小売業 第2回:スーパーマーケット業、家電量販店業

2024年4月17日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 小売セクター
公認会計士 津田 昌典/中川 雅之

はじめに

第2回では、小売業のうちスーパーマーケット業及び家電量販店業における業務、会計処理及び内部統制の特徴について、解説します。なお、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことをお断りしておきます。

第Ⅰ章 スーパーマーケット業

1. スーパーマーケット業とは

スーパーマーケット業とは、一般的に食料品や医療品、住関品(日用雑貨品、医薬・化粧品、家具・インテリアなど)を取り扱う総合スーパーと、食料品の販売を主に行う食品スーパーに分かれています。中でも、①単一資本で②11店舗以上を直接経営、管理している小売業は、チェーンストアと定義されています(『スーパーマーケット業界用語集2000』より)。また、この要件に加えて日本チェーンストア協会では、年商10億円以上のスーパーマーケットも通常会員としています。

本稿では、チェーンストアを想定しスーパーマーケット(以下、スーパー)について解説します。

2. スーパーマーケット業の特徴

(1) 仕入形態

スーパーは、廉価・大量販売に基づく多品種・大量仕入を行っており、各所に点在する店舗に多種多様な商品を配送する必要があります。そのため物流センター等を利用し、商品を一箇所に集中させ、集中させた商品の仕分けを行う必要がありますが、これを外部業者に委託することがあります。この際に、仕入先が各店舗への配送及び商品仕分けを行う手間を省いた対価を、仕入先から受け取るケースもあります。

(2) 販売形態

スーパーマーケット業の特徴としては、多品種・大量販売及び食品、日常雑貨、衣料品などの家庭用品の販売を行い、原則として現金販売を行うことが挙げられます。一般的には、POSレジにて現金販売を行い、店員が直接接客する業態です。なお、昨今は自動釣銭機の導入により店員が直接金銭に触れる機会が減り、さらにセルフレジの導入に伴い、顧客が自らレジに商品を通すこともあります。

3. スーパーマーケット業の業務の流れ

(1) 仕入(センター納品)

センター納品とは、物流センター等の決められた箇所に一度商品を集積し、配送業者が物流センター等から各店舗に配送する取引形態をいいます。なお、物流センターにおける商品の各店舗への仕分けを、前述のように専門業者に委託することもあります。

また物流センターに関しては一般的にDCセンター(在庫保管型物流センター)とTCセンター(在庫通過型物流センター)の2種類がありますが、商品の責任移転時点が変わらない契約内容であれば、会社側の業務内容及び統制に関して、両者に大きな差はないと考えられます。

(2) 販売

顧客は自ら商品を手に取り、まとめてレジまで運び、レジにて現金同等物、クレジットカードで購入します。また近年は電子マネー・バーコード(QR)決済等による購入もあります。商品の陳列場所に店員がいることは少なく、集合レジにおける対面販売がほとんどです。購入後は、顧客が自らレジ袋等に入れ商品を持ち帰ります。レジ現金及びPOSにて読み込まれたデータは、日々の業務終了後レジごとにまとめて納金・集計され、両データの照合が行われます。

(3) 納金

日々の売上金は、基本的に当日夜に各店舗の金庫又は納金機に保管し、翌日以降に警備会社等に引き渡し、警備会社等により会社の銀行口座へとまとめて入金されます。警備会社の納金機を利用する場合、納金機納入後から銀行口座へ入金されるまで当該現金は警備会社等に対する未収入金に振り替わり、所有権も会社から警備会社等へと移転します。

(4) 棚卸

棚卸は、売価還元法を採用しているスーパーマーケット業において、期末の在庫在高を把握し、売上原価を確定する最も重要な業務です。スーパーでは、多品種・大量の商品を搬入、搬出するに伴い、日々何回もの商品の移動(顧客及び従業員による)が行われているため、先入先出法等、一品ごとに棚卸資産を評価することは実務上困難といえます。したがって棚卸資産の評価方法として、簡便的な売価還元法を採用することが多く見受けられます。

棚卸は、期末日における在庫の実際在高に基づき棚卸資産の期末残高及び期間損益を確定させる重要な業務であり、原則として期末月に実施されます。そして棚卸による検数結果を集計した上で帳簿在高との突合が行われ、棚卸減耗損の算定、計上が行われます。なお、減耗損の発生する原因としては、盗難、紛失、検品の際の検数ミス、店舗における破損等が考えられます。

