税効果会計(平成27年度更新) 第1回:「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」について

2016年4月12日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 浦田千賀子
公認会計士 村田貴広

1. はじめに

本解説シリーズは、企業会計基準委員会(ASBJ)から平成27年12月28日に公表された「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、回収可能性適用指針)の内容を織り込み、税効果会計の適用に当たっての留意事項を解説します。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。

2. 回収可能性適用指針公表の経緯

回収可能性適用指針が、企業会計基準委員会(ASBJ)から平成27年12月28日に公表されました。

税効果会計に関連する会計基準の体系は、企業会計審議会が平成10年10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という。)等を受けて、日本公認会計士協会から実務指針として定められる形となっています。これらの実務指針については、基準諮問会議から平成25年12月にASBJへ移管するための審議を行うことが提言され、平成26年2月からASBJにおいて審議が続けられてきたものです。

その経緯で監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「廃止前66号」という。)に対して、実務に対して硬直的ではないか、もう少し柔軟な基準適用を可能にできないかなどの問題意識が強く聞かれたことから、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針を先行して開発(移管)することとされました。主に、廃止前66号および監査委員会報告第70号「その他有価証券の評価差額および固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」(以下「監査委員会報告第70号」という。)、会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「個別税効果実務指針」という。)等において定められている繰延税金資産の回収可能性に関する定めを引き継ぎ、必要と考えられる見直しを行い、平成27年5月に企業会計基準適用指針公開草案第54号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」(以下「公開草案」)を公表して広く意見を求めました。そして、公開草案に対して寄せられた意見を踏まえ、内容を一部修正したうえで、今回の公表に至ったものです。

3. 主な改正点

(1) 用語の定義

回収可能性適用指針においては、税効果会計基準や個別税効果実務指針等において使用されている用語のうち、必要と考えられる用語の定義を3項において明確に定めることとしています。新たに定められるもののうち重要なものは「一時差異等加減算前課税所得」です。「一時差異等加減算前課税所得」とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額(及び該当する場合は、当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額)を除いた額のことです(下記図表1参照)。

例えば、図表1のX2期の場合、将来の事業年度における課税所得の見積額が640から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来減算一時差異の金額-300を差し引いた940が、一時差異等加減算前課税所得となります。

従来の個別税効果実務指針では、「課税所得」という用語が、当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額を加算(減算)する前の金額として使用されている場合もありましたが、今回の改正により「課税所得」という用語の定義が明確化されています。

(図表1)

  • 当期はX1年末であり、当期末の賞与引当金の残高は300
  • 翌期(X2年)末の賞与引当金残高は340、翌々期(X3年)末の賞与引当金残高は360と見込んでいる
  • 翌期の税引前当期純利益の予測は600、翌々期の税引前当期純利益の予測は550
  • それぞれの事業年度の期末において、賞与引当金繰入限度超過額以外の将来減算一時差異、将来加算一時差異及び税務上の繰越欠損金は有していない。
図表1

(*1) X3年末賞与引当金残高360-X2年末賞与引当金残高340=20
当期末に存在する一時差異の解消((図表1)の当期末の賞与引当金300)については、一時差異等加減算前課税所得の下に反映し、それ以降に発生する一時差異((図表1)のX2期賞与引当金340、X3期賞与引当金20)については、一時差異等加減算前課税所得の上で反映させる。

(2) 見積将来課税所得による繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い

① 企業の分類
回収可能性適用指針では、廃止前66号における企業の「分類」に応じた取扱いの枠組みを基本的に踏襲したうえで、取扱いの一部について、必要な見直しを行いました。
具体的には、要件に基づき企業を(分類1)から(分類5)までに分け、当該分類に応じて回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定することとしています(詳細は第3回で説明)。

② 企業の分類ごとの繰延税金資産の計上可能範囲
回収可能性適用指針においては、

  • (分類2)に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異に関する取扱い
  • (分類3)に該当する企業における将来の一時差異等加減算前課税所得の合理的な見積期間に関する取扱い
  • (分類4)に係る要件を満たす企業が分類2または分類3に該当する場合の取扱い

について、新たな項目が設けられました(詳細は第3回で説明)。

上記の取扱いによって、一定の条件のもとでは、廃止前66号と比べ繰延税金資産を計上する幅を広げることが可能となりました。これは個別税効果実務指針の過年度の納税状況及び将来の業績予測等を総合的に勘案する考えに比べると、廃止前66号では、企業の過去の事象に重きを置き過ぎており、実態が反映されていないのではとの意見を考慮したものです。

4. 従前の取扱いが引き継がれている項目

以下の項目については、廃止前66号等の考え方が踏襲されています。

(1) 長期解消将来減算一時差異に係る取扱い

退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異のように、スケジューリングの結果、その解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異は、企業が継続する限り長期にわたるが解消され、将来の税金負担額を軽減する効果を有すると考えられる点については、廃止前66号の考え方と同様です。

(2) 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い

償却資産と非償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングの取扱いが異なる点については、監査委員会報告第70号と同様です。償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異については、(1)の長期解消将来減算一時差異に係る取扱いの特例が適用されません。

(3) 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い
(4) その他有価証券評価差額に係る一時差異の取扱い
(5) 退職給付に係る負債に関する一時差異の取扱い
(6) 繰延ヘッジ損益に係る取扱い
(7) 繰越外国税額控除に係る取扱い

5. 適用時期

適用時期は平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となりますが、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用も可能です(*1)。
適用初年度においては、以下の項目を適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。

①(分類2)に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い
②(分類3)に該当する企業において、おおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い
③(分類4)の要件に該当する企業であっても、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には(分類2)に該当するものとする取扱い

基本的に、回収可能性適用指針を適用したことによる影響額は損益処理となりますが、上記①~③の会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に係る影響額は、適用初年度の期首の利益剰余金に加減することとされています。ただし、その他の包括利益累計額または評価・換算差額等に係る影響額に関しては、当該その他の包括利益累計額または評価・換算差額等に加減することになります。

適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更による影響額の注記について、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第10項(5)ただし書の定めに関わらず、以下の項目のみを注記することとしています。

  • 適用初年度の期首の繰延税金資産に対する影響額
  • 適用初年度の期首の利益剰余金に対する影響額
  • 適用初年度の期首のその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に対する影響額

(*1)早期適用固有の取扱いとして、下記が定められています。

  • 早期適用した年度の期首に遡って適用
  • 早期適用した連結会計年度及び事業年度の翌年度に係る四半期連結財務諸表および四半期個別財務諸表においては、早期適用した連結会計年度及び事業年度の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表について本適用指針を当該年度の期首に遡って適用

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