モビリティ(海外赴任)コラム:定額減税と海外赴任者

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EY 税理士法人

日本から海外へ赴任する社員の税金負担の考え方は、大きく3つあります。

①    グロス支給:グロス金額が支給され、発生する税金は全額赴任者の負担となる方式
②    ネット支給:赴任者は本国でのみなし税相当を負担し、本国での手取り額を保証する方式
③    TEQ:No Loss, No Gainとなるように、本国でのみなし税および実際に発生する税金と、その負担について厳密に計算・精算する方式

日系企業では②ネット支給を採用されるケースが多く、年末にみなし税の再計算をしない企業が多くあります。その場合、年末に再計算をする必要がない、という点で実務が楽というメリットがある一方、期中で何かしらの変更(家族数の変化、賞与額の変動等)があった場合に、公平性が維持できなくなるというデメリットもあります。赴任者に不利益がないように、みなし税をやや少なめに設定している企業も散見されます。

日本では、令和6年度税制改正により、2024年(令和6年)6月より定額減税による源泉所得税、および住民税の徴収の手続きが始まります1。情報に敏感な海外赴任者から、自分たちのみなし税はどうなるのか、という問い合わせを受けていることもあるのではないでしょうか。No Loss, No Gainにすべきという考え方もある一方で、会社のコストが増えるため、すぐに対応できるというわけにはいかないかもしれません。ただ、昨今の世界的なインフレや為替変動もある中で、なかなか赴任者を納得させられないという企業もあるようで、これを機にTEQを検討する企業も出始めています。

TEQは、導入時のポリシー策定、関係者への周知や精算手続き等でコストも工数もかかりますが、赴任者の税負担の公平性、明瞭性の担保が可能となり、従業員・会社の両方にとって公平な対応が可能となります。グローバル企業では一般的に採用されている手法であり、日本でも年々採用する企業が増えています。TEQのハードルは高いと感じられる企業も多いようですが、例えば、赴任年と帰任年のみTEQを行う、今回のように大きな変更(税制改正等)があった場合に行う、というように部分的にTEQを実施するということも可能です。それも難しい場合、ネット支給の方針は維持しながら、年末に「疑似年調」を実施し、精算を行うという方法もあります。もちろん、定額減税については特に対応しない、という考え方もあるかと思います。その場合でも、会社としての税負担の考え方を明確にしておく必要があるかと思います。

海外赴任者の税負担ルールは大きく3つある、と冒頭で書きましたが、それ以外でも柔軟な対応は可能です。定額減税を機に、一度税負担ルールについて整理・検討してみませんか。

<定額減税の概要>
令和6年度税制改正により、2024年(令和6年)6月より定額減税による源泉所得税、および住民税の徴収の手続きが始まります1

対象となるのは、2024年分の所得税に係る合計所得金額が1805万円以下2の国内居住者で、1人当たり所得税から3万円、住民税から1万円の計4万円がそれぞれ特別控除されます3

巻末注

  1. 住民税の特別徴収の場合は7月分より実施
  2. 給与収入のみの場合は、給与収入2,000万円以下であり、所得金額調整控除の適用を受ける場合は2,015万円以下
  3. 合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下)の国内居住者の同一生計配偶者や扶養親族等がいる場合には、該当人数分について、同額が控除額に加算

お問い合わせ先

email EY税理士法人

川井 久美子 パートナー

羽山 明子 ディレクター

坂原 悠樹 マネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです

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