4. スーパーマーケット業の会計処理の特徴

(1) 売上

① 売場売上
売場の集合レジにて顧客が商品の対価として現金同等物、クレジットカード等による支払いを行い、当該レジの一日分の売上金額が店舗ごとに集計され、売上計上が行われます。なお、POSの売上計上データと実際現金在高、受領した商品券在高及びカードリーダーによるクレジットカード使用記録等に差額が発生した際には、売上過不足金として通常は雑収雑損処理されます。発生原因としては、現金の収受の際の数え間違い等が考えられます。

② テナント売上(賃貸料収入含む)
売場の一部において、テナントが営業を行う場合、委託売上又は賃貸収入として会計処理されることが考えられます。ここで、委託売上とは、テナントが売り上げた売上全額がスーパーの売上金額となる売上を意味し、賃貸収入とは、テナントが売り上げた売上の一部(定額又は売上等の歩合分)がスーパーの売上金額として計上されることを意味します。両者の違いは第三者から判別しづらいことがありますが、一般的に契約形態や、現金を一括で店舗が回収しているか否か等により使い分けられています。しかし、現行実務上、委託売上か賃貸収入かの区別は各企業において処理方法が統一されていないことも考えられます。ただし、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」が導入された以降、委託売上が企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」3.特定の状況又は取引における取扱い(2)本人と代理人の区分に従い代理人として判定された場合には、他の当事者が提供する財又はサービスと交換に受け取る額から当該他の当事者に支払う額を控除した純額を売上として計上することになるため、両取引の会計処理は統一されると考えられます。

(2) その他営業収入(受取流通料)

前述のとおり、仕入先による各店舗への商品配送をスーパーが代理で行うことにより、発生する費用の一部を仕入先に負担してもらう場合に、その収入を受取流通料として、会計処理することがあります。この場合、当該収入についても上述②テナント売上(賃貸料収入含む)と同様に本人と代理人の区分に従い検討を行い、各々の判定結果に従った会計処理を行うことが考えられます。

(3) 仕入(リベート含む)

スーパーにおける仕入の計上基準は一般的に商品の所有権が移転した時点である物流センター到着時といえますが、物流センターに限られることなく、店舗到着時に所有権が移転する契約(慣行)の場合には、店舗到着時基準等が採用されると考えられます。

また、仕入先から一定の期間ごとに仕入数量に応じ仕入割戻として、リベート金を収受することがあり、仕入割戻を売価還元法の計算式に入れることなく、一括して売上原価の金額から減額することがあります。これは実務上、スーパーマーケット業において、どの仕入先から仕入れた商品が、どの店舗に配送され、どれだけ売れたのかという管理を仕入先ごとに行っていないことに起因しています。加えて、仕入割戻の算定基礎期間の開始日・終了日若しくは両日がスーパーの一会計期間に帰属しないことが実務上あり、仕入割戻の期間帰属が明確に算定しにくいという理由も存在しています。

(4) 固定資産(減損損失及び店舗閉鎖関連費用)

スクラップ&ビルドの多いスーパーマーケット業において、店舗の閉鎖に伴う費用・損失の計上は、非常に重要なものとなっています。特に多店舗展開している企業にとって、利益を稼ぐことが困難な店舗からの撤退の意思決定は、毎年行われることも昨今では珍しくなくなってきました。このような状況の中、店舗閉鎖に伴う減損処理は、会社の意思決定に左右されるため、四半期を含む決算の都度、修正後発事象に該当すると判断される場合には減損損失を計上することが考えられます。

また店舗を自前で持つことなく、賃貸で所有することが多いスーパーマーケット業において、店舗の閉鎖と原状回復義務は関連性の強いものといえます。この点、企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」の適用により、資産除去債務として負債計上することが考えられます。

5. スーパーマーケット業における内部統制の特徴

(1) 現金管理

現金は、スーパーマーケット業において最も紛失、盗難リスクの高い勘定科目であり、内部統制上実在性が重要な勘定科目です。

当該リスクを軽減させるため、各店舗において日々数回金庫点検が行われます。レジ現金に関しては、従業員が接触する回数を極力減らすことにより現金事故の発生リスクを軽減させています。具体的には、レジからの納金及びレジへの入金の際に、鍵付きの現金BOXを利用することで現金に直接触れることなく、金庫とレジ間の運搬を可能にします。また、昨今では自動釣銭機の導入により当初より施錠されたBOXに現金が保管されている実務も見られます。さらに、売上データと現金等価物の実際在高との照合を行い、違算が発生した場合には、違算の分析結果及び顛末を各レジ担当者から書類にて報告させることによりけん制を図ります。

