DX改革を成功に導く鍵とは:変革を牽引するリーダーの「変革への思い」

DX改革を成功に導く鍵とは:変革を牽引するリーダーの「変革への思い」


【2023年12月8日開催】JSUG Conference 2023

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 外部顧問 鈴鹿 靖史氏(前JSUG会長)が、荏原製作所 執行役 情報通信統括部長兼CIO 小和瀬 浩之氏、JALカード 代表取締役社長 西畑 智博氏の2名に『変革を牽引するリーダーの「変革への思い」』と題し、ビジネス変革に必要なキーポイントについてお話を伺いました。


要点

  • 荏原製作所 執行役 情報通信統括部長兼CIOの小和瀬浩之氏とJALカード代表取締役社長の西畑智博氏が、DXを推進するポイントについて語った。
  • 日本企業がグローバルで生き残るためには、グローバルでプロセスやデータを標準化し、グローバル一体経営へ移行する必要があり、その基盤としてSAPの導入が必須。
  • SAPに限らず、パッケージソフト導入には共通の成功の鍵がある。
  • DXは事業戦略そのものであるため、経営トップの介入とコミットメントが不可欠。


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SAP導入は、グローバルで生き残るための大切な手段

日本企業は、海外マーケットでシェアを伸ばせず利益を生み出すのに苦戦しています。国内では会社が持つ総合力で戦えているとしても、グローバル市場では他国との競争に勝てない状況です。その原因は、マネジメント力不足にあるとも言われています。

花王、リクシル、荏原製作所と、一貫してSAP導入プロジェクトを牽引してきた小和瀬氏は、この課題を解決するためには、インターナショナル経営からグローバル経営へと移行し、一体的に運営できるような経営スタイルにすることが不可欠だと強調します。

荏原製作所 執行役 情報通信 統括部長兼CIO 小和瀬 浩之氏

荏原製作所 執行役 情報通信統括部長兼CIO 小和瀬 浩之氏

小和瀬氏:国内外それぞれの拠点でばらつきのあるオペレーションをしていると、効率的なマネジメントはできません。一体的なグローバル経営を実現するためには業務の標準化を行う必要があります。そのベースとしてSAP導入は肝となるでしょう。

つまり、SAPの導入は手段で、やりたいことは経営改革です。“ヒトの力”に依存した従来の経営からグローバル経営に移行するためには、グローバルでプロセスやデータを統一する必要があるのです。


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JAL史上、最大規模のプロジェクト。その成功ポイントとは

JALカード代表取締役社長の西畑氏は、JALが2017年まで50年以上も利用していたシステム改革に取り組みました。予約・発券システムはJALの中核でありながら、古い技術で構築されていたため、技術者の確保や新技術の導入が困難な状況でした。

この問題を解決するため、「SAKURAプロジェクト」というJAL史上最大のプロジェクトが始動。国際線と国内線の旅客システムを同時に刷新し、全データをグローバル標準に変換するプロジェクトで、800億円の投資が行われました。

予約記録と発券データを中心とした1,300万件ものデータを、世界150社のエアラインが利用するシステム「Amadeus」に移行。西畑氏は、プロジェクト後半の2014年4月からこのプロジェクトを牽引し、2017年にカットオーバーを実現しました。


JALカード 代表取締役社長 西畑 智博氏

JALカード 代表取締役社長 西畑 智博氏

西畑氏:プロジェクトの成功には、2つのキーポイントがありました。“プロジェクトマーケティング” と “プロアクティブマネジメント” です。

“プロジェクトマーケティング” では、ITや特定の部署だけではなく全社を巻き込み、変化に備えて1年前から世界中で教育活動を行いました。具体的には、プロジェクトを浸透させるために「SAKURAプロジェクト」というロゴやTシャツを作ったり、私自身が世界中をまわりさまざまな疑問に答えたりするなど、自ら積極的に関わっていきました。

“プロアクティブマネジメント”は、予約からマイレージ登録までの全プロセスを緻密に管理し、全体を見渡し、全プロセスを効率的に遂行するための手法です。

トップダウンで関係者多数という状況下でアジャイル開発を進め、3カ月ごとにプログラムをテストし、最終的に統合を行いました。多くの人財を投入し、人財本部の役員やビジネス部門、現場が一体となって取り組み、サービスプロバイダーとも強固な信頼関係を築けました。全員が一体となり協力する「One boat」が、1つのキーワードでしたね。

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DX成功の分かれ目は、“社長”が主導できるか否か

DXの取り組みに悩む企業は少なくありません。DXを推進しているにもかかわらず、経営自体は以前と全く変わっていないという企業もあります。DXで経営変革へと導きたいリーダーは、どのように関わっていけば良いのでしょうか。

