EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
2022年11月7日に、金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案(以下、改正案)が公表されました。本稿ではサステナビリティ関連の業務に携わる方々を想定し、改正案の概要(Ⅰ~Ⅲ)および実務上の留意事項(Ⅳ)についてご説明します。
なお、意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめご承知おきください。
サステナビリティ全般に関する開示について、改正案では以下の内容が提案されています。(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式記載上の注記(30-2)、企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)5-16-4ほか)
人的資本、多様性に関する開示については、改正案では以下の内容が提案されています。(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式記載上の注記(30-2)、企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)5-16-3ほか)
本年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下「WG報告」)で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて「記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について-」(以下、記述情報開示原則)において、サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組みがまとめられました。主な内容は、以下の通りです。
改正後の規定は公布の日から施行する予定とされており、令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定とされています。
コーポレートガバナンス・コードとの比較
サステナビリティに関して、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードと改正案を比較すると、コーポレートガバナンス・コードは東証プライム市場企業だけが対象でありコンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)方式でより柔軟性があるのに対し、改正案は全ての有価証券報告書提出会社が対象であり、必須記載項目がある点で相違があります。
気候関連財務情報の開示フレームワークであるTCFD(Task Force on Climate related Financial Disclosures)提言との関係
内閣官房から公表された「人的資本可視化指針(案)」によれば、図に示した通り、TCFD提言同様4つの要素に沿った開示を検討することが期待されています。
出所:内閣官房「人的資本可視化指針(案)」(2022年11月15日アクセス)
ただし、その前提として“自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略との関係性(統合的なストーリー)を描き出しながら、独自性と比較可能性のバランス、価値向上とリスクマネジメントの観点などを検討”することが重要であり、形式的な開示対応とならないよう留意することが必要と考えられます。
WG報告 「1. サステナビリティ全般に関する開示(3)サステナビリティ開示に関する留意事項」では、以下のように記載されています。
“有価証券報告書の「記載欄」に核となる情報を記載せずに、ほとんどの情報を任意開示書類の参照とするといったことが行われると、有価証券報告書に記載欄を設けた趣旨が没却されてしまうため、当局において、適切なエンフォースメントを行うことが重要との意見もあった。”
この記載を踏まえると、サステナビリティ情報を有価証券報告書に何も書かないということは想定されていない、と考えられます。特に、任意開示書類や自社ウェブサイトにおいてサステナビリティへの取り組みが重要と開示している企業においては、有価証券報告書についても一定程度の記載をすることが投資家から期待されていると考えられます。
どの程度記載するのが望ましいか、先進企業ではどのような開示をしているかについては、金融庁から公表されている「記述情報の開示の好事例集2021」が参考になります。気候変動関連の実際の開示例として、以下の項目を有価証券報告書の【事業等のリスク】に記載している企業があります。これらの項目は同事例集に記載されている「投資家・アナリストが期待する主な開示のポイント」に適合したものと考えられます。
サステナビリティ情報の開示における重要性の判断について、ISSBのサステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項の「重要性」の判断における考慮事項の一例がWG報告で示されています。
サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項の「重要性」の判断における考慮事項
従って、各企業において重要性を検討したプロセスや、その結果識別されたリスクと機会が、企業および社会に及ぼす影響をどう認識しているのかを開示することと、識別されたリスクと機会に対応する指標と目標を開示することは、投資家にとって有用な情報と考えられます。
記述情報開示原則において、「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきとされています。
この点、WG報告において “多様性に関する指標については、企業負担等の観点から、他の法律の定義や枠組みに従ったものとすることに留意すべきである。” とした上で “最低限、提出会社及びその連結会社において、女性活躍推進法、育児・介護休業法に基づく公表を行っている企業は有価証券報告書においても開示することとすべきである。” とありますが、連結ベースの開示が何を想定しているのか不明確なため、本項目についてパブリックコメントで質問がなされた場合、金融庁の回答を確認する必要があります。海外子会社の情報も含めて開示する場合には、国や地域によっては人事情報の秘匿性が高くデータの取り扱いに慎重を期するため、早期に関係部署と連携をとることが必要と考えられます。
有価証券報告書等の虚偽記載について、金融商品取引法において罰則が規定されています。この点、改正案では以下の内容が提案されています。
“サステナビリティ情報をはじめとした将来情報の記載について、将来情報に関する経営者の認識及びその前提となる事実や仮定等について合理的な記載がされる場合や、将来情報について社内で適切な検討を経た上で、その旨が、検討された事実や仮定等とともに記載されている場合には、記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載の責任を負うものではないことを明確にすることとします。”
将来情報と実際の結果が異なる場合の程度については明確に示されていませんが、定量情報・定性情報をもって合理的に説明でき得る限りにおいては許容されるものと考えられます。
改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等は、2023年3月31日に決算を迎える会社から適用となります。このため、上記の改正内容を反映した有価証券報告書を、3月決算会社は金融商品取引法第24条第1項に基づき事業年度経過後3カ月以内、すなわち6月末までに提出する必要があります。タイトなスケジュールとなることが予想されることから、有価証券報告書の作成部署はサステナビリティ推進部署や人事部等の関連部署と密にコミュニケーションを図り、有価証券報告書の開示内容について早期かつ計画的に取り組むことが望まれます。
【共同執筆者】
羽石 康人
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 マネージャー
GHG排出量、産業廃棄物排出量、社会性項目に関する第三者保証、TCFD開示アドバイザリーを中心とする業務に従事。その他、SBT、ESG評価向上、統合報告書作成等のアドバイザリーならびに非財務情報開示の海外動向などに関する調査にも携わる。
10年以上にわたり、上場会社、非上場会社、地域金融機関、ファンドなどの財務諸表監査、IPO支援、内部統制支援に従事。公認会計士。
※所属・役職は記事公開当時のものです。