EU加盟国が国別報告書の開示指令を採択

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Japan tax alert 2021年10月6日号

エグゼクティブサマリー


欧州連合(EU)理事会(すなわち、EU加盟国)は2021年9月28日、国別報告書(CbCR)の開示に関する指令(当該指令)の提案について第一読会にて自らの立場を正式に採択しました。これに先立ち、EUの機関であるEU理事会と欧州議会、欧州委員会の代表者が2021年6月1日に暫定合意に達していました1。この採択プロセスを完了させるには、欧州議会が第二読会の総会にて理事会の立場を承認する必要があります。この承認後、当該指令は、EUの官報に掲載され、同掲載から20日後に発効します。発効後は、加盟国は、18カ月以内に当該指令を国内法化する必要があります。

この指令が成立すると、EUを本拠とする多国籍企業(MNEs)とEUを本拠としないが支店や子会社を通じてEUで業を営む多国籍企業のうち、直近の2事業年度において連結売上高合計が連続して7億5,000万ユーロを超えた多国籍企業は、納付した法人税や、国ごとの利益、売上高、従業員の内訳などその他税務関連情報を開示しなければならなくなります。それらの情報を、27の全EU加盟国と、税務面で非協力的な国・地域のEUリスト(EU list of non-cooperative jurisdictions for tax purposes)に関するEU理事会の結論の付属書I(Annex I)と付属書II(Annex II)(いわゆるEUブラックリストとグレーリスト)に記載されているすべての国・地域について開示しなければならなくなります。その他の国・地域については、合算したデータを開示すれば足りるとされています。

詳細解説

背景

2016年4月12日、欧州委員会は、会計指令(指令2013/34/EU)の改正を提案しました。これは、経済協力開発機構(OECD)とG20の税源浸食及び利益移転(BEPS)防止のための作業、特に国別報告書に関する行動13を踏まえた提案でした。しかし、その内容は、OECD/G20のBEPSの基準を超え、EUで事業を営む大規模な多国籍企業やEUに設立された単体の事業者に対して、国ごとの利益や売上高、納税額、従業員の内訳など、法人税に関する情報を作成し公簿(public register)と自己のウェブサイトに開示することを求めるものでした。

欧州委員会の提案は、欧州連合の機能に関する条約(TFEU)第50条1項に基づいて提出されましたが、同条1項は、設立権に関するものであり、会社法、会計、企業の財務報告の分野における取り組みの一般的な法的根拠となっています。この条文に基づいて提出される提案は、税制の協調を扱う法律の場合のように全会一致(TFEU第115条に基づく特別立法手続)ではなく、理事会での特定多数決(TFEU第114条に基づく通常立法手続)に従うとされています。さらに、税法について欧州議会は、助言的な役割しか持ちませんが、TFEU第50条1項に基づく提案については、議会が理事会とともに共同立法権を持つとされています。

2019年の競争力理事会(COMPET)会合では、加盟国の特定過半数が国別報告書の開示を支持しませんでした2。またCOMPET会合に先立ち、加盟10カ国がこの提案に反対する共同声明を発表し、同案は、税制上の提案とみなされるべきであり、この法律を導入するにはEU加盟国の全会一致が必要であるとの主張がなされました。

2021年前期の理事会議長国であるポルトガルは、新たな妥協案を発表し、2月25日のCOMPET会合でこの提案を取り上げました3。この会合は、加盟国の特定多数が同提案を支持して終了しました。2019年には提案に反対したオーストリアとスロベニアは、立場を逆転させ支持を表明しました。

その後、2021年3月に三者協議(欧州委員会、議会、EU理事会の間で行われる会議)が開始され、共同立法者である各機関はそれぞれの交渉権限に基づき議論を続けました。それら共同立法者は、2021年6月1日、最終交渉にて暫定的な妥協案について合意に至りました。同合意を受けて、EU理事会と欧州議会は同提案の正式な採択手続に入りました。

理事会が国別報告書の開示指令を正式に採択

EU理事会は、2021年9月28日、競争力理事会会合の第一読会で国別報告書の開示に関する自己の立場を正式に採択しました。理事会の立場に加え、理事会による採択の根拠が盛り込まれた解説も会合に先立って公表されました。

採択された理事会の立場は、2021年6月1日に暫定合意された妥協案と概ね一致しており、変更点のほとんどは言い回し関連するものでした。理事会の採択を受けて指令の条文に加えられた主な変更のうち、関係があると考えられる2点を以下に要約します。

データの分解

6月1日の妥協案は、情報を国ごとに開示すべきだとしていました。つまり、27の全EU加盟国と、税務面で非協力的な国・地域のEUリストに関するEU理事会の結論の付属書Iと付属書IIに記載されているすべての国・地域ごとに、情報を分解すべきだとしていました。付属書Iに関しては、報告書作成年度の3月1日の時点でリストに掲載されている国・地域が対象になり、付属書IIに関しては、報告書作成年度の3月1日の時点で2年連続でリストに掲載されている国・地域が対象になるとされていました。EUに加盟していないその他の国・地域ついては、合算ベースで情報を開示する必要があります。

3月1日の時点で2年連続で付属書IIに掲載された国・地域という要件に関して、リスト掲載の連続性の解釈を巡り混乱が生じました。変更が加えられた理事会の立場によりこの不明瞭な点が解消され、付属書IIに関しては、法人税に関する報告書を作成する年度の3月1日と前年度の3月1日に同付属書に掲載された国・地域が対象になるとされました。

