2023年3月期 サステナビリティ情報分析 第1回:従業員の状況①(管理職女性割合)

2023年11月17日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大浦 佑季

Question

2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の「従業員の状況」における子会社に係る管理職に占める女性労働者の割合等の記載状況を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2023年8月
  • 調査対象期間:2023年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する201社
    ①2023年4月1日現在、JPX400に採用されている
    ②3月31日決算である
    ③2023年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ④日本基準を適用している

【調査結果】

管理職に占める女性労働者の割合等の記載方法

調査対象会社(201社)について、有報の「従業員の状況」における子会社に係る管理職に占める女性労働者の割合等の記載方法を調査したところ、<図表1>の結果となった。

なお、例えば、「連結子会社として記載するほか、提出会社及び国内連結子会社としても記載」している場合の開示例は<図表2>のとおりである。

<図表1>子会社に係る管理職に占める女性労働者の割合等の記載方法

  記載方法 会社数 割合
連結子会社・連結会社として記載する方法 連結子会社として記載 149社 74.1%
連結会社として記載 4社 2.0%
連結子会社として記載するほか、提出会社及び国内連結子会社としても記載 4社 2.0%
連結子会社として記載するほか、連結会社としても記載 3社 1.5%
連結子会社として記載するほか、提出会社及び主要な連結子会社としても記載 1社 0.5%
主要な連結子会社を記載する方法 主要な連結子会社として記載 4社 2.0%
主要な連結子会社として記載し、主要な連結子会社以外の子会社はその他の参考情報に記載 3社 1.5%
主要な連結子会社として記載するほか、連結会社としても記載し、主要な連結子会社以外の子会社はその他の参考情報に記載 1社 0.5%
主要な連結子会社として記載するほか、提出会社及び主要な連結子会社としても記載し、主要な連結子会社以外の子会社はその他の参考情報に記載 1社 0.5%
子会社の記載なし 記載を省略している旨を記載 6社 3.0%
記載を省略している旨の記載なし 25社(注) 12.4%
合計 201社 100.0%

(注)「関係会社の状況」を確認したところ、このうち子会社があるのは19社であった。

<図表2>「連結子会社として記載するほか、提出会社及び国内連結子会社としても記載」している場合の開示例

① 提出会社
当事業年度 補足説明
管理職に占める女性労働者の割合(%) 男性労働者の育児休業取得率(%) 労働者の男女の賃金の差異
全労働者 うち正規雇用労働者 うちパート・有期労働者
xx.x xx.x xx.x xx.x xx.x  
② 連結子会社
当事業年度 補足説明
名称 管理職に占める女性労働者の割合(%) 男性労働者の育児休業取得率(%) 労働者の男女の賃金の差異
全労働者 うち正規雇用労働者 うちパート・有期労働者
○○株式会社 xx.x xx.x xx.x xx.x xx.x  
③ 提出会社及び国内連結子会社
当事業年度 補足説明
管理職に占める女性労働者の割合(%) 男性労働者の育児休業取得率(%) 労働者の男女の賃金の差異
全労働者 うち正規雇用労働者 うちパート・有期労働者
xx.x xx.x xx.x xx.x xx.x  

<図表1>より、連結子会社として記載している会社が最も多く、全体の約4分の3を占めていることがわかる。また、主要な連結子会社を記載する方法を採用した会社の中でも、「その他の参考情報」に主要な連結子会社以外の子会社について記載している会社と記載していない会社が同数程度あることがわかる。

さらに、子会社がある場合に、子会社に関する記載を省略している旨を記載していない会社が19社と、子会社に関する記載を省略している旨を記載している会社の6件よりも多い結果となった。

なお、子会社に関する記載を省略している理由として、連結子会社は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)及び「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定による公表義務の対象ではない旨記載している会社が5社と最も多く、残りの1社は公表義務について記載するのではなく、これらの法律による公表をしていないことを理由として記載していた。

