EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
本イベントでは、各企業よりインパクトに関する取り組みのプレゼンテーションを頂いた後、パネルディスカッションにて、課題や今後の展望について議論を行いました。
最初のテーマとして、資本市場より直接的に評価を受ける上場企業として、社会的インパクトを企業価値にどう結び付けるのか、について議論を行いました。
エーザイの佐々木氏は、アルツハイマー薬の売り上げなど財務的な要素が株価に大きく影響するものの、昨今は社会的インパクトの評価も重要になってきており、投資家との対話においては 、リンパ系フィラリア症治療薬の 無償提供のリターンの考え方 やインパクト算出 の第三者評価についても聞かれる、と語りました。
住友金属鉱山の矢野氏は、PBR1倍超という一つの目標があり、歴史ある日本企業が「当たり前のこと」として社会課題解決に取り組んでいることを見える化、つまりインパクト可視化することで、 価値創造ストーリーを投資家に伝えることが重要、と述べました。
丸井グループの塩田氏は、インパクトの取り組みが新しい海外投資家との対話のきっかけになった、と述べました。
三井住友フィナンシャルグループの髙梨氏は、インパクトの取り組みが利益向上につながると述べ、例えば環境分野でのファイナンスはビジネスそのものになっている、とかたりました。
(右から)
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO 髙梨 雅之 氏
株式会社丸井グループ 執行役員 サステナビリティ部長 兼 ESG推進部長 塩田 裕子 氏
住友金属鉱山株式会社 執行役員 サステナビリティ推進部長 矢野 三保子 氏
エーザイ株式会社 執行役 サステナビリティ 兼 コーポレートコミュニケーション担当 佐々木 小夜子 氏
モデレーター・EY wavespace™ Tokyo リーダー ディレクター 天野 洋介
続いて、社会的インパクトの創出・可視化・開示の取り組みの中で経験した課題や苦労について議論を行い、特にデータ収集や可視化、ならびに社内の巻き込みについての課題認識について言及いただきました。
前者については、透明性の高い方法での開示が重要ではあるものの、インパクトの計測に必要なデータの収集と、そのデータを用いたアウトカムやインパクトの算出が難しい、とのご意見がありました。一方、そのようなデータ収集の負担が現場にあるものの、その意義について理解を得ることで現場のインパクト取り組みのモチベーション向上にもつながる、とのご意見も頂きました。
後者の社内巻き込みについては、社内の意識醸成が重要であり、事業領域や地域ごと進度に差があることや、伝統的な日本企業ではWell-beingの考えが完全に浸透されているわけではないこと等を勘案し、柔軟に対応する必要がある、とのご意見を頂きました。また、社内の巻き込みに苦戦するコメントがあった一方で、塩田氏からは、 手上げの企業文化を醸成し、サステナビリティ部署に限らず全社員が「好き」なテーマでのインパクト取り組みを進めることで、社員の高いモチベーションと共感を維持できる、とのコメントも頂きました。
最後のテーマとして、各社の今後の展望についてご意見を頂きました。
まずは、社内の巻き込みについて、矢野氏より社会的インパクトは成果が出るまで時間がかかることから、この点は回収期間の長いプロジェクトになぞらえて意識醸成を行うとともに、その根幹となる人的資本についてデータ収集システムを構築しながら計測を進めるといった対応についてご紹介いただきました。
また、髙梨氏からは、金融機関として社会全体のステークホルダーとの接点になっている特徴を生かし、まずは自社のインパクトの取り組みを可視化し開示した上で、この考え方を社会全体に波及させる役割を果たすとともに、インパクトという「新しい物差し」を使って社会に貢献したい お金の出し手から、社会課題解決に取り組む/社会的インパクトを創出する 人に流れるようにしたい、とのご意見もいただきました。
さらに、これらインパクトの取り組みは個社で完遂できるものではないことから、業界全体で“社会的インパクト”を考えること、または、機関投資家も含めたステークホルダーで対話を進め、仲間を作りながら社会課題を解決することが重要、とのご意見も頂き、パネルディスカッションを終えました。
その後のQ&Aセッションでは、機関投資家から受けたインサイトについて問われ、日本企業は概してSDGsを全て追い求めすぎるが、本来的には自社が本当に解決したいもの、強みを持つものに集中してメッセージを出していくことが重要、との回答を頂きました。また、インパクト測定の社内人材の育成に関するご質問に対しては、佐々木氏より、そもそも自社製品については価値ベースでのプライシングが重要になることから、従来より製品価値を根元から考える人材を育成している点に加え、外部の専門家やアドバイザーも適宜活用している、とコメントをいただきました。最後に、企業が社会的インパクトの可視化のためにロジックモデルを構築することはビジネスモデルや成長戦略を可視化することに近しいため、ロジックモデルの構築の過程で成長戦略自体を見直すことがあるのではないか、という問いかけを頂きました。これに対しては、塩田氏より、当初はサステナビリティを直接的に目指すアプローチで考えたものの、行動変容や意識変化を考慮し、社員の「好き」を原動力に、間接的にインパクトを目指すアプローチに切り替えた、とのご返答を頂きました。
最後に、EYより、イベントの総括をした後、社会的インパクトに関するイニシアチブや官公庁における最近の動向のご紹介を行い、イベントがクローズしました。
社会的インパクトの取り組みがステークホルダー全体に広く敷衍(ふえん)するためには、産官学金の発意や連携が不可欠です。EYは、このようなイベントでの情報共有やネットワーキングのみならず、クライアントの社会的インパクトの創出・可視化・開示のご支援を通じ、エコシステムの形成に貢献していきます。
本イベントでは、社会的インパクトの創出・可視化・開示に先進的な上場企業4社による討議を実施。社会的インパクトと企業価値の関係性について言及された後、課題として関連データや社内の巻き込みが挙げられました。また、今後の展望としてデータインフラの整備やステークホルダーの巻き込みについて言及されました。
SMBCグループの「社会的価値の創造」を実現させるインパクトの可視化とは?
事例記事:SMBCグループの経営戦略における「社会的価値の創造」に向けたインパクト可視化の取り組みを、EYが支援した事例をご紹介します。
環境・社会の持続可能性の重要度が高まるにつれ、企業経営の意思決定において財務的価値のみならず、環境・社会的価値を含む非財務的価値も、新たな判断基軸とすることが求められ始めています。この環境・社会的価値の物差しとして、「インパクト」の測定・評価を行う取り組みが進んでいます。