EUリストの更新は1年に2回行われる定期的な手続きです。EUリストの次回更新は2021年10月5日が予定されています。


開始日

6月1日の妥協案では、報告開始日は国内法化期限の1年後以降に始まる最初の年度までとされていました。理事会の立場はこの文言を修正し、指令発効日の2年6カ月後以降に始まる最初の年度までとしています。

この修正からうかがえるのは、基準が国内法化の期限ではなく指令の発効になったため、加盟国によって異なる指令の国内法化の時期がルールの開始日を左右しなくなるという点です。もっとも、「まで」という文言が修正後の文でも使用されているため、加盟国が意図的に選択する場合にはルールを早期適用できる余地が残されています。

国別報告書の開示に関する指令の概要4

対象企業
  • EUを本拠とする多国籍企業のうち、直近2年度の各年度の(世界での)連結売上高合計が7億5,000万ユーロを超え、かつ、複数の国・地域にて業を営んでいる多国籍企業
  • EUを本拠としない多国籍企業のうち、直近2年度の各年度の(世界での)連結売上高合計が7億5,000万ユーロを超え、かつ、次のいずれかの主体を支配する多国籍企業:(i)加盟国の「国内法が適用される」「中規模」または「大規模」の子会社、(ii)EUのいずれかの加盟国にある所定の条件を満たす支店
  • EU域内に設立された金融機関はすでに指令2013/36/EUのもと国別報告書を公表することが義務付けられている。それらの金融機関が国別報告書の開示の対象である多国籍企業に該当するときは、報告が免除される
開示すべき内容
  • 開示する情報には次のものが含まれる:
    • 最終的な親会社または単体企業の名称、関係する年度、使用通貨
    • 事業内容
    • 従業員数
    • 正味売上高合計
    • 税引前利益
    • 当該国における当期利益について当該国で納付すべき法人税額
    • 当該年度に実際に納付した税額
    • 利益剰余金
開示すべき場所
  • 報告書を、当該加盟国の公簿にて閲覧できるようにし、かつ会社のウェブサイトにて少なくとも5年続けて無償で閲覧できるようにする必要がある
  • EUに所在するいかなる第三者も無償にて公簿で報告書を閲覧できるときは、加盟国は会社のウェブサイトに掲載することを免除することも可能
開示すべき時期
  • 決算日から12カ月以内で、5年間閲覧できるようにする
任意の繰り越し
  • その開示により当該グループの商取引上の地位が著しく損なわれるときは、加盟国は1つ以上の開示項目の省略を認めることができる
  • 省略した情報は、初めにそれを省略した日から5年以内の報告時に開示する必要がある
  • 非協力的な国・地域のEUリストに掲載されている税務管轄に関する情報は、省略できない
罰則
  • いずれかの義務に違反したときは罰則が科される場合がある。加盟国は国内法に基づいて科す罰則の種類・金額を決めることができるため、加盟国間で罰則が統一されない可能性がある
監査規定
  • 監査済財務諸表の作成義務がある(EUを本拠とする)事業者の常勤監査役は、当該事業者が法人税に関する報告書を作成する必要があったか否か、そして必要があった場合には同報告書が開示されたか否かを監査報告書に明記する必要がある
  • 報告書の内容に関する監査を実施することはできない。監査を実施できるのは、報告書の開示に関する事実確認のみ

次のステップ

理事会による正式な採択後は、欧州議会による総会での理事会の立場の承認が必要です。総会における正確な投票時期はまだ明らかになっていませんが、おそらくこの秋の終わりに行われると考えられます。

欧州議会が理事会の立場を承認すると、次の手順が踏まれます:

  • EU官報への指令の掲載
  • EU官報での公表から20日後に指令の発効
  • 発効後は、加盟国は18カ月以内に指令を国内法化する必要があります。もっとも、加盟国は国内法化の期日よりも早期に指令を国内法化することもできます
  • 法人税に関する報告の初年度は、指令発効日から2年6カ月後以降に開始する年度になります
  • 報告は、当該の年度の決算日から12ヵ月以内に行います

実際の日に置き換えると、仮に指令が2021年11月に正式に採択され2021年12月20日に発効になったとすると、法人税に関する報告の初年度は指令発効から2年6ヵ月後以降に開始する年度、すなわち2024年6月20日以降に開始する最初の年度ということになります。


影響

一度採択されると、国別報告書の開示に関する指令は、EUを本拠とする多国籍企業とEUを本拠としないがEUにて事業を営む多国籍企業の両方に著しい影響を及ぼすと考えられます。さらに、自主的な非財務報告基準(GRIなど)や投資家、社会一般が、企業による税務報告の開示強化を求める傾向が既に存在するなかでのこの指令の発効になります。

企業においては、採択プロセスの進捗状況を注視し、自己の事業に対する指令の影響、なかでも税務報告の開示に関する全般的な戦略に対する影響を評価する必要があります。

巻末注

  1. 2021年6月2日付EY Global Tax Alert「EU co-legislators reach agreement on public CbCR」および2021年6月10日付EY Japan 税務アラート「EUにおいて、国別報告書の開示に関する提案に合意」をご参照ください。
  2. 2019年12月4日付EY Global Tax Alert「EU: Public CbCR fails to move forward in latest European vote」をご参照ください。
  3. 2021年2月26日付EY Global Tax Alert「EU negotiations on public CbCR move forward as majority of Member States back proposal」および2021年3月4日付EY Japan 税務アラート「開示CbCRに向けたEUの交渉が、加盟国の大多数による提案支持により前進」(エグゼクティブサマリーのみ)をご参照ください。
  4. 2021年9月29日に採択された欧州理事会の立場に基づきます。

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