に発展させ膨らませる企業文化やテクノロジー、プロセスを是とする企業です。
⾃らと従業員の⽇々のあらゆる⾏動に組織のパーパス(存在意義)を浸透させましょう。パーパスにより、価値提案の内容、エコシステムでの役割、⼈材の呼び込み⽅とつなぎ⽌め⽅、パートナーシップを組む相⼿、どのような消費者に商品やサービスを提供するかが変わってくるはずです。必ずしも業務運営に不可⽋な役割を担っているわけではありませんが、サステナビリティとパーパスは、価値創造を推進するドライバーです。
将来に備えて業務運営に柔軟性を持たせてくれるオペレーティングモデルを実行するにあたり、不可欠な対応策が主に3つあります。
変革に向けてすでに動き出しているところかもしれませんが、組織全体がついて来ているでしょうか。伝統的な慣行に疑問を呈し、行動を起こすきっかけを作ることもCEOの仕事です。ところが本調査によると、リーダーの63%は、企業文化が抵抗を生む土壌になるとみていました。また、変革ロードマップを取りまとめられないことも障壁を生む要因となる恐れがあるとの回答が55%に上っています。
今回の調査で取材したCEOの一人が述べていたように、「(変革を成功させるには)組織構造とリーダーシップを、独創性を育み、従来の企業のマインドセットで物事を考えないよう従業員を促すものに変える必要があるでしょう」
今回の調査の対象となったリーダーは、企業⽬標の達成に必要なケイパビリティの構築に取り組んでおり、⾮常に野⼼的な期限を設けていました。例えば、61%が2年以内に柔軟性のある⼈材プールを構築することが極めて重要だと回答しています。しかし、EYのレポートにも登場している教授は次のように述べています。「これまでにケーススタディにまとめたどのオペレーショナルイノベーションも、全員を参画させ、インセンティブをイノベーションに沿ったものにし、賛同を得るだけで3年から7年の歳⽉を要しました」
社会は急激に変化しており、強みとみなされている分野にも変革が求められます。今回の調査では、オペレーティングモデルの変⾰に必要な最新のテクノロジーと解析能⼒があると回答したリーダーが77%に上りました。その⼀⽅で、70%がテクノロジーインフラを改修する必要があり、それが変⾰の⼤きな障壁になっていると回答しています。このように回答は⽭盾しており、現在必要なものを備えることと、将来必要となるものを備えることのギャップが浮き彫りとなりました。だからこそ、変⾰計画を策定し、実⾏する必要があるのです。
エコシステムを基本とする考え⽅を取り⼊れることは、この問題への有効な対応策となります。変⾰⽬標の達成に不可⽋なケイパビリティを補完し、場合によってはそのケイパビリティに取って代わることができます。それにより、⾼い価値を創造できる分野に能⼒を集中させることができるはずです。取材対象となったリーダーの間からは、消費財メーカーは事業の各領域にエコシステムを分散させる必要があると指摘する声が聞かれました。
Clayton Christensen教授が『イノベーションのジレンマ(原書名︓Innovator's Dilemma)』を出したのは25年前のことです。この現代の古典とも⾔える名著は、ディスラプションに直⾯したとき、現状のまま事業を運営しながら、今後あるべき姿へと事業をどのように変えていくかという問いを投げかけました。これは、CEOが何⼗年にもわたり取り組んできた課題でもあります。
しかし、それ単体で今後の⽬標を達成できるビジネスモデルはありません。1つの中核的なオペレーティングモデルからさまざまな戦略、モデル、計画案を派⽣させていくことが求められます。すなわち、双方向性から多方向性へ移⾏する必要があるということです。
それでは、現在の業務運営で⼿いっぱいの今、未来に⼒を⼊れるにはどうすればよいのでしょうか。その答えは、「現在と未来のどちらをとるか」という思考からの脱却です。現在創造している価値は未来の変⾰の資⾦を⽣み出しますが、未来の変⾰への投資もまた、現在の価値の創造に役⽴ちます。今は、このような好循環を⽣み出すチャンスです。
未来に適合した「フューチャーフィット」な組織になることが不可⽋であることは⾔うまでもありませんが、これは明確なゴールのない競争のようなものです。流動的な市場環境の動向を予測し、それに合わせて事業上の優先事項と事業戦略を常に変えていかなければなりません。
上述の5つの要素を中⼼に据えて変⾰を進めた組織は、そうでない組織に⽐べ、市場メカニズムの変化に対し常に⼀歩先を⾏く体制をはるかに整えやすくなるはずです。消費者ともより良好な関係を築き、それが信頼の上に成り⽴つ⻑期的な関係の構築へと道を切り開くでしょう。パートナーとの協業でも有利な⽴場に⽴ち、また、はるかに機敏に動ける組織になるはずです。そうすれば、複数の新たなビジネスモデルを導⼊しやすくなり、商品を迅速に市場に投⼊できるようになります。結果的に、オペレーティングコストの削減、業績向上、⻑期的な成⻑の推進が可能となるのです。
EY、消費財メーカーのオペレーティングモデル改革をサポートするソリューション「Operating Model Transformation」の提供開始
EYは、消費財メーカーのオペレーティングモデルの改革をサポートするソリューション「Operating Model Transformation」を提供開始したことを発表しました。本ソリューションは、「ダイナミック・エコシステム」、「デジタルDNA」、「人材の柔軟性」、「イノベーション・プラットフォーム」および「永続性のあるパーパス」の5つの要素にもとづいて各企業が変革のプロセスの中で、現在どの段階にいるか、どの段階に進むべきかを評価するものです。
消費財メーカーは変⾰に取り組んでいるため、消費者のニーズの変化により良く対応できています。しかし、EYが委託を受けて実施した国際的な調査の結果から、消費財メーカーが適切な対策を講じているのか不透明であることが明らかになりました。5つの設計の原則を守ることは、CEOが変⾰を順調に進めていく⼀助となるはずです。