公認会計士 伊藤 毅
6. 共通支配下の取引等の会計処理(その1:親会社と子会社の合併)
(1) 親会社による連結子会社の吸収合併の会計処理
a. 個別財務諸表上の会計処理
ア. 吸収合併消滅会社である子会社の合併期日の前日における決算
合併期日の前日に決算を行い、資産、負債および純資産の適正な帳簿価額を算定します(結合分離適用指針205項)。
イ. 親会社における個別財務諸表における資産および負債の受入の会計処理
共通支配下の取引により企業集団内を移転する資産および負債は、原則として、移転直前(合併期日の前日)に付されていた適正な帳簿価額により計上することとされます(企業結合会計基準41項, 結合分離適用指針206項(1))。
ただし、親会社と子会社が企業結合する場合において、資本連結に当たり子会社の資産および負債を時価評価している場合など、子会社の資産および負債の帳簿価額を連結上修正しているときは、親会社が作成する個別財務諸表においては、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む)により計上することとされます(企業結合会計基準注9、結合分離適用指針207項(1)(2))。
また、連結財務諸表の作成に当たり、子会社の資産又は負債に含まれる未実現損益(親会社の個別財務諸表上、損益に計上された額に限る)を消去している場合には、親会社の個別財務諸表上も、未実現損益消去後の金額で当該資産又は負債を受け入れ、当該修正に伴う差額は、特別損益に計上します(結合分離適用指針207項(2))。
ウ. 親会社の個別財務諸表における増加資本及びのれんの会計処理
親会社は、子会社から受け入れた資産と負債との差額のうち、株主資本の額を合併期日直前の持分比率に基づき、親会社持分相当額と非支配株主持分相当額に按分し、それぞれ次のように処理します(結合分離適用指針206項(2)①)。
ⅰ. 親会社持分相当額の会計処理
親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額と親会社持分相当額の差額を、特別損益(抱合せ株式消滅差額)に計上します(結合分離適用指針206項(2)①ア)。
ⅱ. 非支配株主持分相当額の会計処理
非支配株主持分相当額と、取得の対価(非支配株主に交付した親会社株式の時価)との差額をその他資本剰余金とします。合併により増加する親会社の株主資本の額は、払込資本として会計処理します(結合分離適用指針206項(2)①イ)。
なお、非支配株主との取引の個別財務諸表上の会計処理は、企業集団の最上位に位置する会社が非支配株主から子会社株式を追加取得する取引等に適用されます。
b. 連結財務諸表上の会計処理
吸収合併が行われた後も引き続き親会社が連結財務諸表を作成する場合には、合併によりすでに消滅した連結子会社の開始仕訳を個別財務諸表の合算の後にいったん計上したのち、当該開始仕訳について戻し処理を行います。また、個別財務諸表において子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額と親会社持分相当額の差額を特別損益に計上した金額につき、連結財務諸表上は、過年度に認識済みの損益となるため、利益剰余金と相殺消去します(結合分離適用指針208項)。
(2) 親会社による連結子会社の吸収合併: 数値例による解説
a. 前提条件
- 3月決算会社であるP社は、×1年3月末にS社の株式の80%を1,600で買収し子会社化した
- 発行済株式総数は、P社:20株 S社:20株。
- のれんは、20年間で償却する。
- ×1年3月末の連結精算表は以下のとおり。
- ×2年3月末の連結精算表は以下のとおり。
- ×2年4月1日(×2年度3月期の翌期首)に、P社はS社を吸収合併する。
- 合併比率は1:1であり、P社はS社の非支配株主に4株発行する。
- 合併の合意公表日のP社の株式時価は@130。
- 増加する株主資本はすべてその他資本剰余金とする。
b. ×2年4月1日における合併仕訳
ア. 親会社持分相当額の会計処理
※1: 資産および負債の親会社持分相当額は、S社資産および負債残高に親会社の持分比率である80%を乗じて計算します。
※2: のれんは、連結財務諸表における未償却残高76(=80-4)を計上します。
※3: 吸収合併消滅会社であるS社の取得後増加剰余金(676-200=476)は、抱合せ株式消滅差益として、特別損益項目に計上されます。
イ. 非支配株主持分相当額の会計処理
※1: 資産および負債の非支配株主持分相当額は、S社資産および負債残高に非支配株主の持分比率である20%を乗じて計算します。
※2: 合併により、非支配株主から支配が移ってくる部分につき、取得したものとして、取得の対価(4株×130=520)に基づき、資本剰余金を計上します。
※3: 非支配株主持分相当額と、取得の対価との差額を資本剰余金として計上します。
以上の合併仕訳を精算表形式で示すと、以下のようになります。
c. ×3年3月期における連結仕訳
連結会社がP社とS社しかないという想定では、×3年3月期からは、連結財務諸表を作成する必要がなくなりますが、仮にS社以外に連結子会社があるものとして、S社の合併連結除外の仕訳を考えることとします。
ア. 開始仕訳
イ. 開始仕訳の戻し仕訳
連結除外とするため、開始仕訳の戻し仕訳をします。
ウ. 抱合せ株式消滅損益の修正
特別損益に計上された抱合せ株式消滅差損益は、連結財務諸表上では、過年度に認識済みの損益であるため、利益剰余金と相殺消去します。
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M&Aの会計処理及び開示における要確認ポイント
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