出版業 第3回:出版業ビジネスの会計上の論点

2024年7月3日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 メディア・エンターテインメントセクター
公認会計士 内川 裕介/吉野 緑

出版業ビジネスにおいて、特徴的な会計・税務処理について紹介していきます。なお、文中意見に係る部分は筆者らの私見である旨、あらかじめお断りします。

1. 単行本在庫調整勘定

書籍については、文化的な価値が認められることから、出版社は、多品種少量の書籍を揃えてほしいという需要に応える必要があります。その結果、必然的に売れ残り在庫が発生することになります。税務上、その文化的価値が認められるという点に鑑みて、売れ筋の書籍ばかりを取り扱うことのないよう、一定の売れ残り在庫については評価損の計上が認められています。

この評価損として認められたものが単行本在庫調整勘定です。単行本在庫調整勘定は、決算期末日時点の売れ残り単行本(各事業年度終了の時において有する単行本のうちにその最終刷後6か月以上を経過したもの)の帳簿価額に対して、繰入率を乗じて算定します。繰入率は税務上定めがあり、売上比率と発行部数に基づいて比率を算定します。

会計実務上、この税務上の算定方法が当該企業における在庫評価の実態と乖離(かいり)していないこと等を前提として、当該処理を参照する実務もあると考えられます。

仕訳例を示すと次のとおりとなります。

(期末決算時点)

(期末決算時点)

なお、金額は決算期末日時点で洗い替えを行い、表示は棚卸資産に対する評価勘定として製品勘定から直接控除するという会計実務もあると考えます。

2. 書籍の原価の会計処理

企業会計ナビ『出版業ビジネスの収益認識』で述べたとおり、紙の書籍や雑誌は一時点で取次や書店に出荷・納品されることから、売上高は一時点で計上されることになります。そのため、対応する売上原価も同時点で一時に計上されることが多いと考えられます。
ただし、出版物の販売状況が当初の想定より良い場合には増刷することがあり、その場合に執筆・編集・契約などにかかる初期の制作費用を第2版以降の増刷分に負担させるかどうかの論点があります。実務上、初版時より増刷部数の合理的な見積りができる場合には、増刷部分に初期費用を負担させる方法も考えられますが、増刷について合理的に見積ることが困難な場合には、初版に初期費用をすべて負担させる方法が適当と考えられます。

また、電子書籍は、電子書店等にコンテンツが掲載されている限りは販売が継続し、一時点での売上ではなく、一般的に販売期間が長くなります。したがって、電子書籍の制作原価をどのように計上するべきか、販売の実態に鑑みて慎重に検討する必要があります。

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