(2) 仕入業務管理

仕入に関するリスクとしては、仕入に伴う商品数量、金額が正確に会計上反映されないことや、検品が正確に行われないことが挙げられます。

仕入業務に関しては前述のとおり、外部業者への仕分け作業等の委託に伴い、現場管理者としてスーパーの従業員が現場に常駐又は定期的に往査し、業務管理を行うことがあります。このような場合には、当該管理者による現場作業の管理業務自体が内部統制となります。また、統制手続としては、作業者の作業内容を視察し、抜き取り検査し、実施結果を確認する作業等が考えられます。

(3) 棚卸資産管理

日常的に商品の単品管理を行っていないスーパーにおいて、商品の数量について、帳簿(会計帳簿外で管理している理論在庫含め)と実際とが一致していないという問題は非常に大きいと考えられます。

スーパーは多品種・大量在庫を抱え、多店舗展開しているため、棚卸に関しては、外部業者に頼らざるを得ないケースもあります。この場合、検数作業自体は外部の専門業者が行い、作業のチェック及び作業結果のチェックを従業員が行うことになり、当該チェックが重要な内部統制となります。具体的には、従業員が作業者の作業内容を視察し、抜き取り検査し、実施結果を確認する作業等が考えられます。

第Ⅱ章 家電量販店業

1. 家電量販店業とは

家電量販店とは、テレビ、パソコン、冷蔵庫やエアコン等の家電製品を大量に仕入れ、安価で消費者に提供することを基本戦略とする小売店をいいます。大量仕入・大量販売という業容から分かるように、まさに薄利多売を生業としている業界といえます。

過去には大型量販店同士の低価格販売競争が常態化していましたが、2015年に公正取引委員会が「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」を改正し、公正な競争を阻害しない限り、メーカー側がリベートや流通量の調整によりEC業者の過度な安売りを抑制できるようになったことを契機に、落ち着きを見せています。また最近では一部の大手家電メーカーが指定価格制度を本格導入し、追随の動きも見られます。
売上高増加の手段としては郊外や都心の駅前への出店が主なものでしたが、市場が頭打ちになっていることから、各社はリフォーム事業等の関連事業の拡大や自社ECの拡大等により需要の取り込みを図っています。

2. 家電量販店業の特徴

(1) トップダウン式の組織形態

家電量販店は急激にチェーン展開したという経緯があり、かつ歴史も比較的浅く、トップダウン式の組織形態となっている企業が比較的多く見受けられます。

また、多店舗展開の結果、店舗数が非常に多く、各社、安売りのためローコスト体制に注力する必要がある状況にあると考えられます。

当該観点からは、店舗現金、店舗在庫の管理や本社・本部等による店舗のモニタリング体制の有効性に留意が必要といえます。

(2) 業界特有の課題

家電量販店は会員サービスの提供やECのために多数の個人情報を取り扱っており、個人情報管理をはじめとする情報セキュリティ対策は重要な課題となっています。その他には物流コストの上昇や配送ドライバーの不足といった物流面での課題や、冷夏や暖冬等の季節的要因が業績に重要な影響を及ぼすといった課題も挙げられます。

また、家電量販店は多くの従業員を雇用し多店舗で展開している特徴があることや、商品物流の観点から、カーボンニュートラルや人的資本が主なサステナビリティ課題となっており、これらを背景に2022年12月に大手の家電量販事業者により、一般社団法人大手家電流通協会が設立されています。
会計面では、店舗等に係る多額の固定資産を保有していることから、固定資産の減損が重要な論点となることが多いと考えられます。

(3) 商品差別化の困難性

百貨店、スーパー等、他の小売業に比して家電量販店の取扱商品は特に差別化が困難であるといえます。取扱商品の一部にはPB(プライベート・ブランド)商品もありますが、その売上構成比は高くはなく、大部分がNB(ナショナル・ブランド)商品を中心に構成されています。そのため家電量販店各社及びEC業者における品揃えの違いはほとんどなく、このことが価格競争激化をもたらす要因となっています。

(4) 在庫管理

家電量販店業界の取扱商品は商品サイクルが特に短いという特徴があることに加え、近年では世界的な資源不足や部材不足の影響による商品仕入の停滞や、異常気象等による急激な需要増といった影響により、適正在庫水準を保つことが重要な課題の1つとなっています。また多額の商品を保有するため、過剰在庫や滞留在庫等の評価、期末在庫へのリベート配賦といった会計上の論点が考えられます。

3. 家電量販店業の業務の流れ

(1) 仕入

多品種の商品を取り扱う中、在庫切れ、売れ残りを極力起こさないようにするため、家電量販店は基本的にPOSにより発注管理をしていることが多いです。POSからの情報に基づきメーカーに発注することになりますが、その手法としてはオンライン発注システムの利用が多く見受けられます。発注された商品は物流センターを経由して納入されるほか、メーカーから直接店舗へ納入されるケースもあります。