小和瀬氏:私は、"DX"は本来"dX"と表現されるべきだと思っています。"d"は手段を指し、"X"が目的です。実際の取り組みはトランスフォーメーションであり、その実現においてデジタル活用が手段としてあるということです。

外部に向けた「攻めのDX」はまさに事業戦略そのものになるため、事業責任者であるリーダー、社長がどう考えるかは非常に重要です。「何をやるか」「どのくらいコストをかけるか」「結果責任はどうするか」といった点も、全て事業部主導でやるべきですし、責任を取るべきだと考えています。

社長が責任を持って主導し、R&D、IT、データサイエンスといった専門部署は、そのための要素技術を提供するのに特化する。このやり方で、弊社はDXで相当な成果が出ています。


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これからの課題は、"X"人財を育てること

西畑氏は、DXを「下半身(基幹システムやAPIなど)」・「上半身(Web、SNSなど)」・「頭脳(データドリブンやAIなど)」の3つの領域に分けて説明しました。「下半身」がしっかりしていないと「上半身」の機能がうまく動作しません。最近は新しいテクノロジーである「頭脳」の重要性も増し、これら3つの領域をパラレルにどのようにプライオリティを置くのかによって、必要な人財も変わると指摘します。

西畑氏:私も小和瀬さんと同じで、"DX"を"dX"と捉えています。会社やビジネスの変革という点では、他社や他業界の知識を学び、失敗を通じて"X"の力をつけていくことが非常に重要だと考えています。

中でも「失敗を容認する」ことを会社の文化として根付かせることが、今後ますます重要になるでしょう。これからの課題は"X"人財を育てること。今、弊社でも試行錯誤しながら運動を進めています。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 外部顧問 鈴鹿 靖史氏

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 外部顧問 鈴鹿 靖史氏


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DXに取り組む企業へのアドバイス

最後に、DXを推進する企業に向けて、両氏にアドバイスをいただきました。

小和瀬氏:DXを推進するためには、絶対的に社長の関与が必要です。今、DXで成功しているのは、社長が率先して取り組んでいる企業だけです。弊社のSAPプロジェクトでは、社長自らが毎月のミーティングに出席しています。

また、SAP導入には業務レベルの向上が必要で、属人化したままや業務レベルが低いままではうまくいきません。そのカルチャーや状況を変えることができるのは、社長です。「社長をその気にさせる」ことが、DXでビジネス変革を実現するためには不可欠だと思います。

西畑氏:小和瀬さんのおっしゃる通りで、重要なのは、WILL(意志)を持った人が引っ張ることだと思います。私自身も会社の代表として、その考えをチームに広めることを課題としています。

私は、改革のために「イノベーション・15のキーワード」を書き留めています。いくつかご紹介しましょう。

・手段は1つではない『3つの道・パターンA, B, C』

かつては1つの手段しかないと思い、それに固執して失敗したことがありますが、よく考えてみると、3つ以上は道があることに気付きました。変革で結果を出すには、このような柔軟性が必要だと感じています。

・交通整理力

プロジェクト体制を整える前に、重要な要素を整理する必要があります。小和瀬さんのおっしゃる「社長をおさえる」もその1つですね。

・現場・ミドル・経営層の3つの階層を同じにする『ベクトル力』

3つの階層を同じ方向に向かわせることは難しい課題ながら重要で、私自身も痛感しています。

・意識改革は『オセロ力』

真っ黒のオセロをイメージして、どう白に変えていくかを考えます。誰の意識を変えるとどんどん白に変わっていくか。ただ、ここでのポイントは、全てを真っ白にするつもりはないということです。

・味方を作るより敵を作らない。手柄は相手に譲る『広い心』

明確な敵がいると疲れますから、これも心に留めておきたいキーワードです。

最後に、私がビジネスで大切にしている言葉は「信頼と感謝“Trust & Appreciation”」、です。そして先ほど話したWILLに通じるのですが、「心のエネルギー」が大事です。

お金よりも、どれだけ心にエネルギーが満ちあふれる人々が存在し、一人一人がリーダーシップを発揮しているか。そこに、これからの世の中を変える力があると考えています。


サマリー

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 外部顧問 鈴鹿 靖史氏が、荏原製作所 執行役 情報通信 統括部長兼CIO 小和瀬 浩之氏、JALカード 代表取締役社長 西畑 智博氏の2名に『変革を牽引するリーダーの「変革への思い」』と題し、ビジネス変革に必要なキーポイントについてお話を伺いました。


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