次に、調査対象会社(201社)について、有報の「従業員の状況」の、提出会社における管理職に占める女性労働者の割合を集計したところ、<図表3>の結果となった。

<図表3>提出会社における管理職に占める女性労働者の割合

管理職に占める女性労働者の割合の記載 管理職に占める女性労働者の割合又は記載がない理由 会社数 調査対象会社に占める割合 管理職に占める女性労働者の割合を記載している会社に占める割合
あり
(174社)
40%超 2社 1.0% 1.1%
30%超40%以下 3社 1.5% 1.7%
20%超30%以下 15社 7.5% 8.6%
15%超20%以下 13社 6.5% 7.5%
10%超15%以下 22社 10.9% 12.6%
5%超10%以下 46社 22.9% 26.4%
3%超5%以下 38社 18.9% 21.8%
3%以下 35社 17.4% 20.1%
なし
(27社)
持株会社 13社 6.5%
公表義務がない旨記載 6社 3.0%
その他 8社 4.0%
合計 201社 100% 100.0%

<図表3>より、管理職に占める女性労働者の割合が5%超10%以下の会社が46社と最も多く、管理職に占める女性労働者の割合を記載している会社の中でも4分の1以上を占めている。

また、内閣府男女共同参画局が2023年6月に公表した「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」においては、東証プライム市場上場企業について、2030年までに女性役員の比率を30%以上とすることを目指すこととされているが、管理職ベースで見ても女性労働者の割合が30%超となっている会社は5社(化学、小売業、サービス業、その他の金融業、陸運業で各1社)と調査対象会社の5%にも達しておらず、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」における目標値を超える会社は少なかった。

なお、管理職に占める女性労働者の割合の最大値は47.1%(1社)、最小値は0.0%(4社)であり、管理職に占める女性労働者の割合が0.0%であった会社のうち持株会社は1社のみであった。

さらに、提出会社における管理職に占める女性労働者の割合を記載している会社について、管理職に占める女性労働者の割合を従業員数のレンジごとに集計したところ、<図表4>の結果となった。

<図表4>管理職に占める女性労働者の割合(従業員数のレンジごとの集計)

管理職に占める女性労働者の割合 従業員数のレンジ
100名以下 100名超1,000名以下 1,000名超5,000名以下 5,000名超10,000名以下 10,000名超
40%超 2社
30%超40%以下 3社
20%超30%以下 1社 5社 8社 1社
15%超20%以下 1社 9社 2社 1社
10%超15%以下 10社 9社 2 1社
5%超10%以下 3社 7社 28社 7社 1社
3%超5%以下 1社 2社 25社 6社 4社
3%以下 1社 5社 23社 4社 2社
合計 7社 43社 95社 20社 9社
平均割合 8.60% 15.50% 7.30% 5.80% 6.60%

(注1)従業員数は有報の「従業員の状況」に記載されている提出会社の従業員数を集計している。

(注2)従業員数の各レンジで会社数が最大となっている箇所をハイライトしている。

<図表4>から、従業員数のレンジが100名超1,000名以下の場合、管理職に占める女性労働者の割合が10%超15%以下である会社が最も多く、管理職に占める女性労働者の割合が30%超である会社が5社あるなど、他の従業員数のレンジと比較して管理職に占める女性労働者の割合が高い傾向にあるといえる。

また、従業員数の各レンジで会社数が最大となっている箇所に着目すると、従業員数のレンジが1,000名超5,000名以下、5,000名超10,000名以下、10,000名超と増加するにつれて、管理職に占める女性労働者の割合は徐々に低下していることがわかる。

このことから、従業員数が多い会社では、相対的に女性の管理職への登用が進んでいない傾向にあると考えられる。

(旬刊経理情報(中央経済社)2023年10月10日号 No.1690「2023年3月期有報におけるサステナビリティ情報の開示分析」を一部修正)