EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大山 文隆
Question
2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の早期適用した会計基準(電子記録移転有価証券表示権利等)に関する注記の開示の状況を知りたい。
Answer
【調査範囲】
- 調査日:2023年8月
- 調査対象期間:2023年3月31日
- 調査対象書類:有価証券報告書
- 調査対象会社:以下の条件に該当する2,394社
①3月31日決算である
②2023年6月30日までに有価証券報告書を提出している
③日本基準を適用している
【調査結果】
2019年5月に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正され、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering)は金融商品取引法の規制対象とされ、各種規定の整備が行われた。また、2020年5月に改正施行された金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)において「電子記録移転権利」よりも広い概念である「電子記録移転有価証券表示権利等」が定められた。
こうした状況を踏まえ、企業会計基準委員会において、金商業等府令における「電子記録移転有価証券表示権利等」の発行・保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、2022年8月26日に実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「実務対応報告第43号」という。)が公表された。
実務対応報告第43号は2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用となる。また、実務対応報告第43号の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することが認められている。
調査対象会社(2,394社)について、実務対応報告第43号を早期適用している事例を調査したところ、会計方針の変更(連結及び個別)において、早期適用している旨の注記を記載している会社はなかった。電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有している会社が少ないこと、実務対応報告第43号の公表日が2022年8月26日と期中であり積極的に早期適用する会社がなかったことが主な理由と考えられる。
(旬刊経理情報(中央経済社)2023年9月20日号 No.1688「2023年3月期「有報」分析」を一部修正)
この記事に関連するテーマ別一覧
2023年3月期 有報開示事例分析
- 第1回:総会前提出 (2023.11.20)
- 第2回:コーポレート・ガバナンスの状況等①(取締役会及び監査役会等の記載状況) (2023.11.21)
- 第3回:コーポレート・ガバナンスの状況等②(内部監査の状況) (2023.11.22)
- 第4回:コーポレート・ガバナンスの状況等③(株式の保有状況) (2023.11.24)
- 第5回:コロナ/ロシア・ウクライナ関連開示 (2023.11.27)
- 第6回:時価算定適用指針(改正適用指針) (2023.11.28)
- 第7回:グループ通算制度に関する注記 (2023.11.29)
- 第8回:グループ通算制度を適用している会社 (2023.11.30)
- 第9回:グローバル・ミニマム課税制度 (2023.12.01)
- 第10回:早期適用した会計基準(電子記録移転有価証券表示権利等) (2023.12.04)
- 第11回:未適用の会計基準等に関する注記 (2023.12.05)
- 第12回:2年目の収益認識注記開示分析①(重要な会計方針の注記、収益を理解するための基礎となる情報) (2023.12.06)
- 第13回:2年目の収益認識注記開示分析②(収益の分解情報) (2023.12.07)
- 第14回:2年目の収益認識注記開示分析③(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報) (2023.12.08)