関連当事者の開示に関する会計基準の概要 第4回:対象取引(役員報酬の範囲)

2019年3月20日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 七海健太郎
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇

10.役員報酬

役員報酬の開示については、非財務情報であるコーポレート・ガバナンスに関する情報の中で役員報酬の内容の開示を規定していることから関連当事者取引開示の対象外となっています(関連当事者の開示に関する会計基準(以下、会計基準)第33項)。

開示対象外となる役員報酬の範囲は、会社法第361条等にいう報酬等(役員の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益)を指します。

会社法上、以下の(a)から(c)については定款に定めがない場合、株主総会の決議により定めるとされていることから、これらに含まれる場合は役員報酬に該当し、コーポレート・ガバナンスで開示されるため、以下に含まれるかどうかが関連当事者の開示対象に該当するかどうかの判断基準にもなります(関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針(以下、適用指針)第24項)。

(a)報酬等のうち額が確定しているものについては、その額

(b)報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法

(c)報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

ただし、役員報酬に含まれない取引であっても、その取引が従業員としての立場で行っていることが明らかな取引(使用人兼務役員が会社の福利厚生制度による融資を受ける場合等)は開示対象外となります(適用指針第5項)。

例えば、役員にストック・オプションを付与している場合は、ストック・オプション等に関する会計基準により役員報酬として会計処理されるため、関連当事者の取引としては開示不要となります。ただし、ストック・オプションの行使は、役員報酬に該当せず、資本金等が増加する資本取引となるため、開示対象取引となります。

また、関連当事者の範囲を実質的に判定した結果、相談役や顧問等の役員に準ずる者が関連当事者に該当する場合、これらの者への報酬は会社法上の役員報酬に該当しないため、関連当事者の取引として開示対象となります。

その他、福利厚生制度による融資を会社から受けている使用人が役員となった場合、当該融資については、従業員時代に行った取引であれば開示対象外取引となりますが、例えば、使用人兼務ではない役員(例えば専務取締役や監査役等)になった場合に、当該貸付金が残高として残っていることは通常ではなく、従業員としての立場で行っている取引とは考えられないため、開示対象取引になると思われます。

表1:役員等との取引のまとめ

取引の内容 関連当事者取引としての開示対象か否か
役員報酬
 会社法361条等に該当する役員報酬 ×(開示対象外)
 相談役・顧問等、役員に準ずる者への報酬 ○(開示対象)
ストック・オプション 資本取引
 役員へのストック・オプションの付与 ×
 役員のストック・オプションの行使
 相談役等のストック・オプションの行使
 相談役等との資本取引
従業員としての取引
 使用人兼務役員の取引 ×
 専務取締役の取引
 監査役の取引
 重要な子会社の役員に該当する、子会社の役員となった場合の取引 ×

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