(2) 販売

EC販売や法人外商もありますが、家電量販店における販売業務のベースは店舗での直接販売です。店舗販売における業務は、POSにおけるバーコードリーダーでの読み取りによって実行されるケースがほとんどです。また販売にあたっては、販促施策として現金値引、ポイント付与等を実行するケースが多いですが、その手法は各量販店により様々です(ex.現金値引率・ポイント付与率の差別化、他製品とのセット販売等)。

(3) 売上金管理

店舗販売、配送先の顧客からの入金等において、クレジットカードや電子マネーでのキャッシュレス決済が増加傾向にあるものの、現金決済は今なお多くの割合を占めています。個々の取引金額は少額でも販売取引は多量に行われ、日々の現金取扱量も多量となります。そのため各店舗では釣銭準備金として一定額の現金が保有されることとなりますが、売上金は基本的に日々警備会社等を通じて本社等の管理口座に入金されることが多いと考えられます。内部統制の観点からは、本社等の現金集中管理部署におけるチェック体制の構築が重要といえます。

(4) 棚卸

家電量販店においては、多品種、大量の商品を取り扱うため、数量、保管状況、滞留状況等、日々の在庫管理はもちろん、定期的な棚卸によってその残高状況を把握することが必要不可欠となります。

家電量販店での棚卸作業は店舗での棚卸作業と物流センターでの棚卸作業の二つに大きく分けられますが、特徴的なものは店舗での棚卸作業です。店舗での棚卸作業は商品がショールーム内に陳列されていたり、見本品としてディスプレイされていたり、メーカーからの預り品が陳列されていたりするため、棚卸実施日の検討、見本品と通常品との区別、商品劣化状況の把握、棚卸対象品と預り品との区別整理等が特に重要と考えられます。

4. 家電量販店業の会計処理の特徴

(1) ポイント制度

各大手家電量販店においては、自社会員向けにポイントサービスを提供しており、他社共通ポイントも付与しているケースがあります。自社ポイントは発行元である家電量販店での商品購入の際に現金同様に使用できる権利を有します。

ポイント制度に関する会計処理は、『第6回 小売業における収益認識基準の重要論点』をご参照ください。

(2) 受取リベート処理

リベートは、割戻しと訳されるもので、仕入代金の一部相当額を支払人に戻すこと、又はその戻した金銭のことをいいます。仕入代金そのものを減額する値引きや割引とは異なり、通常仕入代金の支払いとは別に行われます。

なお、リベートは慣行又は費用対効果によって決まりますが、リベート率の設定に不透明な部分があると好ましからぬ金銭・経理操作に用いられるおそれがあります。このため、家電量販店業界におけるリベートの取扱いは大きな論点といえます。リベートは、その性質から次の4種類に分類できます。

  • 販売促進を目的としたリベート
    販売数量に応じて収受される売上補償リベート及び仕入数量に応じて収受される仕入補償リベートが該当します。
  • 取引価格の見直しのために支払われるリベート
    例えば在庫補償リベートと呼ばれるものが該当し、これは旧製品を整理、売り切るために支払われるリベートです。
  • 取引先の各種要請に対応するために支払われるリベート
    協賛金や粗利補填リベートといわれるものが該当します。
  • 取引条件の改善等、施策誘導のために支払われるリベート
    現金リベートなど、施策誘導のため費用負担の一部をメーカーに補填してもらうものです。

家電量販店業界の慣習として、最終販売価格の維持を重視する家電メーカーは量販店への販売価格(下代、仕切価格)を下げたがらない傾向があります。しかしながら、特に季節傾向が強い家電商品については陳腐化が著しく早く、家電メーカーは販売価格の下落にかかる利益補填をリベート支払いにて実施していることが考えられます。

また前述のとおり、リベート制度には種々様々なパターンがあります。会計上は、個々のリベートの内容、性質を検討し、整合する会計処理を選択することが重要といえます。

(3) 長期保証サービス

家電量販店では販売商品に独自の長期保証を付けていることが一般的です。このような長期保証サービスが商品の提供とは別個の履行義務に該当する場合は、取引価格を当該保証サービスにも独立販売価格の比率で配分する必要があるため、保証の実態に基づいた慎重な会計処理の判断が必要です。

参考文献等

  • よくわかる流通業界 月泉 博 日本実業出版社
  • 第11次 業種別審査辞典第3巻 金融財政事情研究会 ぎょうせい
  • スーパーマーケット業界用語集2000 社団法人 スーパーマーケット協会
  • 日本チェーンストア協会 www.jcsa.gr.jp
  • よくわかる家電量販店業界 山名一郎 日本実業出版社 

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