EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 兵藤 伸考
Question
2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)における「従業員の状況」の男性育児休業取得率の開示状況を知りたい。
Answer
【調査範囲】
- 調査日:2023年9月
- 調査対象期間:2023年3月31日
- 調査対象書類:有報
- 調査対象会社:以下の条件に該当する201社
①2023年4月1日現在、JPX400に採用されている
②3月31日決算である
③2023年6月30日までに有報を提出している
④日本基準を適用している
【調査結果】
調査対象会社(201社)の有報の「従業員の状況」から、提出会社に係る男性労働者の育児休業取得率の算定方法を分析した結果は<図表1>のとおりである。
調査対象会社の多くの会社は平成3年労働省令第25号「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(以下「育児・介護休業法施行規則」という。)による計算を採用しており、その大部分は育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号による計算を採用していた。
また、提出会社が持株会社であるなど提出会社の従業員数が300人未満である場合や対象となる男性労働者がいない場合等として記載を省略又は記載していない事例が32社(15.8%)みられた。
<図表1>男性労働者の育児休業取得率の算定方法
算定方法 | 会社数 | 調査対象会社に占める比率 | |
平成27年厚生労働省令第162号「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令」(以下「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令」という。)による計算 | 12社 | 5.9% | |
育児・介護休業法施行規則による計算 | 第71条の4第1号による計算 (注) |
113社 | 55.9% |
第71条の4第2号による計算 (注) |
41社 | 3.00% | |
いずれか不明 |
4社 | 20.3% | |
省略・記載なし | 32社 | 15.8% | |
合計 | 200社 |
100.0% |
(注)育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号及び第71条の4第2号のいずれの計算結果も記載している事例が1社みられた。それぞれの事例を1社とカウントしている。
調査対象会社(201社)のうち、提出会社に係る男性労働者の育児休業取得率を記載している事例169社について、算定方法ごとの取得率を分析した結果は<図表2>のとおりである。
「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令による計算」の平均取得率58.6%及び「育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号による計算」の平均取得率52.9%に対して、「育児・介護休業法施行規則第71条の4第2号による計算」の平均取得率は79.9%と高い取得率となっていた。これは、算定方法について「小学校就学の始期に達するまでの子を養育する男性労働者を雇用する事業主が講ずる育児を目的とした休暇制度(育児休業等及び子の看護休暇を除く。)を利用したものの数」も含まれていることによる計算方法の違いによるものと考えられる。
<図表2>算定方法ごとの取得率分析
算定方法 | 会社数 | 平均取得率 |
女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令による計算 | 12社 | 58.6% |
育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号による計算(注1) | 113社 | 52.9% |
育児・介護休業法施行規則第71条の4第2号による計算(注1) | 41社 | 79.9% |
(注1)育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号及び第71条の4第2号のいずれの計算結果も記載している事例1社はいずれにも含めている。
(注2)育児・介護休業法による計算のうち育児介護休業法施行規則第71条の4第1号及び第71条の4第2号のいずれか不明な事例4社は集計に含めていない。
また、算定方法ごとの取得率の分布について分析した結果は<図表3>のとおりである。「育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号による計算」において、取得率90%超の会社が22社(19.5%)と最も多い一方で、取得率50%以下の会社が59社(52.2%)と約半数を占めており、積極的に取得する会社と分布が二分する結果であった。
「育児・介護休業法施行規則第71条の4第2号による計算」については、前述のとおり育児を目的とした休暇制度も含まれることから取得率の高い会社が多く、取得率が20%以下の会社は調査対象会社の中ではみられなかった。
<図表3>算定方法ごとの取得率の分布分析
取得率 | 女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令による計算 | 比率 | 育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号による計算 | 比率 | 育児・介護休業法施行規則第71条の4第2号による計算 | 比率 |
90%超 | 4社 | 33.3% | 22社 | 19.5% | 13社 | 31.7% |
80%超90%以下 | - | - | 5社 | 4.4% | 11社 | 26.8% |
70%超80%以下 | - | - | 8社 | 7.1% | 5社 | 12.2% |
60%超70%以下 | 2社 | 16.7% | 8社 | 7.1% | 4社 | 9.8% |
50%超60%以下 | 1社 | 8.3% | 11社 | 9.7% | 3社 | 7.3% |
40%超50%以下 | - | - | 13社 | 11.5% | 2社 | 4.9% |
30%超40%以下 | 1社 | 8.3% | 13社 | 11.5% | 2社 | 4.9% |
20%超30%以下 | 2社 | 16.7% | 13社 | 11.5% | 1社 | 2.4% |
10%超20%以下 | - | - | 11社 | 9.7% | - | - |
10%以下 | 2社 | 16.7% | 9社 | 8.0% | - | - |
合計 | 12社 | 100.0% | 113社 | 100.0% | 41社 | 100.0% |
(注1)育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号及び第71条の4第2号のいずれの計算結果も記載している事例1社はいずれにも含めている。
(注2)育児・介護休業法施行規則第71条の4第1号及び第71条の4第2号のいずれか不明な事例4社は集計に含めていない。
(旬刊経理情報(中央経済社)2023年10月10日号 No.1690「2023年3月期有報におけるサステナビリティ情報の開示分析」を一部修正)
この記事に関連するテーマ別一覧
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