公認会計士 伊藤 毅
8. 共同支配企業の形成
(1) 共同支配企業の会計処理
a. 資産及び負債の会計処理
共同支配企業の形成において、共同支配企業は、共同支配投資企業から移転する資産および負債を、移転直前に共同支配投資企業において付されていた適正な帳簿価額により計上します(企業結合会計基準38項、結合分離適用指針182項)。
b. 増加資本の会計処理
増加資本の会計処理は、連結子会社同士の合併の会計処理に準じて以下のように処理します。
ア. 株主資本項目の取扱い
連結子会社(存続会社)は吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として会計処理します。なお、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスの場合および後述の抱合せ株式等の会計処理により株主資本の額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理します(結合分離適用指針247項(2)、185項(1)①)。
また、合併の対価が自社の株式のみである場合には、吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金およびその他利益剰余金の内訳科目(ただし、積立目的の趣旨は同じであるが、吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社の間でその名称が形式上異なる場合に行う積立金の名称変更を除く)を、後述の抱合せ株式等の会計処理を除き、そのまま引き継ぐことができます。当該取扱いは、吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合も同様です(結合分離適用指針247項(2)、185項(1)②)。
イ. 株主資本以外の項目の引継ぎ
吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の評価・換算差額等および新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぎます(結合分離適用指針247項(2)、185項(2))。
(2) 共同支配投資企業の会計処理
共同支配企業の形成において、共同支配企業に事業を移転した共同支配投資企業は次の会計処理を行います(企業結合会計基準39項)。
a. 個別財務諸表上、当該共同支配投資企業が受け取った共同支配企業に対する投資の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定する。
b. 連結財務諸表上、共同支配投資企業は、共同支配企業に対する投資について持分法を適用する。
(3) 共同支配企業の形成:数値例による解説
以下では、共同新設分割を前提に、共同支配企業の形成の会計処理につき、数値例を用いて解説します。
a. 前提条件
- ×1年4月1日にA社とB社は共同新設分割によりW社を設立した。A社とB社の共同新設分割は共同支配企業の形成と判定された。
- W社は3月決算会社である。
- のれんは、20年間で償却する。
- A社およびB社の移転する事業の移転直前の内容等は、次のとおりである。
b. W社(共同支配企業)の個別財務諸表上の会計処理
ア. G事業の受け入れ
イ. H事業の受け入れ
ウ. 受入仕訳の合計
c. 共同支配投資企業の会計処理
ア. 持分変動についての考え方について
共同支配投資企業の具体的な会計処理に入る前に、分割される事業に係る持分変動を整理します。
ⅰ. G事業の純資産に係る持分変動
共同新設分割直前では、G事業はA社が100%支配していますが、会社分割後の状態では、このうち40%の2,200がB社に移転しています。図表13において、緑色の部分がA社の持分額、黄色の部分がB社の持分額です。外側の点線の箇所が、G事業の時価7,200です。このうち、A社からB社へ移転した部分の時価2,880(=7,200×40%)から、同じくB社へ移転したG事業の純資産2,200(=5,500×40%)を差し引いた金額が持分変動差額680となります。
一方、B社の立場からは,G事業の40%を取得したことになり、G事業の純資産2,200を時価が超える部分はのれんとなります。
図表13
ⅱ. H事業の純資産に係る持分変動
分割直前では、H事業に係る純資産は、B社が100%支配していましたが、分割により60%部分をA社の支配持分として手放すこととなります。図表14において、緑色の部分がA社の持分額、黄色の部分がB社の持分額です。
共同新設会社分割前では、H事業はB社が100%支配していますが、会社分割後の状態では、このうち60%の2,700がA社に移転しています。外側の点線の箇所が、H事業の時価4,800です。このうち、B社からA社へ移転した部分の時価2,880(=4,800×60%)から、同じくA社へ移転したH事業の純資産2,700(=4,500×60%)を差し引いた金額が持分変動差額180となります。
一方、A社の立場からは、H事業の60%を取得したことになり、H事業の純資産2,700を時価が超える部分はのれんとなります。
図表14
イ. 共同支配投資企業(A社)の会計処理
ⅰ. ×1年4月1日における、個別財務諸表上の会計処理
ⅱ. ×2年3月31日における、連結財務諸表上の会計処理
- 持分変動差額の計上
100%支配していたG事業のうち40%を、会社分割によりB社に移転することで、G事業に対する持分比率が60%に下落します。そこで、B社へ移転する40%部分について持分変動差額を計上します。
- のれん相当額の認識
B社よりH事業の60%部分を取得するため、時価と純資産の差額がのれん相当額180に該当します。ただし、持分法では、のれんについては「仕訳なし」となります。 - 持分法投資損益の計上
×2年3月期にW社は利益を計上しているので、このうちA社の持分比率相当額である12,000(=20,000×60%)を、持分法投資利益として計上します。
- のれん償却額の計上
のれんは20年で償却するため、償却額は9(=180÷20)になります。
ウ. 共同支配投資企業(B社)の会計処理
ⅰ. ×1年4月1日における、個別財務諸表上の会計処理
ⅱ. ×2年3月31日における、連結財務諸表上の会計処理
- 持分変動差額の計上
100%支配していたH事業のうち60%を、会社分割によりA社に移転することで、H事業に対する持分比率が40%に下落します。そこで、A社へ移転する60%部分について持分変動差額を計上します。
- のれん相当額の認識
A社よりG事業の40%部分を取得するため、時価と純資産の差額がのれん相当額680に該当します。ただし、持分法のため、仕訳は計上しません。 - 持分法投資損益の計上
×2年3月期にW社は利益を計上しているので、このうちB社持分比率相当額である8,000(=20,000×40%)を、持分法投資利益として計上します。
- のれん償却額の計上
のれんは20年で償却するため、償却額は34(=680÷20)になります。
9. 開示
(1) 企業結合会計及び事業分離等会計に係る注記の注意点
企業結合に該当する取引はすべて企業結合会計基準が適用されます(結合分離適用指針31-2項)。よって、現金を対価とする子会社株式の取得についても、取引の実態が「企業結合」の定義に当てはまるものであれば、連結財務諸表上、企業結合会計基準および事業分離等会計基準に準拠して注記を行います。
(2) 企業結合に係る注記
企業結合に係る注記には、以下のようなものがあります。
<企業結合の注記>
a. 取得とされた企業結合が行われた場合の注記(企業結合会計基準49項)
b. 共通支配下の取引等の注記(企業結合会計基準52項)
c. 共同支配企業の形成の注記(企業結合会計基準54項)
<事業分離の注記>
d. 事業分離における分離元企業の注記(事業分離等会計基準28項)
e. 事業分離が企業結合に該当しない場合の事業分離における分離先企業の注記(連結財規15‐17項、財規8‐24項)
f. 子会社を結合当事企業とする株主(親会社)の注記(事業分離等会計基準54項)
<後発事象の注記>
g. 企業結合に関する重要な後発事象等の注記(企業結合会計基準55項)
h. 事業分離に関する重要な後発事象等の注記(事業分離等会計基準30項)
i. 子会社の企業結合に関する後発事象等の注記(事業分離等会計基準56項)
<連結財務諸表を作成しない場合の注記>
j. 逆取得となる企業結合が行われた場合の注記(企業結合会計基準50項)
k. 段階取得となる企業結合が行われた場合の注記(企業結合会計基準51項)
l. 子会社が親会社を吸収合併した場合で子会社が連結財務諸表を作成しない場合の注記(企業結合会計基準53項)
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M&Aの会計処理及び開示における要確認ポイント
この記事に関連するテーマ別一覧
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