2023年3月期 有報開示事例分析 第6回:時価算定適用指針(改正適用指針)

2023年11月28日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大浦 佑季

Question

2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の会計方針の変更及び金融商品関係における改正企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」の影響を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2023年8月
  • 調査対象期間:2023年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する201社
    ①2023年4月1日現在、JPX400に採用されている
    ②3月31日決算である
    ③2023年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ④日本基準を適用している

【調査結果】

改正企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下「改正時価算定適用指針」という。)が2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用されており、次の取扱いについて改正が行われている。

まず、投資信託財産が金融商品である投資信託及び投資信託財産が不動産である投資信託については、一定の場合に基準価額を時価とみなすことができるとされている(改正時価算定適用指針第24-3項、第24-9項)。この取扱いを適用した場合、有報の「金融商品の時価等に関する事項」と「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」において<図表1>の事項を注記することが求められている。

<図表1> 投資信託財産が金融商品である投資信託及び投資信託財産が不動産である投資信託についての注記事項

  投資信託財産が
金融商品である
投資信託
投資信託財産が
不動産である
投資信託
「金融商品の時価等に関する事項」
  • 貸借対照表計上額、貸借対照表日における時価及びその差額
  • 基準価格を時価とみなす取扱いを適用した投資信託が含まれている旨
改正時価算定適用指針第24-7項 改正時価算定適用指針第24-12項
「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」
  • 時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記しないが、他の金融商品における時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記に併せて次の事項を注記

(1)基準価格を時価とみなす取扱いを適用しており、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記していない旨

(2)基準価格を時価とみなす取扱いを適用した投資信託の貸借対照表計上額の合計額

(3)(2)の合計額が重要性に乏しい場合を除き、(2)の期首残高から期末残高への調整表

改正時価算定適用指針第24-7項 改正時価算定適用指針第24-12項
(4)(2)の合計額が重要性に乏しい場合を除き、(2)の時価の算定日における解約等に関する制限の内容ごとの内訳   定めなし

また、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資については、有報の「金融商品の時価等に関する事項」において、貸借対照表計上額、貸借対照表日における時価及びその差額の注記は要しないこととされており、この場合、他の金融商品における「金融商品の時価等に関する事項」の注記に併せて次の事項を注記することとされている(改正時価算定適用指針第24-16項)。

① 改正時価算定適用指針第24-16項の取扱いを適用しており、貸借対照表計上額、貸借対照表日における時価及びその差額を注記していない旨

② 改正時価算定適用指針第24-16項の取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額

なお、改正時価算定適用指針の適用初年度においては、経過措置として次の取扱いが認められている(改正時価算定適用指針第27-2項、第27-3項)。

第27-2項:改正時価算定適用指針が定める新たな会計方針を将来にわたって適用する。この場合、その変更の内容について注記する。

第27-3項:2019年公表の企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」第26項の経過措置を適用し、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記をしていなかった投資信託に関する金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記については、連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度及び前事業年度に関する注記を要しない。

調査対象会社(201社)について、有報の会計方針の変更の注記における改正時価算定適用指針の記載状況を調査した結果は、<図表2>のとおりである。

<図表2> 会計方針の変更の注記の記載状況

記載状況 会社数 比率
記載あり 影響額の記載あり 2社 1.0%
影響は軽微である旨記載 26社 12.9%
影響がない旨記載 88社 43.8%
影響額に関する記載なし 9社 4.5%
2022年3月期に早期適用済み 1社 0.5%
記載なし 75社 37.3%
合計 201社 100.0%

<図表2>より、影響額を記載している会社は2社しかなく、影響は軽微である旨記載している会社も全体の1割強と、多くの会社にとって改正時価算定適用指針による有報への大きな影響はなかったと考えられる。

有報の会計方針の変更の注記に記載していない場合でも金融商品関係の注記で改正時価算定適用指針を適用している事例がみられる。このため、調査対象会社(201社)について、有報の金融商品関係の注記における改正時価算定適用指針の記載状況について調査したところ、<図表3>の結果となった。

<図表3> 金融商品関係の注記の記載状況

適用している
基準(注)
金融商品の時価等に関する事項における記載 期首残高から期末残高への調整表
会社数 調査対象会社数に占める比率 あり なし
第24-16項 67社 33.3%
第24-7項
第24-12項
1社 0.5% 1社  
第24-7項
第24-16項
3社 1.5% 1社 2社
第24-12項
第24-16項
9社 4.5% 1社 8社
第24-7項
第24-12項
第24-16項
7社 3.5% 3社

4社

(注)それぞれの項番の内容は以下のとおりである。

  • 第24-7項:投資信託財産が金融商品である投資信託について、基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合の時価の注記に関する取扱い
  • 第24-12項:投資信託財産が不動産である投資信託について、基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合の時価の注記に関する取扱い
  • 第24-16項:貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する取扱い

<図表3>より、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、調査対象会社の3分の1で時価の注記を省略できる旨の定めを適用しており、有報作成にあたっては一定程度の影響があったと言える。

他方、投資信託財産が金融商品又は不動産である投資信託について、基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合の時価の注記に関する取扱いを適用している会社は全体の1割程度にとどまっており、また、期首から期末までの調整表を重要性が乏しいとして作成していない会社が多いことがわかる。

(旬刊経理情報(中央経済社)2023年9月20日号 No.1688「2023年3月期「有報」調査」を一部修正)

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